395 朝と朝食と裏庭の作物の収穫
翌朝、俺は仄かな朝日の光が差し込む寝室でそっと目を覚ました。メセタとミルドレシアには気づかれぬよう、ベッドから静かに降りて身支度を始める。パジャマを着替え終えると、リビングダイニングへと足を運んだ。
そこではすでにチャリオットとエリクスがエプロンを身につけ、それぞれ手際よく朝食の準備に励んでいた。二人は時折顔を合わせながらも集中し、包丁を握る手に迷いはない。彼らの姿を見て、俺も手を洗い、慌てずにエプロンをつけ手伝いに参加する。
今日のメニューはサムンギョの塩焼きに加え、味噌汁、お漬物、そしてさっぱりとしたサラダだ。キッチンからはふわりと香ばしい匂いが漂い、部屋全体を包み込んでいく。
その頃、嫁のリッカが明るい笑顔を浮かべながら、息子のライトと娘のユミナを連れてリビングダイニングに入ってきた。二人とももうすぐ人間の年齢で言えば10歳になるが、元気いっぱいで今日も俺のそばに駆け寄る。同じくメセタ、ミルドレシア、そしてヴェネフィットスライムのユーミルも子供たちと一緒に姿を見せた。
みんなが揃い、朝のやわらかな光に包まれながら、今日もまたなんの変哲もないけど大切な一日の始まりがそこにあった。
支度を終え朝食がテーブルに並べられた。焼き魚の香ばしい匂いが部屋中に広がり、味噌汁の湯気がほんのり柔らかく立ち上っている。漬物の彩りが食卓に鮮やかさを添え、サラダのさっぱりした緑が目にも優しい。
「お待たせしたな」と俺が声をかけると、皆がすっと席につき、一斉に手を合わせた。
「いただきます!」
その言葉とともに、みんなが嬉しそうに箸を動かし始める。ライトとユミナは魚を嬉しそうに頬張り、ミルドレシアはサラダを気に入り、メセタは味噌汁の深い味わいに頷きながらも品よく食べ進めている。チャリオットはいつものように控えめな笑みを浮かべつつ、俺の好みを察したのか、細やかな配慮が見て取れた。
やがて食べ終わり、それぞれで食器を片付け始める。ライトとユミナも手伝ってくれて、ワイワイと片付けが進む。俺もスポンジを握りながら、「今日は魚も味噌汁もいい感じだな」と小さく呟いた。
ひととおり片付けが終わると、俺たちはいつものように裏庭へと向かった。柔らかな朝の光に包まれた畑には、瑞々しい作物が朝露に濡れて輝いている。
「今日も元気に育っているな」と俺が声をかけると、リッカがにこやかに笑って答えた。
「毎日、明日も収穫できますようにって願ってるのが伝わってくるわ。」
まずは収穫から始める。トマトは真っ赤に色づき、キュウリは瑞々しい手触りだ。俺とエリクス、リッカは手早く収穫物を摘み取り、チャリオットは丁寧に葉をかき分けながら見守る。そして、その収穫物を専用の青いコンテナに丁寧に詰めていく。
「これで今日の分は大丈夫だな」と俺が言うと、エリクスが頷き、
「フレッシュな野菜たちをお客さんに届けられるって最高だぜ。」
コンテナを持って家に戻ると、チャリオットがキッチンでおやつの準備を始めていた。ふと顔をあげると、出来上がったばかりの利休饅頭が皿に美しく並べられている。
「(利休饅頭……さすがだな、俺の好みをしっかり押さえている執事様め)」と、つい心の中で微笑んでしまう。
みんなでその饅頭をひとつずつ手に取り、「ありがとう」と声をかけ合いながら、ゆっくり、丁寧に味わった。甘すぎず、控えめな緑茶の風味が饅頭の旨みを引き立てていて、朝の穏やかな時間にぴったりだ。
こうして、いつもの朝の一連の流れはゆっくりと、しかし確かに続いていく。小さな幸せを積み重ねていくこのスローライフは、何にも代えがたい心地よさを俺たちに与えてくれるのだった




