388 綺麗な夜空と朝の風景
夜空を見上げたまま、しばらく皆で無言の時間を過ごしたあと、そっと裏庭の草の上に寝転んだ。ミルドレシアが俺の肩に頭を預け、メセタは傍らでしっぽを小刻みに振っている。ライトとユミナは肩車をしてもらいながら、星座の名前をじゃれ合っていた。
「……ああ、やっぱり落ち着くな」
俺が吐息をつくと、リッカがそっと手をつないで隣に腰を下ろす。
「本当に、こんな何でもない時間が一番幸せだよね」
月明かりに照らされるリッカの横顔が優しく、胸がじんわり温かくなる。
ほどなくして、子どもたちが眠気に負けはじめる。
「そろそろお家に帰ろうか」
と優しく声をかけると、ライトが
「もうちょっとだけ……」
と目をこすりながらも立ち上がり、みんなで家へ戻った。入浴を終えた子供たちはそのまま布団へ。チャリオットは薬草茶をいれてくれて、
「お疲れさまでした」と微笑む。
俺はお茶を一杯飲み干し、台所をちらりと眺めてから寝室へ向かった。ベッドルームの明かりを消す前、ふと窓の外に目をやる。星はまだ瞬いていて――明日もまた、平和で穏やかな一日になりますように、と心の中で静かに願う。
――翌朝――
鶏小屋のちいさなコッコッという声で目が覚める。時計を見ると午前6時。かかってきた朝の眩しい光が、今日も裏庭を照らし出していた。寝ぼけ眼のままパジャマのまま台所へ行くと、エリクスが早くも玉ねぎを刻んでいる。
「おはよう、兄貴。今朝は何にする?」
「うん……今日は簡単にフレンチトーストにしようかな。昨日、ミルドレシアのおねだりでとっておいたレフアハニーがあるからさ」
俺がそう言うと、リッカがキッチンに飛び込んできた。
「わあ、フレンチトースト! 私、パン切っておくね」
チャリオットもすぐに生クリームを泡立て器にかけはじめる。みんな、昨晩のまどろみを引きずりつつも楽しそうだ。
手分けして準備を進め、パンを卵液に浸し、バターを溶かしたフライパンへ。ふわっと香る甘いバニラとハチミツの香りに、ミルドレシアがテーブルをぐるぐる回りながら「はやく食べたーい」と尻尾を振る。メセタは優雅に一礼しつつ「極上の朝食をいただくのは、この上ない喜びですな」と微笑んでいる。
完成したフレンチトーストに、クリームとレフアハニーをたっぷりかけて――
「いただきます!」
口に運ぶと、外はカリッ、内側はとろり。レフアハニーのほのかな酸味がふわりと広がり、今日の始まりにぴったりの甘さだ。
食後、ふと窓の外を見ると、朝露に濡れた野菜たちがキラキラと輝いている。
「さて、朝の農作業と洗濯を済ませたら、今日は週に一度の納品日だな」
エリクスが頷き、チャリオットが冷蔵コンテナを開ける。新鮮なジュースや瓶詰めフルーツサンドなどが整然と並んでいる。
「今週も頑張ろうぜ」
俺は皆の顔を見回しながら、心の中で小さくガッツポーズをした。スローライフは、こうして毎日の小さな積み重ねで彩られていく――。今日もまた、最高の一日が始まるのだ。