表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/33

第9話 波佐間悠子は攻略する その2

 クルーゼ王子とは何だかんだ茶飲み友達と言える程度の関係を築くことに成功した私だったが、その一方同時進行で彼の従者であるジェイドとも親睦を深めていた。


 王子との関係は友達~親しい友人くらいの好感度が理想だが、ジェイドとは出来るならもう一歩進んだ親密さになっておきたい。

 従者として・その正体である密偵として優秀な彼が味方になってくれたら色んな意味で心強いという下心もあるが、彼がアリシアに恋愛的に靡かないよう牽制するには、他の女に少なからずの好意を抱いて貰うのが一番安全だと思うからだ。

 人の心をなんだと思ってるんだ!と、"波佐間悠子"の部分が微妙に嫌な顔をしたけれど、アリシアを自分の傍から連れていってしまうかも知れない男なんだぞ?と言う可能性を思い出すと、彼女も黙った。


 ちなみに"エリスレア・ヴィスコンティ"と"波佐間悠子"で二重人格にでもなったのか?と思われそうだけれど、別にそういう訳ではない。

 記憶が二つあって、それぞれにそれぞれが培ってきた経験と、それによって作られた"性格"や"気質"があるので、たまにその二つがごちゃとしてしまって混乱をすることもあるのだけれど、基本的にこの二つは対立しない。

 あくまで"自分自身の一つの面"と言う感じなのだ。


 さて、話を戻そう。

 王子と少しずつ仲良くなるにつれて、彼の従者であるジェイドとも自然に顔を合わせる機会も増えて行く。

 王子への…あるいは王子からの伝言などを伝えてくれるのは彼だったり、彼を通して…ということが多いし、王子が城から離れている時は別として公務で城にいる普段は、彼もまた、お城をうろうろしていれば"偶然"会える可能性も高いのだ。


「御機嫌よう、ジェイド。今日も良い天気ね」


「エリスレア様。本日もご機嫌麗しく存じます。お声かけ頂き光栄です」


 今日の遭遇場所は書庫前。

 "偶然"とは言ったけれど、彼がどの辺りに出現しやすいか、ゲームでの情報だって参考にはなる。

 9割、8割とまではいかなくても、体感7割程度はうまく行ってる気がする。


「今日はお勉強ですか?」


「ええ、少し調べものを。…ああ、そうだ。ジェイド。この間、王子とのお茶会の時に貴方が出してくれた紅茶がとても美味しくて気に入ってしまったの。それで貴方に名前や産地を教えてもらおうと思ったのよ」


「…ああ…、あれですか。…嬉しいですね。あれは自分が気に入って遠方から取り寄せたものでしたので、この国で手に入れるのは少々難しいかも知れませんが」


「あら、そうだったのね?あの後また飲みたくなって、マリエッタに色々と探させたのだけど、見つからなかった訳ね…」


「それはマリエッタさんにも悪いことをしてしまいましたね。…少しだけですがまだ残っていますので、後ほどエリスレア様のお部屋にお届けいたしますね」


「あら…でも、貴方がわざわざ取り寄せたものを貰ってしまっては、私が横取りするみたいで悪いわ」


「エリスレア様も気に入ってくださったのなら、次はもっと多く送ってくれるように注文しますので、御気になさらずに、ですよ」


 彼は、柔らかい表情で微笑む。

 こんな風に気安い世間話だって、スムーズに行えるようになっていた。

 これだって、実は彼が紅茶好き・読書好きみたいなゲームでの設定を知っているからこそ、話のとっかかりとしても使えている。

 なんでも経験だと思うけれど、これは"波佐間悠子"の記憶を使っているから、この世界的にはチートと言えるのかも。


「ありがとう、ジェイド。それなら、その時はマリエッタにお茶を淹れさせるから、是非一緒にお茶を飲みましょう?」


「…自分と、ですか?…さすがにそれは恐れ多いですよ」


「ふふふ。たまにはいいじゃありませんの」


 わたわたと少し動揺した顔を見せるジェイド。

 眼鏡が少しずれて、長い前髪の隙間から目が見える慌てた顔はちょっと可愛い。

 ついつい意地悪を言いたくなってしまうのは、攻略とかは関係なしに私の…エリスレアの方の性格があるのかも。やり過ぎないように気をつけなくっちゃね。


 からかわないでください…なんて困ったように微笑むジェイドの顔を満足した気持ちで眺めながら、私はゲームの時の好感度についてを考えていた。

 悠チェリの好感度はMAXが200。初期値は50(※これは、ゲームの主人公(アリシア)の場合、設定する星座と血液型で多少変化するが)大体半分の100あれば友達・友人といった感じになり、150も行けばこちらに惚れてる状態といえる感じだった。

(※反対に初期値の50未満になると険悪・嫌われている感じになる)


 王子もジェイドも、挨拶や会話での雰囲気から、この感じなら少なくとも100~120くらいまでは稼げているんじゃないかな…なんて予想を立てる。

 うっかり告白イベントなんて起こってはそれはそれで厄介なことになりかねないので、上げ過ぎてはダメ…という事は肝に銘じつつ、"波佐間悠子"からしたら大好きなゲームの登場人物と仲良くなれるのは普通に嬉しいので、ついついやり過ぎてしまいそうになる。

 先ほどの「自室で一緒にお茶を」…なんて誘いもそうだ。

 ついつい調子に乗って言ってしまったことだけれど、多分こういう積み重ねが悪かったんだろう。

 私は自分が思ったよりも大分彼との好感度が上がっていたことに、この時はまだ気がついていなかったのだ。



************


「お嬢様の我儘にどうか付き合ってくださいませ。自分の思うように行かないと機嫌が悪くなってしまって困るのは私なんですから」


 メイドの癖に生意気だ!!!と本来であれば、処罰も待ったなしの失礼発言を繰り出すマリエッタ。

 元々良い性格だった疑惑もある彼女だが、私としても最近はまぁまぁそこを面白いと気に入っていたので、ちょっとしたお仕置きをするくらいで見逃してあげていたのが悪かったのか、約束の茶葉を部屋に届けてくれたジェイドにもこんな風に言い放った。


【私】あのときに話した通りに彼をお茶に誘う→【ジェイド】ただの従者がそんなこと出来ないと断る→【マリエッタ】うるせー!お嬢様の命令だぞ!!!さっさと座れや!…と言うことである。

 まったくとんでもないメイドである。


 けれど、私はその理由も気がついていた。


 この女…何か勘違いしているな???????

 どうやら、私がジェイドに惚れていて、王子に隠れて彼と逢瀬を楽しんでいるのでは???と思っているようだ。

 以前、運命の相手がどうのなんて話をしてしまった後に、こんな風に男を連れ込むようなことをしてしまったせいかも知れないし、お城で度々彼と話している姿を見て、メイドたちも密かに噂していたのかも知れない。

 お嬢様の恋を応援しなくちゃ!!!!とでも思ったのか、ただのゴシップ精神か、少しばかりいつもよりも目を輝かせたニヤニヤ顔で「どうです、お嬢様!ナイスサポートでしょう!!!」とでも言いたげなドヤ顔で私に視線を送ってくるのを、私はとりあえず無視した。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ