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第28話 絡み絡んでこんがらがって

 渡り廊下の柱の影で、アリシアとクルーゼ王子を盗み見ていた私…とジェイド。

 その仲睦まじく見える二人の姿が、私たちが身を隠した柱の前を通り過ぎ、渡り廊下から完全に去って行くまで、私は息を殺して耐え続けた。

 胸がなんだか苦しいのは、酸素が足りないからという訳ではないと思う。


 彼らが二人並んで歩く姿を見て"お似合い"だと思ってしまった。

 その事実はとても大きな敗北感を私に与えていた。


「…王子とアリシアは、随分と仲がよろしいようですわね…」


 二人が渡り廊下から去って行った後、またごちゃごちゃと色々考えてしまっていた私が、何とか少しばかりの冷静さを取り戻した頃、私はジェイドが困ったような表情でこちらを見ているのに気が付いた。

 何とかその場の雰囲気を誤魔化そうと口から出てきたセリフには、やっぱりジェイドは困ったような顔をしている。

 そして、なんとなく言い難そうな雰囲気のまま口を開いた。


「…え、ええ…。アリシアさんは天真爛漫な人ですから、王子も驚かされることも多いようですが、最近は楽しそうにお喋りされていることも多いですね…」


「そ、そうでしたの…」


 ある程度わかってはいたつもりだったが、やはり改めて言葉にされるとショックが大きい…。アリシアに関してはどうにも頭が馬鹿になってしまう私だ。

 ポーカーフェイスも作れず、表情に出てしまっていたようだった。

 ジェイドがますます心配そうな顔になっていくのがわかった。


「エリスレア様…。貴女は…あの方のことを…」


 色々と醜態も見せてしまったことだし、これ以上適当には誤魔化しきれないか…と諦めた私はもうある程度話してしまおうと思った。前世での私がどうの…というのはさすがに触れないけれど…。


「…変な気を回さないで下さいませね。これはわたくしの問題ですから…」


「…ですが…」


「わたくしのこと愚かだと思うかしら?」


「そんなこと、ある訳がありません!」


 珍しく語気が強いジェイドの言葉に私は少しびっくりしてしまった。


「…そ、そう?」


「…も、申し訳ありません…。と、コホン… 失礼しました…。愚かだなんて思う訳がないです…。貴女は、王子とはもともとご婚約なさっているようなものでしたし、アリシアさんとも仲の良い友人である訳ですから…」


「………」


「…お立場もあります。複雑な気持ちになってしまうのは当然だと思います」


「…そうかしら…」


「…そうですよ。…ですから…あまり思い悩まないでください。…自分ではお力になることが出来ないのは心苦しいですが…。」


 好感度を下げようと酷いことをしようとした相手に慰められてしまった…。

 こちらの都合で優しくしたり冷たくしたりしている身勝手な私を、心から心配してくれている彼の好意を、まるで面倒くさいもののように扱っていることには、罪悪感が沸いてしまうし、私だって、アリシアのことがなかったら、こういう優しい男性と結ばれることが出来たらきっと幸せになれるんだろう…なんて考えたりもしてしまう。

 …それが出来ないから、こんな風になってしまったのだけど。


「…こんなことを貴方に頼むのはお門違いであるのはわかっているのですけれど…、わたくしのことを心配して下さるなら、あの二人に何かありましたら教えて下さると嬉しいですわ」


「え…」


「…もちろん無理なら良いですけれど」


「い、いえ、自分に出来る範囲でしたら…」


 ちょっと強引だったかも知れない。

 けれど、また一人でぐだぐだ悩んで落ち込むのも嫌だった。

 これまで以上にジェイドの気持ちを利用して、振り回して、傷つけ続けるのか?って考えると罪悪感は酷いけれど、それでも私はこの気持ちを我慢して彼女を諦めるなんてこと出来ないんだ。


「…わかりました。自分はエリスレア様の味方です」


「……」


 私が思ったよりも力強くそう言い切ったジェイド。


「王子と貴女が無事に結ばれることが出来るよう、陰ながら応援させて頂きます」


「え?」


 続いた思わぬ提案に私がびっくりして顔を上げた時に見えた彼の表情は、あまりにも切なげで真剣で…。


「あ、え、えっと―…あー…」


「それでは今日は自分はここで失礼します」


 そのまま頭を下げ去って行く後姿を引き留めることすら出来なかった。


「…………」


「…………」


「…………」


「…………」


「………私と、王子の応援?????????」


 口からぽろりと零れ落ちたその言葉は、

 我ながら盛大にお間抜けな響きで私自身の耳に届いた。


 素直に受け取ったら彼が"そう"受け止めるのが当然だと言うことに、すぐには気が付けないくらい、私の頭はやっぱり馬鹿になっていたようだった。


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