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まいごの迷子の人型兵器  作者: 奥雪 一寸
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第三章 迷子の人型兵器、初仕事に出掛ける(1)

 レムラーラという国についての説明の前に、窓口の女性は、名前を教えてくださいました。

「まず、私は、あなた達お抱え冒険者への、仕事の斡旋、報酬の受け渡しを担当する、リミア、といいます。よろしくネ。あ、それと、あくまで、クライアントはこちらですので、お忘れなきよう……なんてね。言ってみたかっただけです。あなたなら、そんな冗談も許してくれそうかなと、思ったもので」

「はあ……」

 いきなり調子が変わった女性の様子に、私も一瞬反応に困りました。ひょっとしたら、今までの態度はお客様向けの顔で、こちらが素なのかもしれません。

「ってことで、今回の仕事の説明にちゃちゃっと入りますね! あなたに今回お願いしたいのは、さっきも言った通り、掠め鳥の駆除です。場所はミーングノーブの北、すぐに見える北嶺の腕です。地図で言うと、この辺りですね」

 若干態度の変化についていけない私にまるで気付いていないかのように、地図を開き、リミアは仕事の説明をはじめます。大事な情報になりますので、ひとまず困惑は忘れて、しっかりと聞いておくことにいたしましょう。

 リミアが地図で指差したのは、ミーングノーブの北に聳える山脈の麓、輪を描くような地形の台地に囲まれた窪地でした。成程、地名の由来は何となく納得がいきました。

「総数は不明。見つかっただけ片っ端から倒しちゃって頂戴って話です。一応、一〇体以上の駆除で成功としてくれるって話だけど、倒せば倒しただけ追加報酬もくれるって話ですよ。稼ぐチャンスですね。成功報酬は最低五〇〇ゴールド。追加報酬は、そこから一体倒す度に一〇です。三〇〇でも四〇〇でも倒して、がっぽり稼いじゃってください。……まあそれは冗談として、欲張って無理はしないでください。命あっての物種ですからね。掠め鳥についての詳細説明はいります?」

「事前情報は貴重です。お願いできますか?」

 ターゲットを間違える恐れもありますし、聞いておいた方が良いのは間違いありません。私はその掠め鳥という生き物を、見たことも聞いたこともないのですから。

「分かりました! 掠め鳥は平均的には、羽根を広げると一メートル五〇センチメートル程の、それなりに大きな鳥類です。体色は黒、黄色い嘴をしています。大きい烏みたいな見た目をしてますから、すぐ分かるでしょう。危険な攻撃もなく、魔法も使いませんが、兎に角すばしっこく飛び回り、集団で荷馬車の積荷を掠め盗る習性があることから掠め鳥という名がつきました。巣は北嶺の腕にあることは分かっているのですが、行動範囲が広く、ミーングノーブの周辺の街道も奴等の行動範囲内になっています。商人達にとっては大事な商品を盗まれるか、持っていかれなくても積荷を駄目にされるというだけで天敵みたいなものです。皆さん困っているので、どうかよろしくお願いしますね!」

 確かに、それは害鳥と言って差し支えないでしょう。掠め鳥も生きる為にやっているのでしょうが、だからと言って皆に我慢しろという訳にも参りません。駆除が必要ということは納得しかありません。その為に軍兵器が出撃するのは過剰ではないかと言われれば、疑いようもなくその通りなのですが、しかし、困っている方が実際にいる話を聞いて、やはりやめておきますとは申せません。

「他に注意点等はございますか? 場所的に火を使うと危険とか、いつも場所柄濃霧が立ち込めているとか、土地柄的な注意点があれば、それも、情報をお願いしたいのですが」

 私の質問に、リミアはとてもいい顔で満足そうに笑い声を上げられました。

「いいですね。とてもいいです! ちゃんと慎重なのはとっても頼もしいです! たまにいるんですよ、確認不足で飛び出して行って、自分の魔法で自爆して大怪我する人」

 聞くだけで不憫になります。自業自得とはいえ、それを笑う気にはなれません。リミアも声色は明るかったですが、楽しい話題と考えている訳ではなさそうでした。半分、苦笑いといったところです。

「その心配を事前にするだけでも、ひとまず粗忽者じゃないと安心できます。そうですね。視界は非常に悪いです。北嶺山脈からの落石なんかがゴロゴロしていますから。長柄武器なんかも振り回しにくいかもしれません。足場にも気を付けてください。小石や砂利で足場が悪いところも多いです。連中の巣は岩の崖にあって、人の手は届かないので、見つけられたら潰す程度でいいので、無理して崖をよじ登ったりしないでくださいね。怪我をして救援を出すのも私達ですから、あんまり迂闊な遭難をした場合、捜索費用を逆に請求しますよ?」

「畏まりました。留意いたします」

 注意事項は、私にも間違いなく理解できるものでした。

 万が一、私が動けなくなった場合、それこそ運んでいただくのも大変な騒ぎでしょう。そのようなことになる訳にはいきません。まだ本格的に戦場に出たことはない訳で、実際の状況下で、どのような不具合が出ないとも限りません。油断せず、堅実に行かねばなりません。

「では、これを持って行ってください」

 リミアは最後に、小さな指輪を手渡してきました。私には何の為のものか分からず困っていると、

「倒した掠め鳥の数を自動的にカウントするよう、魔法が掛かった指輪です。あと、万が一、レスティーヴァさんが遭難した時の、所在を探知可能にする能力もあります。絶対に無くさないよう、お願いしますね」

 リミアにそう説明頂き、納得しました。一旦マニュピレーターで受け取っておき、あとで人に見られない場所でコクピットに収納しておくことにしましょう。

「メリッサはここでお待ちになっていてください。必ず迎えに来ますので、街を離れませんよう、お願いします」

 私はメリッサに同行いただくつもりはなく、メリッサも同じくついてこられるつもりはないようで、

「ええ。行っても邪魔になるだけでしょうし、商会で待っているわ。気を付けてね」

 と、頷いてくださいました。それを聞いて安心します。

「では、行ってきますね」

 リミアに告げて、窓口を離れることにします。そんな私の背中に、

「頑張ってきてくださいね。我々ローディル商会は、レスティーヴァさんの活躍を、期待しています」

 リミアのそんな言葉が掛けられました。期待と信用に応えられるよう、気を引き締めて行きましょう。私は軽い緊張感とともに、ローディル商会をあとに致しました。

 ミーングノーブの中では歩行で移動し、いきなり変形するような目立つ真似は致しません。それでも道行く方々が振り返る程度には目立っているのですから。

 やはり完全武装の旅人にでも見えるのか、特に、武装した傭兵、ローディル商会の言う冒険者達が興味深げに視線を向けてくるのが気になります。仕事前に余計な面倒事は避けたいところですが、ひょっとしたらそうもいかないかもしれません。

 私の懸念は的中しました。

 もう少しでミーングノーブの門を出るというところで、

「ねェねェ」

 と、一人の少年に呼び止められてしまったのです。私は仕事前であることを説明し、立ち去る選択を致しました。

「申し訳ございません。これから掠め鳥の討伐なのです。先を急ぎますので失礼します」

 そう言って、足を止めずに私は歩き続けました。

「一人でェー? ヒェーッ! 随分豪気なもんだぁ。相当腕がたつんだねェ。ほゥほゥ」

 梟のように声を上げ、少年は私と並んで歩きはじめます。私も結構な速度で歩いているのですが、それに追いついてくるのですから、当然、相当に鍛えていらっしゃるのでしょう。

「だけどさ、その重装備で、掠め鳥を相手するのは厳しかない? ヤツラ素早いよー?」

「そう伺っております。かなりの速度で飛び回ると。しかしこう見えて、私も、むしろ高速戦闘の方が、得意なのです」

 私は心配ないと伝えました。私の言葉に、少年の目が、やや鋭くなった気が致しました。まるで獲物を見つけたような。

 ――ですが。

「ま、仕事前に邪魔するのはダメだよねェ。また会ったら相手してチョーダイ。じゃねー」

 少年はそう言って、道端に離れて行きました。その聞き分けの良さが却って不気味で、私は彼の姿を記録しておくことに致しました。

 背は思ったより高く、どちらかというと痩せ型です。髪を毒々しい緑色に染めていて、瞳は深い黒。肌が浅黒く、黒く染めた革のコートを纏っていました。少年は私がそれとなく観察したことに気付いたのか、

「デューンだ。良かったら覚えておいてねー」

 自分から名乗り、私に、背を向けたのでした。気になりましたが、今は追う訳にも参りません。

 優先すべきは、少年の素性を明らかにすることでなく、任された仕事をこなすことです。私はそのまま、ミーングノーブを、あとにしました。

 デューンが、立ち去る振りをしながらも、街を出る私を見ていることは、気付いておりました。


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