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まいごの迷子の人型兵器  作者: 奥雪 一寸
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第二章 迷子の人型兵器、商会お抱え傭兵登録をする(4)

 フィールドから窓口に戻った私達を、男性の代わりに対応してくださったのは、今度は女性の方でした。

 長い栗色の髪と、やや色の薄い青っぽい瞳が綺麗な方です。肌の色は透き通るようで、あまり外回りとかはされないのだろうなという印象でした。

「フェレムが何だか疲れた様子で休憩に入りましたが、粗相でもございましたでしょうか」

 女性はそうおっしゃり、やや不安そうにされていました。そうではない旨を説明したかったのですが、なかなかどうして、実際にあったことを驚かせずに説明することは難しいものでした。

「いえ、私があまり他では見ない武器を使うので、その威力に驚かれてしまいまして」

 手にしたライフルを僅かに掲げてみせ、私はそう答えることに致しました。それ以上の答えが思いつかなかったものですから。

「それで、試験の結果は、あなたにも伝わっているってことで、良いのかしら?」

 メリッサは、そんなことよりも、と言いたげに、再試験などということになることはないかということを確認されました。何度やってもほぼ同じ結果は出せるのですが、ロックオンシステム、所謂、火器管制システム(FCS)とて完璧という訳ではありません。相手が激しく動けば外れることもございます。ボロが出る前に、終わりにしたいのが本音です。

「はい、大丈夫です。伺っています。なんでも、長射程の光魔法で、すべての飢え狼をあっという間に薙ぎ払ったとか。世の中には凄まじい魔法もあるのですねえ」

 窓口の女性は頷いて満面の笑顔をメリッサに向けます。それを聞いて、私もほっとする気分でございました。

「さて、こちらとしては、お嬢様の紹介でもありますし、是非、登録いただければありがたいのですが、このまま登録で、宜しいですか? それとも、もう少し熟考されてから改めてにされます?」

 窓口の女性に問われましたが、答えは即答です。その為に来たのですから。

「では、今すぐお願いできますか?」

 私に迷いはございません。それはそれで魅力的な話かもしれませんが、自律行動できる兵器のコンピューターが優柔不断というのも、かなり怖いでしょう。

「ありがとうございます。では、手続きに移らせていただきますね」

 女性は笑顔のまま、こちらに頷かれました。それから、空中に、手続きについての説明文書を、おそらく魔法なのでしょう、まるでホログラムモニター表示のように出力されました。文字は街中に掲げられた看板や張り紙などを解析済です。私に読めない程難しい文章でもございませんでした。

 手続きはそれ程難しくはないらしく、名前と、職業と、得意分野の自己申告制のようでした。

「ではまず。お名前をお願いします」

 女性の質問に、

「レスティーヴァセブ……いえ、レスティーヴァです。姓はありません」

 私は答えました。レスティーヴァⅦと名乗っては、おそらく姓と間違えられることでしょう。フルネームでお願いします、と言われてしまっては困ります。

「有難うございます……では、続いて職業を」

 これも難しい質問ではありません。私は正直に答えました。

「マルチロールボットです。MBと書いていただいても結構ですよ」

 マルチロールボットというのは、外宇宙用人型汎兵器の総称です。そして、私のようにレスティーヴァの名を継ぐ機体には、特別な意味を持つ名称でもあります。

 もともと、初代レスティーヴァの頃には、まだマルチロールボットという兵器種別はなく、逆に、マルチロールボットという兵器種別が造られたのが、ほかならぬ初代レスティーヴァがそれまでの兵器種別に収まらない汎用性を発揮したからと言われているのです。

 それ以前にも人型兵器はあったのですが、その頃はアストロボットという種別で呼称されていました。宇宙用の飛行機、アストロプレーンの派生機械であり、そもそも、両者ともに軍事用に限らず、民間用の非武装の機体も存在していました。戦闘用アストロプレーン同様、戦闘用アストロボットも、艦載機として、短距離三次元的戦闘を行うことが目的の兵器でした。高速戦闘はアストロプレーンに一歩及ばないものの、それに対し、アストロボットは小回りが利き、敵艦の制圧もできる、という風に役割分担が分かれており、同じ艦載機の範疇に収まっていたのです。

 勿論、初代レスティーヴァも、当初はその為の機体の範疇から外れた兵器ではなかったと言います。もっとも、初代レスティーヴァも可変機であり、つまり、アストロプレーンとアストロボットのいいとこどりが目指された機体だったらしいと聞き及んではおります。

 そして、外宇宙からの脅威の飛来という、人類史上例を見なかった未曽有の危機に際し、初代レスティーヴァは、成り行きから、最終的に母艦なしで外宇宙を渡り、敵本星への単独潜入及び敵中枢の破壊という、とてつもなく成功率の低い任務を成功させたのです。その貢献は、アストロボットの拡張性と汎用性、何より可能性を明らかにした出来事となり、以降、単なる小回りの利く艦載機、という扱いから、艦載機任務から単独任務まで何でもこなせる超汎用兵器に格上げされました。それが、マルチロールボットです。

 当然ながら、しばらくは短距離専用のアストロボットも撤廃はされませんでしたが、やがてシステムが高効率化、低コスト化が見込めるようになると、マルチロールボットだけあれば良いという結論に至るのも自然なことで、やがてアストロボットは、役割ごとマルチロールボットに吸収され、姿を消していったと、言われています。

「はあ、え? あの」

 と、登録手続きに当たっていた窓口の女性の手が止まります。

 困りました。聞き流して、そのまま登録いただければ良かったのですが、やはりそう都合よくはいかないようです。

「駄目ですか? では、戦闘ロボでは如何でしょうか」

 一応、こちらも初代から続く自らの存在意義には忠実であるつもりでいます。嘘をつくことはできませんでした。

「せんとう……ろぼ?」

 当然、聞いたこともない言葉である筈です。酷く困惑させてしまいましたが、しばらく悩んだ顔を続けてから、再び手を動かし始めました。

「……深く考えないことにします。わたしの勘はけっこう当たるんですよ? その勘が告げてるんです。深入りしちゃいけないって」

 やや疲れたように笑った女性の顔には、ある種の諦めのような境地が浮かんでいました。間違いなく、考えないことにしたご様子でした。

「ありがとうございます」

 間違ってはいないでしょう。私もそれは認めるところです。私の存在は、一歩間違えれば、それ自体が壮大なトラブルの元になり兼ねない自覚はあります。テラ・イクシオスを揺るがす大事件を起こす訳にも、参りません。詳細は、伏せておいた方が、お互いの為なのかもしれません。

「もっとも得意としている分野から、できれば三つ程教えていただけますか? 魔術、ですとか、剣、ですとか、弓ですとか」

 女性はため息を深くつき、事務的な質問に戻られました。私の得意分野は、単純技能で答えるには、複雑なものです。いい表現が見つからず、仕方なしに、私はそのままを答えるように致しました。

「射撃戦、広範囲哨戒、格闘戦、の順でしょうか。苦手という程ではありませんが、水中戦能力はやや控えめです。あと、格闘戦を三番目にしたのも、苦手というより、私が攻撃すると、射撃でも白兵戦でも、基本的に威力が高すぎて、ターゲットが、周囲の方にお見せできる状態でなくなってしまうのですが、白兵戦ですと、戦闘後の状況が周囲の方の目にも晒されてしまうので、できれば控えたいという意味になります。遠距離なら、わざわざ確認しに行かなければ済む話になりますから」

 上手い事蒸発してくれればいいのですが、そうでない場合、あまり見るのはお勧めできない惨たらしい光景が予想されます。それを目の当たりにさせるのは忍びなく思うのです。

「は、はあ」

 よく分からない、と仰るように、窓口の女性は首を捻ってから、やはり、詮索はしない、ということに決められたようでした。

「射撃武器が得意ということは、空中戦なども対応いただくことも可能と考えて宜しいですか?」

「勿論です。むしろ地上戦より、そちらの方が戦いやすくはあります。集団戦でなければ」

 当然の答えと言えるでしょう。――味方を巻き込むのは、流石に、少々考えものです。

「単独の討伐依頼などの方が得意、と……」

 どうやら備考を追記されているようです。女性の口から、そんな呟きが漏れていました。

「で、あれば、ひとつ、早速うってつけの仕事があるのですが、やってみませんか? 掠め鳥という非常に厄介な猛禽類の駆除です」

 名前からすると、積み荷を奪っていく盗人のような鳥、と考えればよいのでしょうか。いずれにせよ、たいした敵ではないでしょう。

「やりましょう」

 二つ返事で、私は引き受けました。


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