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まいごの迷子の人型兵器  作者: 奥雪 一寸
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第二章 迷子の人型兵器、商会お抱え傭兵登録をする(3)

 ひとまず、話だけでもしてみることに纏まり。とはいえ、夜間に商館の戸を叩くのは迷惑でしょうから、訪問は翌日にしようということになりました。

 翌日。

 メリッサやエリーナの朝食が終わるのを待ってから、メリッサに付き添っていただき、商館を訪れた私は、メリッサの父に直接お目通りすることこそ叶いませんでしたが、商館務めの若い男性から、登録傭兵についての説明を聞かせていただくことができました。

 商館は、ミーングノーブの、メイン通りに面した大きな建物で、メリッサ達のお屋敷と同じように、四階建ての建物でした。煉瓦造りで、赤みを帯びた外観は、人の目では、街並みの中でもひと際華やかに見えるのかもしれません。

 男性が説明してくださった内容は、要するに実力を見せろ、というものでした。

「登録傭兵、というか、お抱え冒険者です。こちらが斡旋する仕事は、積み荷や駅馬車の護衛が主ですが、他にも、街道沿いに出没が報告された際には、危険な猛獣の駆除や、蛮族や山賊といった危険な人間を相手にしていただくこともあります。知っての通り、我々の国は、国民のほとんどが何らかの魔法の修業を積んでおり、多少の危険には対処可能なので、誰にでも対処できる程度の危険への対処をお願いすることは、ほぼありません。ですから、多少、腕に覚えがある程度では、務まりませんので、登録いただく前に、最もポピュラーな街道沿いの危険である、飢え狼に対応可能であることの確認試験を実施させていただきます。逆に言えば、試験に自信があるのであれば、身分、身元など、その他は一切問いません。試験は実戦形式ではありますが、襲ってくる獣は幻影ですので、怪我の危険はありません。ただし、こちらで一定以上のダメージが見込まれる攻撃を受けたと判定した場合、その場で試験は中止、不合格となります。ご注意ください。如何されますか?」

 そんな説明を聞きましたが、正直拍子抜けではあります。狼程度であれば、何十頭いようが敵ではございません。魔法の国云々は、私にとっては全然知っての通りのことではございませんが、そこは、まあ、聞き流します。

「畏まりました。お手数ですが、試験を受けたく、宜しくお願いいたします」

 私の返答は、当然、とてもシンプルなものとなりました。

 試験はいつでも可能とのことでしたので、すぐに実施いただくことにし、試験用のフィールドに移動します。どうやら、試験場所自体が、即席で造られた、シミュレーションフィールドのようでした。実体で立てる仮想空間と申しましょうか、とても奇妙な体験です。

 男性もフィールドにはついて来ました。フィールドへ移る際に、私も、早速、魔法というものを見ることができ、それは男性が操った瞬間移動の魔法でした。

 試験には、心配しているのでメリッサも立ち会いたいと希望され、一緒にいます。ターゲットは幻影ということでしょうし、危険もないでしょう。私も立ち合いを拒否致しませんでした。

 試験環境は森の中を想定したフィールドです。視界は悪く、有視界範囲には、ターゲットはおろか、私と男性、メリッサ以外に動くものは見せません。人間にとってはおそらく危険の多い環境と言えるでしょう。

「フィールドは一辺一キロメートルの正方形のエリアとなっています。この中に一〇〇頭の飢え狼がいますので、倒せるだけ倒してください。説明は以上です。では、いつでも始めて頂いて構いません」

 男性の説明のあと、早速試験です。私は射撃準備に掛かりました。

「承知しました」

 レーダーモード、生体感知。

 ロックオンシステム、バイオトレース作動。

 エネルギーブラスター、出力最低。

 弾種、8WAYホーミング・バレット。

「……狼?」

 思わず、私は怪訝に思います。二足歩行していますが、本当に狼なのでしょうか。ただ、確かにきっちり一〇〇頭サーチできたので、ターゲットに間違いはないと思うのですが。

 ただ、問題はありました。生体バイオトレースモードでは、ロックオンが掛かりません。成程、幻影でしたね。生物として、私のシステムには認識されないようです。

 ロックオンシステム、仮想モジュール作動。

 ロックオンシステムを切り替えます。実際には存在しないターゲットを打ち抜く、デモンストレーション用モードです。あまり使うことは想定されていない筈のモードでしたが、まさか初めての射撃がこのモードになるとは、私も夢にも思っておりませんでした。

 今度はロックオンできました。仮想ターゲットとして、私の認識ではこの試験用の幻影クリーチャーは識別されるようです。

 さて、ここで皆様にもう一つ、補足説明しておかねばならないでしょう。私は外宇宙戦闘用です。つまり、私の兵装射程は宇宙距離です。そして、宇宙での飛行は、たいへんな高速になります。でなければ宇宙は広すぎるからです。ご存じでしょうか。宇宙では一キロメートルというのは、ほぼ、白兵武器の出番の格闘戦の距離です。その距離まで接近した状況では、瞬く間に擦れ違ってしまうからです。そこまで接近される前に、いえ、もっと離れた距離で、先制射撃で片をつけるのが、理想なのです。何が申したいかと言いますと、この試験、開始地点から、反対の端まで、私のライフル型エネルギーブラスターは、大気圏内でも、問題なく届きますし、最も大気圏下では大気中の浮遊物や、重力等の雑多なエネルギーの影響による多少の減衰がありますが、それでもなお、一キロメートル程度の距離であれば、十分な殺傷能力があります。

「お下がりください。隣にいるとたいへん危険です」

 そう申し上げ、メリッサと男性に少し離れて頂いてから、

「ファイア」

 男性やメリッサに対する警告も兼ねて、敢えて声に出して射撃を知らせます。

 地面に水平にではなく、だいぶ上空に銃口を向けて、エネルギーブラスターを連射します。空に向けて撃つのは、言わずもがな、障害物に当たってしまうことを避ける為です。一度に八発、瞬間だけチャージが入りますので、発射速度は、このモードでは、一分間に六四×八発です。一分間で最大五一二のターゲットが撃ち抜ける訳で、要しますに。

「終わりました」

 一発で沈黙させられることが分かっているターゲットですから、一〇〇の撃破であれば、一五秒もかかりません。おまけにこちらはターゲットからすれば射程外です。動く必要さえありません。勿論、私の宇宙であれば、最低限度できなければ困ることを、したまでに過ぎません。この程度もできないようでは、単純に役立たずになってしまうだけなのです。

 少なくとも、レーダーに感知されるターゲット反応はすべて消滅しました。何ならお代わりを出していただいても問題ない程です。ホーミングも全く問題ないようです。不意打ちで、ほぼ動かないターゲットだったとはいえ、全弾命中ですから、良い精度ではないでしょうか。

「なんと」

 もっとも、エネルギーブラスターの射撃など、テラ・イクシオスの方が見たことがある筈もありません。試験を実施くださった男性も、どう表現して良いか分からないという顔で、言葉を失っておられました。

「どういった、魔法でしょうか」

 彼の中では魔法ということで解釈を片付けたようです。理屈が分からなければ、それが科学技術の結晶であることなど分かる筈もありません。

「そのようなものです。ところで、私は正確に、その、飢え狼というものを存じ上げないのですが、ターゲットに間違いはなかったということで宜しいでしょうか」

「はい。ええ、はい」

 男性は大きく頷かれました。他にターゲットが見つからなかったとはいえ、間違いなくてほっとします。無関係なものを誤射するのは、例え幻影であっても気持ちいいものではございません。

「試験の結果は、合格で良いのかしら?」

 メリッサは、分かっていた、と言いたげに平然とした顔をされていました。意外な程に順応性が高いのでしょうか。

「はい。ええ、はい」

 私の諮問の時と同じ言葉を、男性はまた口にしました。とりあえず魔法ということで納得しようとはしているものの、自分が見たものが信じられず、どうにも頭の混乱が収まらない、といったご様子です。

「驚かせてしまったようで、たいへん申し訳ございません」

 私が謝罪を述べると、

「いえ、大丈夫。たまに、ええ、ごくたまにいます。とんでもないことをしてくれるひとははじめてじゃありません」

 そんなことをおっしゃいました。他の方についてのその、とんでもないこと、には少々興味がありますが、今はあまり突くべき話題ではなさそうです。

 いずれにせよ、私は無事合格しました。

 あとは窓口で本登録を済ませるだけです。

「私は少し休憩します……」

 と、男性は仰って離れて行きました。そのまま登録いただきたかったのですが、それは兎も角。

 名前をお聞きするのを忘れてしまいました。


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