表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
まいごの迷子の人型兵器  作者: 奥雪 一寸
23/24

第六章 迷子の人型兵器と少女は、魔法の国の空を飛んだ(3)

 浮遊要塞を一回パスし、上空へ出ます。浮遊要塞より低高度にいると、もし砲撃があった場合、避けると市街に流れ弾が落ちてしまいます。それだけは確実に避けねばなりません。

 浮遊要塞の上をとり、武装を確認しながら旋回します。砲塔のようなものは、上部には見当たりませんでした。厄介です。確実に砲台と呼べるものがない場合、逆にいえば、何処から迎撃があるか分からないという事です。まさか無防備という事はありますまい。

 少しだけバリアを掠めて飛ぶと、案の定、砦の窓の奥から、雨霰と速射砲のような光弾が飛んできました。これまでの魔族が放った魔法ではありません。明らかにエネルギーマシンガンレベルの対空砲の弾丸でした。勿論私から言わせてもらえば旧式の兵器レベルであり、数発当たったところで私のバリアに問題は生じませんが、あまり当てられ続ければ、流石にダメージになるでしょう。文明レベルを考えれば、驚くべき威力といって良いです。これだけの兵器を開発したのであれば、強気に出るのも理解できます。

 バリアの強度を観測予測で算出してみましたが、やはり魔法的なバリアというものを機械的に数値化して観測するのは困難であるのか、測定不能の結果で終わりました。かくなる上は威力計測を行うほかありません。平たく言えば、実際に弾を撃ちこんでみるという事です。早速、エネルギーブラスターの出力を1.000%まで上げ、ライフル弾を撃ち込んでみますが、得られた結果はなしの礫で、浮遊要塞のバリアは揺らぎもしません。逆にライフル弾が飛んできたことに自動反応したのか、迎撃の弾幕が飛んできました。ほぼばら撒いているだけに近い、ロックオンされた弾ではありませんでしたが、密度だけは相当なもので、狙っていなくてもこちらに飛んで来る弾と、偶然回避コースを制限するような弾が合わさり、時に人型形態へ、回避には時に飛行機形態へと目まぐるしい変形を余儀なくされました。流石に嬉しい状況ではありません。連続変形はオーバーヒートの元です。そうでなくとも、サイズが縮んでいる関係で、機体構造が設計通りの強度を担保できていません。激しい回避行動を続ければ自壊のリスクが高まります。

 エネルギーブラスターの出力を上げて行かなければならない状況も良くありません。ジェネレーターの出力も上げない訳にいかず、機体全体の制御も含め、エネルギーブラスターの出力安全圏は5.000%までといったところでしょう。また、現在のサイズでは、エネルギーブラスター自体の冷却機能が許容できるのは、出力3.000%までです。排熱口も小さくなり、冷却機構そのものの効率も極端に落ちています。大きさが一〇分の一だから機構効率も一〇分の一という単純な話ではすまないのです。ジェネレーターを、10.000%の高率で稼働させれば、ジェネレーター隔壁は融解するでしょう。そうなれば、大爆発です。

 仕方なく、私は敵弾の射程圏外へと飛行機形態で上昇し、いったん退避しました。エネルギーブラスターでバリアが破れないのであれば、今回こそアサルトイレイザーの出番です。そう何発も連発できる兵装でない為、これで通用しなかったら――困ったことになります。

 大きく下方ターンを行い、浮遊要塞と高度を合わせます。照準を合わせ、機体保護の為の姿勢制御とアサルトイレイザーだけに出力を回し、残りをカットすることで出力を確保しました。許されるギリギリまで出力を上げ、アサルトイレイザーと発砲します。グリデラファーンの城が4つほど消し飛ばせる程の出力でした。

 轟くようなビームが伸び、浮遊要塞目がけて突き刺さります。しかし、ああ、やんぬるかな。ビームは浮遊要塞のバリアに当たると千々に割けて細い糸のように流れて消えて行きました。当然要塞のバリアは揺らぎもしません。

 要塞の砦の屋上に、人影が現れ、すぐに大きな太い男の方の声が響きました。魔法で拡声しているであろう声は、おそらく市街や女王の城にも届いていることでしょう。

「無駄だ。邪王の砦の絶対防御は破れん」

 勝ち誇ったような声ですが、確かに、アサルトイレイザーの砲撃でも揺らがないとなると、破れるものはテラ・イクシオスにも存在しないでしょう。

 私は答えませんでした。答えるべき言葉がなかった訳でなく、単にアサルトイレイザーに出力を回す為、機能をカットしていたので機体の安全チェックが棲むまで再稼働できなかっただけです。しかし、それを私が答えられなかったと取ったのか、おそらくイビスであろう人影はさらに上機嫌になり、勝手に話を続けました。

「フェース・イクスの愚者たちよ! 貴様たちに邪王の浮遊砦は落とせん! 魔導兵器の開発元であるレムラーラ王国さえ落とせば、他の国など烏合の衆に等しい! フェース・イクスも! そして、リ・イクスも! 全てわがものとしてくれるわ! その暁には、女王セフィスは、最下順位の妾くらいには扱ってやろう! さあ、滅びの時を絶望しながら待つといい! 間もなく地上攻撃に為の魔力も溜まる! その間に止められると言う者がいるなら止めてみるがいい! 私はこの砦の中から、無駄な足掻きを眺めるのを、精々楽しませてもらおうではないか!」

 ゆっくりと、ボディーランゲージを交えて高揚したように話すイビスですが、小さすぎてその全貌を確認することはできませんでした。さらにいえば、拡大映像をどこかに映しているという事もありません。きっとその芝居じみた身振り手振りは誰にも見えていないと思われます。

 さて、それを私は黙って眺めていました。カメラのズーム機能は動いているのですが、強いのは浮遊要塞で、彼自身ではないことは間違いないでしょう。要塞をチェックする方を優先して、彼を拡大確認することはしませんでした。

 そして話し終えるのを待ち、彼が砦の屋上から消える頃、機体の安全チェックなどが、丁度私も終わりました。別に話す必要もなかったのですが、私は彼に話しかけました。

「お時間をくださり、ありがとうございました」

 機体チェックだけではなかったのです。もうすぐ完了するというプロセスシグナルは、コンピュータ内で、私自身に通知がありました。ですから、それが完了するのも、待っていたのでした。ずっとコンピュータの一部を占有していたプロセスが終了し、領域が解放されます。それはつまり、ずっと続けていた私が縮んだ原因の解析が完了したことを意味していたのです。

 大きく宙返りをし、私は飛行機形態のまま、その途中に一度右360度のロールを行います。その瞬間、一度、ナノフィールドの機能を切り、フィールドとして纏っていたナノマシンをすべて機体内に回収しました。そして、再度機能を復活させます。そして、次元飛行のように一瞬だけ時空シフトを行い――

 ――再びフェース・イクスの空に現れた時には、本来のサイズである、20メートル弱の機体を取り戻していました。

「では遠慮なく」

 そう告げた声は、おそらくイビスの声よりも大きく、グリデラファーンの市街に響いたことでしょう。しかしその声も、すぐに轟音というのも生易しい衝撃波のような爆音と、まばゆいというよりも、真っ白に視界が霞むと言った方が正しいのであろう閃光で、上書きされました。

「はっ……?」

 という声が聞こえてきて、イビスが振り向くのが見えます。しかし、対処するには遅すぎました。いえ、万が一何か対処が間に合ったところで、どうすることもできなかったことでしょう。

 出力50%のアサルトイレイザーは浮遊要塞のバリアを紙切れのように吹き飛ばし、浮遊要塞の上半分を、ごっそり消し去ったのです。下半分は残しましたが、やはりアサルトイレイザーの余波は大きく、脆くなった構造体は次第にひび割れていき、やがて、砕けて細かい破片になって地上に降り注ぎました。市街に多少の被害は出るかもしれませんが、浮遊要塞を丸々消し飛ばすようにアサルトイレイザーを撃っていたら、街や城まで余波で破壊してしまう為、上半分目がけて撃つしかなかったのです。

 ただ、少々やりすぎたのも確かです。浮遊要塞を貫いてなお伸びてゆくアサルトイレイザーのビームは、遥か彼方の高原を余波で抉り、さらにその彼方に霞む山岳の尾根を消し飛ばすのが見えました。

「やりすぎだ」

 どこからか声が聞こえてきました。頭上からです。そこには、いつリ・イクスから戻ったのか、デューンが浮いていました。

「とはいえ、良く破壊してくれたよ。うん、これでイビスのふざけた野望はついえた訳だね。ありがとさん。助かった」

 彼は、そう言って笑いました。

 浮遊要塞は細かい鉱物の破片がきらきらと陽光を照り返して落ちて行くばかりで、姿かたちもなくなっています。イビスが無事である筈がありませんでした。逃れる暇はなかったのですから、砦ごと、消滅したことは、間違いありません。例えどこかに逃れたとして、いずれデューンの手で捕縛されることでしょう。そこは任せて大丈夫だろうと思いました。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ