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まいごの迷子の人型兵器  作者: 奥雪 一寸
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第六章 迷子の人型兵器と少女は、魔法の国の空を飛んだ(1)

 まずは小手調べ。

 上空で人型形態に戻り、ほとんど自由落下に近いスピードでの強襲を行います。エネルギーブラスターのモードはエネルギーショットガンモードに、引き続き、威力は最低のまま円錐状に弾をばら撒きます。地面は草地の為、ビーム弾では火事になる恐れがある為、比較的熱量の少ないショックパルス弾をセレクトします。外傷なくターゲットの生命活動を停止させる弾である為、無機物兵器にはまったく効果がありませんが、生命体に対しては絶大な威力を誇ります。

 ――それは禁止兵器ではないかと? 詳しいことは私には分かりかねます。しかしそういった兵器でなければ退けられない脅威もあるということなのでしょう。

「あら」

 魔族の数は多く、対生体レーダーで確認した限りでは300。黒っぽい姿はそれなりに悪魔的です。多くの魔族が頭部に角を持ち、赤や紫といった系統の、暗い色の肌をしていました。幾らかは翼を持ち合わせていて、宙に浮いていましたので。まずは飛行能力を持っている敵から排除をはじめました。

 最初の降下による敵飛行勢力撃破数は85/100。敵空戦部隊損壊率は85.00%です。まずまずといったところではないでしょうか。魔族といえば頑丈そうですが、旧来的な生物であることには変わりなく、古めかしい鉄製の武器でも傷つけることができる程度の対傷性しかないといったところなのでしょうか。エネルギーブラスターの最低出力でも十分に排除可能なようです。

 再度変形、一度上昇し、再度の降下で敵空戦能力を完全に喪失させます。目標の数が少なく、広範囲に弾丸をばら撒いても仕方がないので、射撃モードはショットガンモードから、通常のライフルモードに。今度は人型形態には変形せず、飛行機形態のまま空戦機動を行います。敵も散開、包囲を目指したのか止まっている訳ではありませんでしたが、相対的に言って飛行速度が遅すぎる為、私から見ると、目視に頼らなくても確実に弾丸をヒットさせられる程に止まって見えます。各個撃破で撃ち抜いていくのは難しいことではありませんでした。

 地上部隊からも当然のように反撃の魔法や矢が飛んできます。それも、無視できる反撃でしかありませんでした。

 私のバリアを減衰させるにも至りません。これでも決戦兵器です。戦闘艦クラスの大型兵器の主砲クラスの砲撃にも、二、三回の被弾であれば耐えるように設計されています。中世的な魔法攻撃であれば小型兵器の格闘戦用のガンにも火力は届きません。様々な魔法、光弾、冷気の槍、爆裂球など飛んで来る魔法は様々でしたが、そもそも、私の飛行速度に追いつけるような、それ自体に推進力をもった弾であるとか、初速が、少なくとも超音速戦闘に耐えうるような速度があるのでもなければ、私を捉えるには至りません。まぐれ当たりが何発かある程度です。まったく損傷にはならず、問題にもなりません。

 とはいえ、これでは戦闘とも呼べません。虐殺です。投降を呼びかけるべきというものでしょう。空中部隊は全滅させたことですし、

「あー。皆さん、このままでは全滅されますが、諦めては頂けませんか?」

 人型に変形し、地面に降ります。その間、魔法や矢は飛んできませんでした。どうやら効いていないということを理解いただけたようです。

「貴様は何者だ」

 地上部隊の中からひときわ目立つ、大柄な魔族が出てきて私の呼びかけに応えました。赤みがかった肌をした、頭髪のない三つ目の魔族でした。羽は生えていませんが、獣のような太い尾が生えています。筋肉質ではありますが、太っているという訳ではありませんでした。

「レスティーヴァと申します。何卒お見知りおきを。これだけの高火力で空戦部隊を殲滅しておいてなんですが、できる事ならこれ以上の犠牲が出ないうちにリ・イクスへお帰り願いたいところです」

 私としてはその方が有難いのですが。おそらくここまでするのですから、そう簡単には話は終わりますまい。

「それはできん。このままおめおめと帰ったところで、待つのは極刑だ。元より我等には進む以外にないのだ」

 魔族が話すことは、私も否定することはできませんでした。既に女王セフィスの城にまで知らせが届いていたからこそ私が出てきた訳で、そこまで大事を起こしておいて何もおとがめなしという訳にも、デューンもいかないでしょう。

「残念ですが、仕方がないですね。去るつもりがないというのであれば、駆逐いたします」

 私も覚悟を決めて、再びブースターを点火し、空へと向かいます。当然その瞬間を狙って周囲の魔族達が一斉に遠距離攻撃で狙って来ましたが、私の上昇の初速を見誤ったのか、私に届くことはありませんでした。

 人型形態のまま、エネルギーブラスターをエネルギーマシンガンモードに切り替え、再び私は飛び立ちました。上空からの射撃を再開します。彼我の射程の差は既に分かっている為、敵の攻撃が届かない距離からの乱射で殲滅に掛かります。幾らかは地上を走って逃れようとし、また何体かは防御魔法のようなものでしょう、バリアを張りますが、彼等のそれでは私の弾丸を受ける止めることはできないようでした。

 こちらは簡単に頭上を取れる為、一方的な排除と言って差し支えない状況が繰り広げられます。彼等の失敗は、フェース・イクスに私が居るということを知らないことでした。その時点で侵攻が成功する筈がなかったのです。可哀想ですが、一兵たりとて逃す訳にも参りません。慌てふためき、身を守る術もない魔族達を容赦なく私は撃ち抜きました。戦争を仕掛けてきたのは、侵略してきた、彼等なのです。リ・イクスに追い返す手段があれば話は変わったかもしれませんが、ないもののことを考えても仕方がありません。何より防がなければならないことは、彼等を哀れんで他心を加え、何も知らず、平和を謳歌する、軍人でもない市民に犠牲が出ることです。

 それにしても、この様子で、どうやってレムラーラ王国が保有する魔導兵器に対抗するつもりだったのか、疑問は尽きません。

 明らかに戦力不足で、一網打尽にされる為の烏合の衆にしか思えない有様で、魔族達を蹴散らすのに、困難は全くありませんでした。結局、軍勢を率いている魔族だけは最低威力の弾丸では倒れませんでしたが、それ以外の者達は一掃することができました。

 他の魔族達が全滅するまで、軍勢のボスは強固なバリアで身を守りつつ、静観を続けていました。そして、周囲に動く者がいなくなると、漸くバリアを解いて翼のない身体を宙に浮かべました。

「まさか連中の魔導兵器を引きずり出す前に全滅とはな。これでは魔界で待つ後続に合わせる顔もない」

 軍勢のボスはやはり私の降伏要求を拒否した魔族でした。私には勝てないと理解はしているようで、それでも一矢報いるまでは死ねないと腹を決めている様子でした。彼はおそらく秘蔵の兵器だったのだと思われるバズーカ砲のような魔筒を虚空から二本も出現させ、そこから警告なしに魔法弾を放ってきました。

 それでも、私の優位は揺るぎません。誘導性はあるようで弧を描くように伸びてくる砲弾を、私はエネルギーマシンガンモードからライフルモードに切り替えたエネルギーブラスターで正確に撃ち抜いて相殺させ、相手の砲弾が私には通用しないことを見せておきました。

「容易く消すか。恐ろしい奴もいたものだ」

 だが、と、魔族のボスは笑いました。

「このグリムグラーズ、勝てぬからといって、背を見せ逃げる程腑抜けてはおらん。行くぞ」

 浮遊状態の為、さして動きは速くありませんが、それでもできる範囲で緩急をつけて動き回りながら、二本の魔筒から魔弾を乱射させはじめます。魔筒はそれ自体が不規則に向きを変え、撃ちだされた光弾も、軌道を気まぐれに変えて飛んできます。結構な連射もされているために、いちいち撃ち抜いて対処するのも不毛というものでした。

 一方で、本体を狙って撃つにしても、再び堅固なバリアを展開していて、エネルギーブラスターを最低出力で撃っていては本人には届かないようです。もっとも、あまりに出力を上げすぎると流れ弾で眼下の平原を掘り起こしてしまう為、あまり不用意に出力を上げる訳にも行きませんでした。

 微妙に調節を繰り返し、出力0.010%程度であれば、まだ周囲にそれ程大きな破壊を起こさないことが分かり、そこまでエネルギーブラスターの出力を上昇させます。一撃ではバリアは割れませんでしたが、グリムグラーズの空間に揺らぎが生じることから、バリアを減衰させることはできていると判断し、そのまま攻撃を加えました。

 敵の砲弾は、それ程脅威ではありませんが、ただの威力だけでない効果があると厄介なので丁寧に避け、可能な弾は撃ち落として対処しました。それでも十分本体を攻撃する余裕は持てます。

 5発程ライフル弾を当てたところで、グリムグラーズを守っていたバリアが弾けます。バリアを失った本人には、ライフル弾に耐えられるだけの頑強さはありませんでした。魔筒が消え、グリムグラーズは地に臥しました。

 それをもって敵の駆逐は、完遂されました。


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