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まいごの迷子の人型兵器  作者: 奥雪 一寸
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第五章 迷子の人型兵器、女王陛下と面会する(1)

 翌日、朝一番でローディル商会に向かった私は、丁度デューンがリミア相手に依頼の申し込みを行っていたところでした。

「おはようございます」

 二人に声を掛け、様子を見ます。二人とも困っているようです。

「んー。指名制はないんですよー」

 リミアの一言で、デューンは私を指名して依頼を出そうとしているけれど、ローディル商会としては、個人指名は受け付けていないというすれ違いが起きているのだと理解しました。

「とりあえず指名なしで出してしまってください。その仕事は、私がお引き受けします」

「え。でも。レスティーヴァさんに割り当てるには、仕事内容がイージーすぎるんです」

 護衛任務なら、わざわざ私が出向かなくても、他に出来る傭兵がいるから。それよりも、私がグリデラファーンに出払ってしまう方が不安だ、とリミアの顔には書いてありました。確かに、ローディル商会としては、あっさり掠め鳥を駆逐するくらいには単独での殲滅能力が高い私には、もっと実入りになる、大規模駆除などの仕事を受けてほしいと考えるのは、仕方がないことです。

 以前に比べて、仕事も、だんだん舞い込むようになっており、それに比例して、登録する傭兵も増えつつあるという話は、私も聞いていました。適所適材を考え始める時期に、差し掛かりつつあるということなのでしょう。

「いえ、この仕事内容は、既に私も把握しております。ローディル商会として、万が一にも失敗が許されない仕事ですよ。誰でも良いという訳にはいかないでしょう」

 私は、窓口のカウンターの上に置かれた、デューンが書いた依頼申込書をスキャンしました。やはり馬車の護衛としか書いておらず、重要な情報は秘密にしておくつもりだったと理解できます。

「デューン、リミアに事の深刻さを説明した方が早いです。リミア、どこか、極秘の話ができる部屋はありませんか?」

 リミアはまだこの仕事を女王セフィスを救うための仕事だということを理解していないのです。それを把握すれば、私が護衛することにも、必ず納得いただける筈と、私は確信しました。

「関係ない方に聞かれては、少々問題がある内容なのです」

「……分かりました」

 リミアは、既に私が内容を知っていること、私が内密の話がしたいと言い出したことに、少なからず驚いたようでした。同時に、何か本当に真面目な話なのだと悟った様子で、

「それには及びません。では、今依頼申込の受理と、レスティーヴァさんが引き受けたことを、記録しておきます。レスティーヴァさん、遂行よろしくお願いします。詳細内容は、私は知らない方が良いでしょう」

 リミアはにっこり笑い、むしろ、自分は聞きたくない、といった態度を明らかにしました。自分はただの受付担当で、込み入った問題に巻き込まれるのは御免だと言いたげな。

 リミアは窓口担当として、確かに優秀なのかもしれません。知的好奇心で余計な詮索はせず、事務的に、知りたくない情報から一歩引く、線引きができることは、依頼者の事情を守る為にも必要なのでしょう。噂話大好きな窓口担当では、危なっかしくて重要な依頼を話す気になれません。

 最悪、あそこは信用が置けない、などと商会そのものに悪評の噂が流れてもおかしくありません。そんなところに依頼をする人間の気がしれない、そう囁かれるのも時間の問題になってしまうでしょう。

 逆に、初めて会った時に、そんな彼女が思わず、商会の内情を私に漏らしたあたり、あの時は余程の窮状だったことが偲ばれます。もしかしたら、態度こそ出されませんが、あのあと、ひどく自己嫌悪していたかもしれません。

 私が彼女を観察していると、私のどういった態度で察したのか、リミアは、視線だけで、それは言いっこなし、と訴えてきました。

 そんな私達の態度を知ってか知らずか、

「それなら、問題ないな」

 デューンは、それでいいと語るように頷くと、

「エリーナとメリッサはもう準備できてるのかな?」

 同行する予定の二人がすぐに出かけられるのか、気に掛けて質問をしてきました。

「はい。今馬車をお屋敷から回していただいているようです。そろそろ表に来る頃ではないかと」

 私が知る限りでは、その筈です。二人の状況を私が答えると、デューンはまた頷きました。

「よしよし。じゃあ、商会のお嬢さん。レスティーヴァをもう連れて行っても良いかな?」

「はい、どうぞ。レスティーヴァさん、確実な遂行を、よろしくお願いしますね」

 リミアに見送られて、私とデューンは商会をあとにしました。馬車は既に商会の表に止まっていて、車内から身を乗り出したメリッサが元気に手を振っているのが見えます。乗るべき馬車が分かると、デューンは満足して、

「じゃあ、精神体とアイツを連れてくる」

 と告げ、一旦姿を消します。その辺にインキュバスを老いて奥にもいかず、魔界で拘束してあるのでした。

 すぐにデューンは戻ってきました。

「縄じゃ不安だ」

 と言って、彼の魔力で造ったという檻に、インキュバスは閉じ込められていました。檻の中のインキュバスが、凍ったように微動だにしない様子にエリーナとメリッサは不思議そうにしていましたが、

「精神だけでも逃げられると面倒だからね。檻の中の時間を凍結してある」

 デューンはたいしたことではないようにさらっと答えました。彼の手元には小瓶があり、鈍く光るガス状のものが封じられていました。

「それが?」

 エリーナが問い、

「ああ、そう。霞んで良く見えないだろ? まだ捕え切れてなかった証拠さ」

 そんな風にデューンは答え、馬車に乗り込みます。インキュバスの檻は車内には入れず、丁度馬車の後部に小さな荷台スペースがあり、そこに乗せられました。

 馬車の中には、エリーナ、メリッサ、そしてデューンの他に、家事使用人がおひとり付き添っています。ユーラがお屋敷を開ける訳にはいかないので、エリーナ付きの、エイダというやや年嵩のご婦人です。

 馬車は二頭立てで、鮮やかな茶色の車体が、日の光を浴びて艶やかに光っています。御者はお屋敷お抱えの方で、男性です。体格は大きくない方で、優しそうなお顔が印象的です。オルソン、という名だそうです。

 予定通り、座席に座れない私は馬車の外を護衛として歩き、商会の前を出発しました。ミーングノーブの田園風景を縫う道を進み、外門を抜けると、一面の草原が広がっています。天気は良く、微風。気温はやや低めでした。

 街道を進む間、馬車の中からは、メリッサの楽しそうな声が聞こえてきます。話し相手はもっぱらエリーナで、時折、エリーナの相槌も聞こえました。

 エリーナもあれから多少は眠れたのか、幾分顔色が良くなったように見えます。しかし、体調は改善したとは言い難く、まだ油断はできません。それでも車内は穏やかで、平和な光景そのものでした。

 とはいえ、そこは街道上とはいえ、街の外です。危険な獣や山賊が潜む、危険な野外です。一見見渡す限りの平穏そのものですが、警戒を崩す訳には参りません。私は広範囲長距離レーダーで、警戒を続けていました。広範囲長距離レーダーは細かく正体を解析することなどはできませんが、何かがいないかを手広く察知する性能に優れています。そして、何か動体を見つけると、ピンポイントの指向性スキャンレーダーを照射して、その正体を探るのです。

 多くは小動物であり、危険はありませんでした。時折猛獣がレーダーに引っ掛かることもありましたが、こちらに向かっていないことが分かると、私はその対象は放置しました。

 武器の出番はほぼないとはいえ、馬車の走行の障害になりそうな、危険な敵を察知することはゼロではありませんでした。そういったものが見つかった時には、私は、まだ距離が一キロメートルを超える状況で、エネルギーブラスターのホーミングレーザーで狙撃し、接近する前に危険を排除しました。その為、エリーナやメリッサが危険に晒されることは、ありません。

 それと、申し上げ忘れておりました。家事使用人の方々に仕立てて頂いた衣服ですが、せっかくですのでまだ脱いでいません。ハンドミサイルやアサルトイレイザーが使用できませんが、前者は弾薬補給が見込めない状況でおいそれと使用する訳にも参りませんし、後者は生物相手に撃つものでもありません。なお、スカートの腰の横部分に、ポケットのように小さなスリットを開けていただき、エネルギーソードは取り出せるように改造していただきました。

「まあ」

 私が発砲すると、初めてそれを見たエリーナが、大声ではありませんが、驚いた声を上げられました。

「随分と射程距離の長い術を使われますのね」

「はい。自慢の技術です」

 私は、そう答えました。


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