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まいごの迷子の人型兵器  作者: 奥雪 一寸
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第四章 迷子の人型兵器、夢魔と対決する(2)

 家族の問題であると、エリーナはしばらく渋りましたが、意固地になってメリッサを危険に晒しては元も子もないと説得を続け、エリーナには、不承不承ではあれ、なんとか私が協力することを認めていただきました。

 とはいえ、それで事前の交渉がすべて済んだという程甘い話ではありません。

 本来であれば、夜間、私はお屋敷の中ではなく、庭先の空いた倉庫を借りて休んでいます。家具その他は私が休止し、システムの自己メンテナンスを行うのには必要ないもので、客間のようなインテリアの多い空間は、私が滞在するには適さない為です。

 ですが、今日ばかりは倉庫に籠るという訳にも参りません。夜通しメリッサの傍についていた方が安全です。本人はもとより、お屋敷勤めの方々にも許可を取っておくべきでしょう。

 話を通すのであれば、家事使用人を纏めるハウスキーパーの方が良い筈です。私は、初日にメリッサをお叱りになった、ユーラを探しました。彼女がこのお屋敷のハウスキーパーを務められているご婦人です。

「エリーナの体調がすぐれないことについて、相談があります」

 ユーラが休憩に入ったところでそう持ち掛けたところ、やはり心配だったのでしょう、丁度休憩時間が重なっていたらしいエリーナ付きのご婦人方もすぐに集まって来られました。

「奥様が、原因をお話になられたのですね」

 驚いたことに、ほとんどの家事使用人の方々が、その理由を既にご存知のようでした。私が聞いたことを認めると、

「どうにかならないものでしょうか」

 ご婦人方を代表するように、ユーラが私に質問されました。

「その為に、本日は、メリッサを守る役目を、私が代理で行うことになりました」

 皆さん知っているのであれば話が早いです。私はそのまま流れで本題を切り出しました。

「その為に、本日は夜通しメリッサの部屋に滞在するつもりです。ご容赦ください」

 勿論、話はそれだけではありません。それだけの交渉で済むなら、わざわざ貴重な休憩時間の邪魔をせず、立ち話で済ませればよかったのです。

 私は話を続けました。この話は、エリーナ本人には聞かせていません。

「同時に、メリッサを狙っている夢魔をエリーナは散々邪魔してきたわけです。当然相当の怒りを買っていることでしょう。エリーナがもし眠れば、彼女自身が狙われることも十分に考えられます」

 当然のことです。そのリスクを無視する訳には参りません。その為、屋敷全体を範囲として、私は脳波干渉に対するトラップを仕掛けたかったわけです。

「残念ながら正規のデバイスは手元にありませんが、代替品でも大丈夫です。お屋敷の、皆さんが入れる部屋という部屋に、それを置いていただけないでしょうか。どうかご協力をお願いいたします」

「代替品とは何でしょう」

 即座に判断はせず、ユーラは質問されました。それも当然のことです。それ自体が危険な物であれば、エリーナやメリッサの身の回りに置いておくことはできないでしょう。

「鏡です。足りなければ飾り皿でも結構です」

 本来は空気中を振動させる波を反響させられるものであれば何でも問題ないのですが、効率を考えると、鏡のように表面が磨かれた物か、パラボラアンテナ状の形状をした、立てておけるものが適しています。私の言葉に、更に多くの家事使用人が集まって来ました。メリッサ付きの方々もおられました。

「それを置くとどうなるんですか? どうやって撃退するんでしょうか」

 自分達に出来る事はないだろうが、心配だから聞かずにはいられなかったという顔で、まだ若い女の子が声を上げました。心配なのは理解できます。私は、自分の作戦を皆さんに語って聞かせました。

「夢魔がお屋敷内の方に脳波干渉……夢に入り込もうとした時、屋敷に張られたそのトラップによって、必ず私の所へ引き寄せられます。私は精神を持たないカラクリですが、疑似脳波による仮想思考空間、偽の人物を造り出す能力を持っています。そこに夢魔の精神を捕えるのです。当然相手は夢魔ですから精神を害し、女性を侵害しようとするでしょうが、私は精神も性別も持たぬカラクリです。そういった脳波への攻撃は一切効きません。ですから、あとは相手の力量を見定め、可能であるようなら、カウンターアタックを仕掛け、実体そのものを引き寄せて物理的に拘束します。それに成功したら、二度と馬鹿な考えを持たないように、私がきっちりと、お灸を据えておきましょう」

 私の話が終わると、再びユーラが口を開きました。

「本当にうまくいくのですか?」

 不安は仕方ありません。そんなにうまくいくのであれば、エリーナがもっと早く撃退していても良かったのではないかという疑念は晴れないでしょう。

「私はそういった攻撃にも、確実に対処できなければならないもので、その為に、考え得る最高の技術で能力を与えられています。偽の夢に捕らえるところまでは、確実に成功すると約束しましょう。そのあとは、相手の能力の強さ次第ですので確実なことは言えませんが、最低でも追い返すことは可能です」

 この辺りは、実際、複雑な経緯があるらしいのですが、そういった能力をもったものの助けを借り、実証実験も行われたらしく、かつ、先に言った敵性異星人を打ち負かした実績のある技術を利用しているので、間違いはありません。その時に、コンピューターへのハッキングも受け、そちらの対処もしたらしいのですが、その話を混ぜても混乱させるだけでしょうし、話す必要はないでしょう。

「であれば、逃げられないように、こう、できる限り完璧を目指してみたらどうでしょう」

 と、メリッサ付きの女の子から提案がありました。私にはその意見が逆に分かりません。

「と、いいますと?」

 逆に、質問しました。

「見るからに人でないものに捕まったと分かれば、すぐに退散し、結局解決にならないかも知れないじゃないですか。だから、こう、ぎりぎりまで人間じゃないとバレないようにする、みたいな感じで擬装するんですよ」

 不可能ではないですが、イメージが難しいところです。私も少々困りました。

「そうはいっても、私が人間の振りをするのは無理があるでしょう」

 見た目で既にバレバレです。どうにもならないのではないでしょうか。

「服を着ましょう! それっぽく!」

 ……それは、ちょっとどうでしょうか。私も返答に困るところです。私が呆気に取られて黙っていると、

「……いえ、その」

 そもそも私は人間の体型をしていませんし、背中に邪魔な砲身もそそり立っています。無理があるのではないでしょうか。まあ、何と言いますか、服飾というものに、興味がない訳でもないですが。

「これに、服を?」

 他の女の子も、無理だろうという顔をしますが、

「いやあ。やればできるかも。何だか面白そうだし、それに、エリーナ様やメリッサ様の為ですもの。何か私達で出来るならやるべきじゃないかしら」

 別の方の提案に、皆さんから、反論が止まりました。楽しまないで頂きたいです。私は拒否すべきか思案しましたが、明確に拒否すべき理由が見つからないでいるうちに、

「やろう」

 ということで、私の返答抜きで決められてしまいました。なんということでしょう。こんなことになるとは、流石に予想しておりませんでした。

 とはいえ、私のボディーが入る服など都合よくある訳もございません。早速手の空いている者を掻き集めて一着、見た目だけの張りぼてでもいいからドレスを仕立てるのだと、家事使用人の方々は散って行きました。行動の速さは流石と言っていいのかもしれませんが、何か方向性が間違っているような気は致します。

 幸いというべきか、その話が成されたのは午前中だった為、夕刻前には私が擬装する為の服が出来上がったと、女の子に呼び出されました。それまでに、私も何度も採寸されたり等、慣れない扱いに困ったものでしたが、出来上がってしまった以上は、覚悟も決まりました。

 着付けは、私自身が人間のようにできる訳ではないので、五人がかりで布を被せられたような格好になりました。普通の衣服の借用方法は取れないので、巻いて止めるようなデザインで、それは造られていました。

 全て私をカバーする布で包まれると、確かに、家事使用人の方々が着用しているドレスと似たような服に見えないこともありませんでした。ご丁寧に、誰かがもともと持っていたのか、ウィッグまでついていて、それでも二本突き出た砲身は隠れませんが、何かを背負った女性に見えないでもないのでしょうか。室内で棒を背負う状況が思いつきませんが。

「うーん、暗ければ、後ろ姿なら、女の人に見えないでもない……かな」

 自信なさげではありましたが、誰かがそんな風に感想を述べられていました。皆さんの努力は無駄にすべきではないでしょう。

 ここからは、私の出番という訳です。


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