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まいごの迷子の人型兵器  作者: 奥雪 一寸
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第三章 迷子の人型兵器、初仕事に出掛ける(4)

ミーングノーブ周辺で荷馬車を襲撃していた掠め鳥の殲滅が成されたことは、その日のうちにローディル商会からミーングノーブの領主のもとに報告され、ミーングノーブを拠点とする商人達にも、その報せは届いたそうです。結局指輪のカウンターに記録した私のターゲット撃墜数は、二八七体となっていました。

 報告を終えた私は約束通りメリッサを迎え、一緒にお屋敷に戻りました。それから数日間はお屋敷でのんびりとした時間を過ごしました。

 私が掠め鳥を駆除したということを、商人達は最初の数日間は半信半疑でいたようであはありましたが、ぱったりと掠め鳥に積荷を奪われる被害の報告が絶え、どうやら本当らしいと風の噂で出回ったようでした。私も嘘は申しません。街道は、また一つ安全になったのです。

 それから何日も、特にローディル商会から斡旋される依頼もなく、のんびりとミーングノーブを眺めて歩く暇ができておりました。ミーングノーブの市場には新鮮な野菜や肉類が並び、内陸だけに、流通している魚類は川魚に留まるようでした。

 街のあちこちを尋ねて歩くときは、必ずメリッサがついてきて、案内をしてくださいました。彼女は私との外出を楽しげにすごしてくれ、毎度手間をかけるという申し訳ない思いを軽くしてくれるのでした。

 メリッサ自身、お嬢様なのでお金には困られていませんが、私も大量に掠め鳥を倒したことで、結構な金額の報酬を手に入れています。私自身、食べ歩きはしませんし、そのお金を、お世話になっているお礼も兼ねて、メリッサがあちこちで食べ歩くのに使いました。

 本当にのんびりとした、ゆったりとした時間が流れています。ミーングノーブの中には、広がる畑を潤わせる為の水路が網目のように流れていて、水のせせらぎが平和なメロディーとして聞こえています。ただ、その平穏が、私には少々懸念として感じられました。

 要するに、傭兵斡旋業としては、ローディル商会に、あまり仕事が舞い込んできていないという意味でもあるからです。平和を喜んでばかりもいられませんでした。

 もう一つ、懸念はあります。私が傭兵登録してもすぐに傭兵斡旋業の業績が上向く訳でもなく、その為か、メリッサのお母上、エリーナの体調は一向に良くならないことでした。むしろ、日に日に元気がなくなってきているように、私には見えました。当然心配です。

 メリッサも、霊癒の香木を求めに行きたいという話を、なかなかお屋敷の方々に言い出せないでいるようでした。私がグリデラファーンへ行くような依頼でも受けられれば良いのですが、そもそも依頼そのものがない為、どうしようもありません。

 私はそれでも、毎日一度は、ローディル商会の窓口に、仕事が入っていないかの確認しに行くのは続けました。仕事があれば、可及的速やかに解決することが、ローディル商会の傭兵派遣サービスの認知に繋がると信じている為です。

「今日も、斡旋できるお仕事の依頼は、な~んにも、ありません」

 両手を振ってからお手上げ、と言いたげなジェスチャーをして、今日もリミアが言います。

「少々宣伝活動を行ってはいかがでしょう」

 私は完全に危機的状況であることを理解しました。明らかにこの業務は、赤字を垂れ流しています。企業や商売というものが分からない私でも、仕事がなければ営業するだけ丸々赤字、なんてことくらいは分かります。

「広報や営業は以前からやってるんですけどね~。やっぱりこう、実績のある冒険者がいてくれないと、『よし、あそこに頼もう!』、みたいなことには、ならないんですよね~」

 人材不足がまず深刻のようです。確かに、新規事業で実績も信用も不十分ですし、あの人がいるなら、とならないと、なかなか商会に頼むメリットは認知されづらいでしょう。

「メリットがそもそも薄いんですよ。適正な報酬額を管理して、冒険者は商人に足元を見られることがないように、商人は冒険者に法外な報酬を吹っ掛けられることがないように、っていうのが最大のうちのポイントなんですが」

 と、リミアが窓口のカウンターに頬杖をついてため息をつきました。

「損して得取れ。商人からすると、例えば馬車の場合、多少法外な価格を払ってでも、乗客や積荷を確実に守ってくれる冒険者の方が、有難いのが問題なんです。乗客や積荷に何かあった時の損害が大きすぎるんですよ」

 適正な価格か、それ以下で確実に守ってくれる傭兵がいれば、商人としては嬉しいでしょうが、あくまでそれは実績ありきな話です。幾らうちは公正料金ですよと謳っても、ちゃんと守ってくれるかどうかが分からなければ、それはリスクでしかありません。仕事が来ないのも仕方がないというものでしょう。

「地道に信用を得るしかないのですね」

 派手な実績を打ち立てる、という方法もないではないですが。けれど、単発では派手な実績も効果は薄いでしょう。たまたま、話に尾ひれがついているだけの噂、といった猜疑を抱かないようでは、少々危険です。

 明確に真実の成果であることを証明できる物的証拠でもあれば話は別ですが。私がそんなことを考えていると、なんとその物的証拠の方からやってきました。

「失礼する」

 と、私達の会話に割り込んできたのは、見るからに特権階級と分かる派手めに明るい赤色の服装の、ミーングノーブの領主つきのお役人の方でした。

「こちらにレスティーヴァなる冒険者が籍を置いていると聞いたが、間違いないかね?」

 口の上の立派な髭を揺らし、お役人さんは話を続けられます。その問いかけに、私よりも先にリミアが口を開きました。

「あ、レスティーヴァならこの人です。人かどうかは、ん~、ちょっと怪しいところですけど」

 間違いなく、人、ではありません。ですが、説明しても理解できないことも明白です。私はその発言を聞き流すことにし、お役人さんに挨拶をすることを優先しました。

「お初にお目に掛かります。レスティーヴァは私でございます」

 礼ができるようには関節ができていないので、直立不動なのはご容赦いただきたいところです。

「おお、そなたがそうか。実はな、ミーングノーブの主要な収入源である農作物の交易において、他の地への運搬中での、掠め鳥による被害は、領主様にとっても、軍にとっても解決せねばならない頭の痛い問題であったのだ。故に、掠め鳥を根絶し、街道交易の安全を守った功績に対し、感謝の記念品を贈ろうということにあいなった。所謂感謝状である。ついては、本人の受け取りの意思を確認したく、こうして訪問した次第である」

 言われてみれば当然、交易路上の安全確保は、自治組織、治安維持組織の責務です。一介の傭兵でありながら、今回の仕事は、それに協力したということになり、それに労いを表明するのは、都市としても、解決の意思はあったという表明になります。逆に、だんまりを保てば、領主に対する不信感が、住民や商人の一部に積もることになり、良いことは何もないでしょう。

 ここは、受け取っておくべきとはいえ。しかし。

「私はローディル商会の傭兵斡旋に寄せられた仕事を遂行しただけです。感謝状であれば、その仕事を請け負ったローディル商会充てにお願いいたします」

 私にとって感謝状は何の意味も持ちません。もともと軍兵器である私には、市民の平和の為に奉仕するのが軍と軍装備の存在意義で、私にとっては、それは義務に他ならないからです。ですからそんなものを頂いてもこそばゆいだけですし、でしたら、商会の役に少しでも立てて頂きたいと思うのです。

「あ~。そういうことですか。額縁あったかな、なければ調達しておきます」

 リミアにも私が言いたいことを分かっていただけたようでした。あとは、お役人さんがどうおっしゃるかだけです。

「うむ。では、ローディル商会に感謝の記念品を贈呈する方向で調整させていただく」

 お役人さんにも頷いていただけ、話は纏まりました。多少でも実績として宣伝できれば、少しは仕事も入るかもしれません。仕事が入らなければローディル商会の傭兵が信頼できるということも分かっていただけません。まずは分かりやすいキャッチーな功績を喧伝して、皆さんに興味を持ってもらうところからです。

「お願いいたします」

 私がお役人さんに告げ、

「有難うございます。効果は未知数ですが、上にはこのことを報告しておきますね」

 リミアが心なしか嬉しそうに頭を下げました。

 こうして、話は固まり、数日後には、漸く、様子見のような仕事が入るようになりました。勿論登録している傭兵は私だけではありませんので、やりすぎない程度に時々仕事を受けながら、私はローディル商会の実績作りに、協力を続けたのでした。

「最近、いい感じになってきているみたいね」

 お屋敷に私が変える度、メリッサは嬉しそうに話しました。ですが、一方で、エリーナの体調は、日に日に悪化を続けていました。


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