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ネビウスクロニクル  作者: 石井
空の都編
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呪いの霊峰(13)「決戦」

 霊峰付近の山々の頂に守り石の塔が建設された。この作業はネビウスの監督下で神殿に属さない雷の呪術師と都の大工たちによって行われた。雷の呪いを込めた塔が放つ不可視の波動によって翼甲獣プテリオキロスに嫌がらせをするためである。どれほど効果があるかは正確には不明だったが、期待しうることは全てやろうというのであった。


 山脈の山々は巨獣が占拠して立ち入るには危険が大きかったが、継承一門カイラ剣師セイヴァが護衛した。工事の現場には剣師セイヴァ集団を率いるコウゼンも立ち会うことがあった。あるとき彼はネビウスに笑顔で話しかけた。


いにしえの技は素晴らしい!」


太陽の都(ソルガウディウム)にはありふれているでしょ」


「我が都の建造物は大昔からあるものばかりだ。新しく大掛かりな建設がなされたことはこの百年ではないようだ」


「そういやそうね」


 ネビウスはあくまでもコウゼンと世間話をするつもりはなかった。彼女は作業に集中しているのを良いことにすぐ会話を打ち切った。その作業はネビウスにしかできないことだった。先ず山頂に突き立てられた細長い守り石の表面を指でなぞった。触れた部分はきらりと光った。ネビウスはさらに両手の指を全部活用して、守り石に映る光を動かしたり飛ばしたりして、各山に打ち立てた雷の塔が協働するように仕組んでいた。コウゼンはネビウスの後ろからこの作業を覗き込み、首を傾げた。


いにしえの技か。何が起きているのか」


「余計なことを知りたがるんじゃないわ。好奇心の強いコーネ人は塀から落ちるのよ」


 一方でネビウスはときどき工事に連れてきていたカミットが興味津々で聞いたときにはまるで違う対応をした。


「ネビウス! 何しているの?」


「古代の言葉で塔に住ませた精霊たちに細かい指示を出しているのよ」


「ネビウスは喋っていないよ?」


「これは手紙よ」


「そっか! 伝言なんだね」


「そう、そう」


 ただしネビウスはこのときも古の秘技について詳しくは語らなかった。カミットは育ちが古の民の秘境の里であり、技や知識を伝授しない秘密主義者の態度に慣れていた。彼はネビウスが時折扱う秘技について深く知ろうとはしなかった。





 第一回の戦いから約一ヶ月を経た冬の始まりの月、戦士たちは再び霊峰を目指した。峰の魔人は前回とは違って、討伐隊が到着する前から暴風によって落石や崩落を起こすことで登山を妨害した。


 このような事態にも対応できるように、今回は神官ドルイドや呪術師が百人近く同行していた。しかも今回は守り子のルルウが出征することになり、これに付き添うために上級神官(ドルイド)のカエクスまでもが前線に出てきたのである。この者たちは風の呪いで暴風を緩和させ、雷の呪いによって翼甲獣プテリオキロスを追い払った。こうして戦士たちは苦難を乗り越え霊峰を登り、長大な鼻と白い羽毛に覆われた巨体を持つ峰の魔人と相対した。


 先陣を切ったのは継承一門カイラ剣師セイヴァたちだった。彼らは呪いを弾く灰色の外套を着ており、峰の魔人が起こした暴風をものともせずに突き進んだ。峰の魔人はすぐに絡め手を用いた。暴風によって石材を飛ばして、剣師セイヴァたちを撃ったのだ。ところがそれでも剣師セイヴァは止まらない。コーネ人の動体視力と反射神経はブート人をも上回るとされ、その敏捷性でもって飛んでくる石を回避したのだ。


 初撃にて、コウゼンは長剣を豪快に振り抜いて、峰の魔人の長大な鼻を斬り飛ばした。峰の魔人は苦しみの奇声を発して倒れ伏した。続いて、他の剣師セイヴァが峰の魔人を滅多刺しにした。


 これを見ていたルルウやカエクスなどは呆気にとられて立ち尽くしていた。「終わりの島(エンドランド)で最も強い」と世間では言われているが、剣師セイヴァの攻撃力と制圧力は然るべき敵を相手にしたときによりはっきりと示されたのだ。彼らは空の都(パラテラ)がこれまで手出しできなかった峰の魔人を一瞬にして討伐しそうなのである。しかも今回は雷の呪いにより、翼甲獣プテリオキロスの妨害も無かった。


 このとき空を警戒していたブート人の戦士が角笛を鳴らした。それは緊急事態を知らせる甲高い音色であった。


 峰の魔人はもはや動かなくなり、体をばらばらに切り裂かれて滅びようとしていた。コウゼンは空を見上げた。「やはり来たか」と彼は呟いた。


 入江の魔人のときもそうであったが、翼を持つ大蛇が空に姿を見せたのだ。ボロ布の外套を着て、黄金の体が月のように輝く塔の魔人が翼の大蛇に跨っていた。挨拶代わりとでも言いたげに塔の魔人は光の矢をコウゼンに向かって放った。コウゼンは長剣を振って矢を正面から弾いた。


 このとき黒々とした雲が遠方より急激に迫り来た。仙馬ボレマロゴがやってきたのかと人々は期待したのだが、それが近づいてくるにつれて、寒気と怖気おぞけが周囲に立ち込めた。雷雲と思われた来訪者が噴出させた黒い霧であった。十三体もの翼の大蛇とそれに跨る月追い(ルナシーカー)が襲来したのであった。


 ブート人の戦士は挫けることなく空で月追い(ルナシーカー)を迎え撃った。それでも抑え込むことはできず、九人の月追い(ルナシーカー)が霊峰に降り立った。コウゼンはすぐに仲間たちに指示を出して、月追い(ルナシーカー)に対応させた。そしてコウゼンは最後にゆったりと降下してきた塔の魔人と対峙した。


 塔の魔人、そして月追い(ルナシーカー)、この両者は人のシルエットを持ちながら、前者は黄金の輝く体と光の剣を、後者は漆黒の体と銀色の大斧を持ち、そして共通していることには彼らは顔には口だけがあるという異形の怪物であった。


 塔の魔人は体格は普通の人間のようであり、その能力はいたって単純、彼は剣技の達人であった。光り輝く剣は見た目からは想像できない圧倒的重量を持ち、普通の鋼の剣で撃ち合えばたちまち刃こぼれし、光の剣が振り落とされたのを受ければそのまま砕かれかねないほどであった。


 コウゼンは塔の魔人と剣で真っ向勝負を挑んだ。彼の長剣は打ち合うほどに刃こぼれするどころか、熱を帯びて赤々と輝き出した。やがてその輝きは剣を持つコウゼン自身へと渡り、いっそう力をみなぎらせた。剣戟は加速し、塔の魔人の技を持ってすら捌き切ることはできず、コウゼンの赤熱して輝く剣は塔の魔人の手を斬り飛ばした。


 霊峰での戦いは塔の魔人と月追い(ルナシーカー)を相手にする戦いへと完全に移行していた。魔人、月追い(ルナシーカー)、これらは伝説が語るところでは精霊の巡りの中から零れ落ちた闇の存在であり、その実体は曖昧であった。弱点を破壊することで滅びると世間では思われているが、その生死すらもふらふらとしてあちらとこちらを行き来することがあった。それゆえか歴史上でも魔人は何度も復活しては剣師セイヴァや土地の英雄たちによって滅ぼされてきた。苦労して討伐しても徒労というわけではなく、一度滅ぼせばどんなに短くても十数年は復活しないのがこれまでの常識であった。


 ところが剣師セイヴァによって滅ぼされた峰の魔人の、コウゼンによって斬られたままで転がっていた長大な鼻がむくむくと動き出していた。斬られた断面から肉がぶくぶくと膨れ上がって元通りの本体を形成し、表面には豊かな羽毛を整え、一分もかからずに峰の魔人は復活したのであった。


 このときコウゼンは剣を振り上げ、塔の魔人を脳天から一刀両断しようとしていた。峰の魔人はまだ立ち上がってもいなかったが、鼻を器用に動かして射線を調整し、鼻先をぎゅっと絞り、極めて細くしたその穴から空気を圧縮して放った。かなりの距離があったにも関わらず、針のようにして打ち出された空気の弾丸は魔除けの灰色の外套すらも貫通し、コウゼンを吹き飛ばした。


 峰の魔人は立ち上がった。そして長大な鼻を振り上げ、一帯の山々に轟く雄叫びを上げた。その叫びは命令を超えて、洗脳すら起こした。空の彼方から前回の戦いのときを上回る大群の翼甲獣プテリオキロスがネビウスの張り巡らした魔除けの塔の領域を超えて姿を見せ始めた。


 剣師セイヴァ月追い(ルナシーカー)の相手で忙殺されており、峰の魔人の雄叫びを止めることができなかった。他のナタブやブートの戦士たちも翼を持つ大蛇を相手にしなければならなかった。


 このとき海の守り石を矢じりにした破魔の矢が放たれた。矢は峰の魔人の鼻に突き刺さった。峰の魔人は雄叫びではなく悲鳴を上げて、刺さった矢を引き抜こうとしてもがいた。矢はさらに続けて放たれ、一撃一撃が峰の魔人を苦しめた。


 矢を射たのはカミットであった。彼は海の都(ドンド)でネビウスから授けられた破魔の矢をあっという間に使い切ってしまうと、すぐに弓を雷の短槍に持ち換えて、峰の魔人に向かって突進した。

お読みいただきありがとうございます。

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