呪いの入り江(5)「塔の魔人」
継承一門の戦士であるレッサとジンはネビウスの動きを察知し、二人で魔人のいる呪いの入り江の最深部へ追いかけてきた。
ネビウスと塔の魔人は激しく剣を打ち合っており、またその向こうでは入り江の魔人がネビウスが設置した無数の火によって行動を制限されて、ヒトデの手を振り回してもがき苦しんでいた。
ネビウスはレッサに気づくと、塔の魔人を蹴り飛ばして距離を取り、レッサに駆け寄ってきて言った。
「待っていたわ。塔の魔人をお願いね」
「ネビウスはどうするのです?」
「私は子どもたちを連れ帰るわ」
レッサは倒れているミーナと彼女を庇うようにして立っているカミットを見た。レッサの考えでは、実力の効率を考えるとネビウスが戦線を離脱するのは好ましくなかった。しかし、ネビウスは最初からそのつもりだったらしい。レッサの返事など待たずにあっという間にカミットとミーナを両脇に抱えて走って行ってしまった。
ジンはレッサに近づいて聞いた。
「あの火はすぐには消えませんよね?」
入り江の魔人を抑え込んでいるネビウスの火は主が去った後も健気に燃え続けていた。その火が消えたときには、レッサたちは二体の魔人を相手にしなくてはならなくなる。剣の達人と言えど、巨体を持つ入り江の魔人は対処が難しそうな相手であった。
レッサは「大丈夫よ」と言って頷き、塔の魔人の方を向いて剣を抜いた。
初撃。塔の魔人の光の剣は細い見た目に似合わず、とてつもない重さで、剣で受け止めたレッサをそのまま叩き切るかに思われた。これにジンが割って入り、塔の魔人は剣を引き、身を躱した。
レッサは刃こぼれした刀身を見て舌打ちし、ジンに言った。
「あの剣は重いわ。直接は受けきれない。捌くにしても、まともに受けたら、剣がぼろぼろになる」
「そのようですね」
「挟み撃ちにしましょう」
「分かりました」
二人は塔の魔人を囲むようにして、立ち回り、息のあった動きで互いを助け合いながら、塔の魔人と渡り合った。
一方、塔の魔人はネビウスとの戦いで冴え渡っていた剣の技が鈍化してきた。体力が落ちつつあるのかもしれなかった。
ジンが好機とみて踏み込もうとするとレッサが「待ちなさい!」と叫んで制止させた。
塔の魔人の裂けた口がにやりと笑った。塔の魔人は空いていた左手から体の組織を増殖分裂させて剣を象らせて現し、二刀流となった。
「あれを作るためにエネルギーを割いていたのね」
「どうやって倒しますか?」
レッサは塔の魔人の口の中の舌だけが赤黒いのを発見していた。魔人の弱点はだいたい赤黒いか、黄色や緑などの刺激の強い色と決まっていた。
「舌を切りましょう。……つまり、頭を斬って、顎をざっくりいけば良いのよ。力技はあなたの担当よ」
「では、そうしましょう」
二人は剣を構え直し、二刀流となった塔の魔人と再び剣を交えた。
※
呪いの入り江で戦闘が行われていることはすぐに報告され、夜中にも関わらず、東の港町による急遽の大攻勢が仕掛けられることになった。柵は解放され、ありったけの戦力が投入されたのである。
タゴンは準備が終わっていない段階での戦闘に難色を示したが、シルクレイシアとドミニ、そしてレッサの三名が今やるべきだと意見したのである。彼らの意見の根拠はネビウスその人であった。ネビウスはカミットの不在を知るとすぐに呪いの入り江に向かったので、この夜ならばネビウスが戦闘に参加するという見立てであった。
呪いの入り江の包囲網内では既に戦闘が始まっている状況で、包囲網の手前でシルクレイシアとドミニが話した。
「こんなときに話すことではないのだけど」
「おぉ。どうした? 愛の告白か」
「いいえ。違うわ。海竜の鎧と海の守り石のペンダントのことよ」
「ん? 何の話しだ?」
「とぼけないで。バルチッタから買ったでしょう?」
「買ったかもしれん。しかし俺はお宝なんぞ山程持っているから、一々あれがこれで、これがあれでとか覚えておらぬ」
「そう。……私達の英雄の遺品なのよ」
「本当に、こんなときに話すことではないな。これからその遺品はさらに増えるのだからな」
ドミニは呆れた様子で失笑を漏らしたが、彼は勘が良かったのですぐに次のように言った。
「金次第だ。戦いが終わったら話し合おう」
「ええ。だから、生き残ってね」
「おや? 理由はともあれ、嬉しいことを言ってくれるものだ! この俺が生涯で海の守り子で、こんな高貴で美しい女に優しい言葉をかけてもらえるとは思っていなかったぞ! では、生きて戻る! 俺の帰りを待っていろよ!」
ドミニは陽気に叫んだ。彼は長杖を肩にかけると、控えている配下の海賊たちに手で合図をして、戦士たちの先頭に立って呪いの入り江に入っていった。
海賊戦力は二手に分かれていた。ドミニが直接率いる精鋭部隊と牢獄の都出身者によって掻き集められた数百名からなる補助部隊である。補助と言っても、大多数がそちらに属しており、彼らが海中で敵の援軍を撹乱できるかどうかが作戦全体の成否に関わっていた。
ドミニは杖を振り、人の行動を縛る闇の呪いにて、海中に潜ませた補助部隊に命じた。
「命果てるとも、最期まで戦え」
そして自らは精鋭部隊を率いて、荷車に必要な備品を満載して、魔人が待つ呪いの入り江の最深部へと向かったのである。
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