表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ネビウスクロニクル  作者: 石井
海の都編
43/259

呪いの入り江(1)「大演説」

 東の港街(シラトビ)では街の頭領であるタゴンが怒り心頭して待っていた。海賊の船が接近していると報告を受けて、ただちに百人規模の軍船を三隻も出したというのに、その海賊船にはあろうことか彼の娘が乗っていたのだから、その怒りは当然だ。ネビウスとシルクレイシアは行き先を告げずに出ていたため、彼は全て事後の報告を受けることになったので、このことも彼の怒りを増幅させた。


 タゴン邸にて、タゴンとレッサの面会が先ず行われた。レッサとジンは太陽の都(ソルガウディウム)の命により、ドミニを逮捕しに来たのだが、海賊が魔人討伐の戦力になるかもしれないという状況で、彼らは逮捕の好機を捨てたのである。このことは海賊に対してなおも懐疑的であったタゴンの決心を後押しした。


 街と海賊の砦の間でやりとりが行われ、数日後には船団と百人の戦士を引き連れて、ドミニが到着した。


 ドミニはたった一人でタゴン邸に乗り込んできて、街の有力者からなる戦術会議に参列した。彼は大声を出して言った。


「春を待つだと? 今か、そうでなければ明日にも、入り江を攻めるべきだ」


 彼は演説した。


「俺は闇の者どもを知っている! 奴らはこうと決めたことをやるというのに、待つことなどしない。だというのに、なぜ入り江の魔人は閉じこもって出てこないのか! 魔人は弱っているのだ! それはなぜか! お前達の自慢の戦士たちが命をして戦い、魔人に手傷を負わせたからだ! 嗚呼アアっ、お前達はもう三ヶ月も無駄にした! 大馬鹿者どもめ!」


 会議の参列者達はドミニの罵詈雑言に対して、怒声でもって応じた。会議は一瞬で荒れて、殴り合いに発展しかけた。


 会議の主催者であるタゴンは落ち着き払って言った。


「残念だが、有力な戦士は大半が戦死した。我々は全ての戦士を駆り出して、都や街を空にするわけにはいかないのだ。これまでの計画では、この冬を使い、遠方の港街からも戦士を募り、戦士団を再編成することになっていた」


 タゴンが一言を発すると、これを聞くために街の者たちは誰もが静かになるのだった。


 ただし他所よそ者であるドミニは違う。


「そんな計画はまったくダメだ!」


 ドミニはネビウスを睨んだ。


「人が悪いぞ、ネビウス! お前は分かっていただろ? 闇の者共といかに戦うべきか!」


 ネビウスは参考人として会議に参列していたが、菓子や茶を楽しむばかりでさっぱり話を聞いてなかった。彼女は聞き返した。


「なにか言ったかしら?」


「この杜撰な計画を知っていただろ!」


「なんのこと?」


「ふん! もういい! ああ、そうだ! もう一つ、我々が最速で戦いを挑むべき根拠がある」


 ドミニは会議所の隅でひっそりと座っていた二人組、レッサとジンを示した。彼らはドミニを監視するために、手元の書紀板で会議の議事録を取っていた。ジンは赤肌ではあるがヨーグ人ということで普通にしていたが、レッサの方はジュカ人であることを隠すためにフードを深く被り、布で顔の大半を隠していた。二人は予め話し合っていた様子で、発言はジンが行った。


「我々は無関係だ」


「いや、いや。そんな冷たいことを言うなよ」


 ドミニは胡散臭い笑みを浮かべて彼らに近づいた。


「俺はこんな様子だから、これまでにも何度も継承一門カイラの戦士に殺されかけてきたから、胸を張って言えるぞ。お前達は連中の中でもかなりの腕前だろう?」


「我々に強さの序列はない。誰であろうと、一門の戦士は命じられた任務を遂行できる」


「お手本のような回答だが、お前は自ら矛盾を示した。そうとも! 継承一門カイラの戦士は言われたことを、ただただ忠実にこなすだけの連中であるはずなのだ。俺の話に聞く耳を持った一門の戦士はその女が初めてだったし、その女は俺を逮捕しなかった。これはオカシイぞ、と俺はすぐに気づいたが、はァ! なるほど、と俺は理解した。お前たち、魔人討伐となれば、協力してくれるんだろう? なァ!」


「有り得ぬ。海賊と共闘するなど、掟に反する」


 ジンは明言した。


 しかしドミニは彼を鼻で笑い、今度は再び街の有力者達の方を向いた。


継承一門カイラの戦士が二人! 月追い(ルナシーカー)に対抗し得る剣士が二人もだ! ところがこの戦力が街に滞在するのはよくて一ヶ月だ。なぜなら魔人討伐のために良い子ちゃんでいるこの俺をただ見張るためだけに、この一流の剣士どもを田舎で遊ばせておくほど、太陽の都(ソルガウディウム)は馬鹿ではないからな」


 ドミニは意気揚々と大演説を続けていたのだが、レッサがすっと立ち上がると、彼は笑顔を固まらせた。


「どうした? 何か喋る気になったのか」


 ドミニもレッサも背丈が低い。大男ばかりのヨーグの集まりの中央で小さな二人が向き合っていた。


 レッサは言った。


「たしかに私は太陽の都(ソルガウディウム)の意向をしばしば無視するし、そういうことができる権限もあるわ」


 けれどね、と彼女は言うなり、ドミニの胸ぐらを掴んで、海賊よりも海賊のような迫力で言った。


「逮捕しろと言われた対象を斬ってしまうことだってあるわ」


「おい、おい。冗談は止せ。こんな場所で。な?」


「良い子ちゃんだと思われたいなら、そういう態度を取りなさい。そうでないと私は何も考えられないわ。あまり目に余る様子を見せられていると、カッとなっちゃいそう」


「分かったから、手を離せ」


「発言の際には東の港街(シラトビ)の偉大な方々に敬意を示しなさい。侮辱は許さないわ」


「分かったよ!」


 レッサはドミニを突き飛ばした。ドミニは会議所の真ん中で転がって呻いた。


 会議の後でネビウスがレッサに近づいて、からかうように言った。


「怒りん坊さん」


 レッサは即座に言い返した。


「あなた譲りですよ」

お読みいただきありがとうございます。

ブックマーク、ポイント☆など入れていただければ幸いでございます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ