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ネビウスクロニクル  作者: 石井
海の都編
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槍岩の海(7)「知己」

 一晩の滞在を経て、ネビウスたちはドミニからタゴンへの書簡を預かり、海賊の砦を後にすることになった。


 ドミニは送迎の船を手配し、さらに港まで見送りに来た。彼はネビウスに丁寧に言った。


「友よ。またいつでも来い」


「そうねェ。気が向いたらね」


 ちょうどこのやりとりをしていたときであった。


 森の民の商船の貨物に隠れてやってきた招かれざる客が港へ降り立った。


 一人は鮮やかな青い花びらの髪、花髪かはつのジュカ人の女。さらに赤い鱗肌のヨーグ人の大男が続いた。二人とも灰色の外套を着ており、他の森の民やヨーグ人とは雰囲気が違った。


 二人はドミニを見つけると、何やら互いに目配せをして頷きあった。


 賑やかな港において、その二人は気配を消して、ドミニに近づいてきた。


 異質な二人は外套の中で手を動かした。そのとき外套が翻って、腰に剣を差しているのが見えた。

 ただ一人が彼らの接近に気づいていた。


「危ない!」


 カミットは叫んだ。


 ネビウスは反射的に剣を抜いて、ドミニと二人の剣客との間に入って、相手の剣を受け止めた。

 ネビウスは驚いていたし、もっと驚いていたのは相手の森の民の女の方であった。


 一方、赤い鱗肌のヨーグ人の男は顔色一つ変えずに強烈な斬撃をネビウスに浴びせた。ネビウスはこの攻撃をいなしつつ、ドミニを庇うように立ち回った。


「待って。ジン」


 森の民の女は凛とした声で言った。


「事情が変わったわ。非常に良くない状況よ」


「師匠。この女は手練てだれです。お喋りをしていられる状況ではありません」


 赤肌のヨーグ人の男は緊張した様子で言い返した。


 ネビウスはニヤニヤと笑いながら、森の民の女に話しかけた。


「最近は昔の知り合いによく会うわ」


「こんな場所でなければ懐かしむところです」


 森の民の女は冷静だったが、声には苛つきが見え隠れしていた。


「中立のネビウスは海賊を守るのでしょうか?」


「あらまァ。えーっと」


 ネビウスはカミットが叫んだので思わず動いてしまったのだが、冷静になればドミニを守ってやる義理は無かった。ネビウスは小刻みに頷き、自分の中で納得すると剣を納めた。


 配下の海賊に助け起こされているドミニを横目に、ネビウスはすすすと離れて言った。


「どうぞ。お好きに」


「ありがとう」


 ドミニは剣を持って迫られると両手を挙げて降参の意を示した。


 赤肌のヨーグ人はドミニに軽蔑の眼差しを向けて言った。


「舐めるなよ、小者め。俺は斬るぞ」


「待ちなさい」


 森の民の女はドミニの首に剣を突きつけて問いただした。


「炎の賢者と何の話をしたの?」


「治療を受けた見返りに、東の海の安全に協力することを申し出たのだ」


 ドミニはすらすらと答えた。


「嘘ね。ネビウスは政治の真似事をしないわ」


「本当だ。見ろ。そこの女だ。彼女は海の守り子だ。そいつに話を聞け!」


 急に話題に巻き込まれたシルクレイシアはカミットを守りながら遠巻きに騒ぎを見ていたのだが、進み出て言った。


「シルクレイシアよ」


「やはり良くない状況ね」


 森の民の女は剣を納め、シルクレイシアに握手を求めた。


継承一門カイラ剣師セイヴァ、レッサよ。あちらは私の弟子のジン」


「よろしく。この砦でまともな人と話せるとは思っていなかったわ」


「こちらこそ。私の身元はあなたからすれば不明だろうけど、そのことは私の師が保証してくれるはずよ。そうですね? ネビウス?」


 ネビウスは話を振られて首を竦めた。





 ネビウスたちは海賊の船で東の港街へ向かい、その船内でネビウスとシルクレイシアは継承一門カイラ剣師セイヴァによる尋問を受けることになった。


 レッサは特にネビウスに手厳しく追求した。


「我が師よ。いかにあなたが掟に縛られぬ身であるとは言え、闇の魔術を使う海賊を治療することは、公的安全を脅かす行為であり、非難の対象です」


「はい、はい。そのとおりだわ」


 ネビウスはいい加減な相槌を打った。


 これについては同席していたシルクレイシアも深く頷いていた。


「ただし、ドミニを懐柔しつつある点は評価します」


「あらまァ。褒めてくれるのね。嬉しいわ」


 レッサは笑っているネビウスを鋭く睨んだ。


「入り江の魔人の脅威という例外状況があるからです」


 大人たちの真剣な話し合いが長引くと、その席にひょこりと葉っぱ頭のカミットが出てきて、椅子に座った。


 レッサは思い出したようにネビウスに言った。


「この子はなんです?」


「僕はカミット! 森の民!」


「ジュカ人と言いなさい。私達は森の民などという奇妙な言い回しはしない」


 レッサはぴしゃりと言った。


 カミットは驚いて、ネビウスを見た。ネビウスはにこりと笑って「じゃあ、これからはジュカ人でいきましょ」と言った。


「レッサはジュカ人だね! 緑色の肌は一緒だけど、葉髪じゃなくて、キレイな花の髪をしている!」


「そうよ。私みたいな髪の者は稀にいるの。でもね、外見のことを言及するのは止しなさい。全く不要なことよ」


 レッサはカミットをじっと見つめた。そしてネビウスに尋ねた。


「呪いの子ですか? 最初はあの悪徳商人たちの子どもかと思いました」


「そうだけど、その前に私の子よ」


「ネビウスの子ども?」


「ええ、そう」


「あなたが子どもを? いつから?」


「赤ん坊のときからずっとよ」


「どういう心境の変化でしょう」


「気持ちなんて毎日変わるわ」


 尋問は一旦中止になった。


 レッサとネビウスは船内の隅で個別に話し合っていた。 


 カミットは船上に出た。ヨーグの船は海中で泳ぎ手や海獣によってたくさんの縄を引くことによって推進力を得る。そのため船上は通常なら貨物を積むために使われるが、今回は移動そのものが目的であるため非常にさっぱりとしていた。


 船の先頭の方に灰色の外套姿の大男が立っていた。赤肌のヨーグ人であり、かつ継承一門カイラの戦士、ジンである。


 カミットは彼に話しかけた。


「僕はカミット! よろしくね!」


 ジンは恐ろしげな目でカミットを見下ろした。


「お前の親は勝手にうろついていいと言ったのか?」


 カミットは首をかしげた。


「ネビウスは僕にああしろこうしろって言わないよ?」


「ネビウスから剣は習ったか?」


「ううん。ネビウスは何も教えないよ」


「やはり弟子ではないのか」


「弟子と子どもは違うの?」


「子どものくせに質問をするのも親の影響か」


 ジンは恐ろしげな見た目に反して、口調は穏やかだった。カミットは彼から厳格さと柔らかさを同時に感じ取った。レッサには不用意に近づくと叱られそうだと判断した一方、ジンの方は大丈夫そうだとカミットは思った。


継承一門カイラってなに?」


「そんなことも教わっていないのか」


「教えてよ!」


 ジンは言葉を選ぶ様子で、ゆっくりと言った。


太陽の都(ソルガウディウム)職人組合ギルドの要請に応じ、世に蔓延はびこる悪を倒す。それが我々、継承一門カイラの戦士の責務なのだ」


 海賊の船が東の港街(シラトビ)の勢力圏に入ると、猛烈な勢いで迎撃の船が三隻も出てきた。シルクレイシアは先行して泳いでいって、東の港街(シラトビ)の船に上がり、事情を説明した。


 海上にて、ネビウス、カミット、それから継承一門カイラの戦士であるレッサとジンも、東の港街(シラトビ)の船に移動した。

お読みいただきありがとうございます。

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