東の港街(11)「探偵」
カミットを監督する人が居なくなり、彼はしばしばタゴン邸で留守番を強いられるようになっていた。そんな日が続いていると、彼はちょくちょく出かけるようになった。
彼はネビウスに対しては「今日はシルクレイシアと一緒なんだ」と言い、シルクレイシアに対しては「今日はネビウスと一緒なんだ」と言った。
そうしてある昼下がり、街中で偶然居合わせたネビウスとシルクレイシアは互いに首を傾げた。
「あらぁ? 坊やはどうしたの?」
「あなたこそ、カミットと一緒じゃないの?」
互いに顔を青ざめさせた。
「もう! 師匠が面倒見てくれる約束でしょ!」
「先ず親がちゃんと見ておきなさいよ!」
二人は大慌てでナタブの野外市に向かった。
ジュカ人の子どもは目立つので、その目撃情報は多々あった。二人は彼がしばしば出没しているという、宿場に向かった。
野外市は荒れ地から海岸地帯にかけて活動する傭兵たちの駐在地としても機能している。ある一角には彼らの集まる宿兼酒場である大型天幕が聳え立っていた。
シルクレイシアはあまり気が進まなそうにして言った。
「漁師が言えた立場じゃないけれど、柄が悪そうね。本当にこんなところにあの子が一人で来ているのかしら? 先週、街の方で調査したときはけっこう揉めたみたいなんだけど」
「あの子、血の気の多い男たちが好きみたいなのよ。私もちょっと辞めてほしいのだけれど」
酒場は傭兵で満席であり、どの席でも酒と肉がこれでもかと並べられていた。荒れ地の都の職人組合酒場と違うのは、こちらでは人種構成として半数近くがヨーグ人からなる。
ネビウスは酒場を見渡すと、
「友達がいたわけね」とうんざりした様子で呟いた。
ネビウスはずんずんと進んでいき、あるテーブルの前に立った。
そのテーブルの傭兵たちは騒いでいたのがぴたりと止まった。
一人だけ、傭兵たちのリーダー格と思しき男がネビウスに言った。
「呪いの森では世話になったな」
「世話をした覚えはないわ」
「つれないな。ネビウスが化けクモを一人でやってくれたのには感謝しているんだがな」
この席付近の十数人の傭兵たちは呪いの森の魔人討伐隊であったのだ。ネビウスは彼らを覚えていたが世間話をするほど親しいわけではなかった。ただ魔人討伐の後もカミットが世話になっていたことは話で聞いていた。
ネビウスは言った。
「私、あんたたちに用はないのよ。カミット、隠れていないで出てきなさい」
テーブルの下からカミットの葉髪頭がひょこりと出てきた。彼は気まずそうに表情を歪め、顔中を汗だくにして酷く不安な様子であった。
ネビウスはにこりと笑いかけて言った。
「さあ、帰りましょ」
カミットは笑顔になって、ネビウスに抱きついた。
「ちょっと待ちなさいよ」
シルクレイシアが割って入る。
「ネビウス、あなた、叱らない気なの?」
「私はこの子を怒ったことはないわ」
「彼は大人に嘘をついたのよ」
「嘘くらいつけるようにならないと人生やっていかれないわ」
「親がそんなんじゃ子どもは調子にのるでしょ!」
「なんでアンタがそんなカリカリするのよ」
ネビウスとシルクレイシアが言い合っていると、傭兵のリーダーが言った。
「ヨーグの守り子。あんたに良い知らせだ。カミットがぎゃあぎゃあ言うから、俺たちの方でも気になって調べたんだ」
傭兵団の下っ端が走っていって宿からいくつかの防具や武器を持ち出してきた。シルクレイシアは目の色を変えて駆け寄り、品々を見定めた。
シルクレイシアは目に涙を浮かべて言った。
「英雄たちの物よ」
「物が良いのにやたら安かったからな。俺たちが魔人討伐を予定していると知って、そいつは売り込んできた。それで、そのときあった物はまとめて買った」
「……返してくれるのよね?」
「金次第だ。良い交渉になるのを期待している」
シルクレイシアは苛ついて舌打ちした。
「あなたたち、先週街が調査したときには誠実に回答したんでしょうね?」
「どうだったかな。俺たちは仲間には良くするがな」
「英雄たちの武具は誰から買ったの?」
「俺たちは売買契約があって言えない」
ここでカミットが即座に言った。
「バルチッタだよ」
シルクレイシアは怪訝な様子で首を傾げたが、ネビウスの方は大きなため息をついて項垂れた。
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