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ネビウスクロニクル  作者: 石井
海の都編
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東の港街(10)「弔い」

 ネビウスによって回収された遺品と遺体を弔うための葬儀が港街全体を挙げて行われた。海岸に面した広場では夜を通して火が焚かれ、死者が弔われた。


 カミットはネビウスに連れられて葬儀に参加した。カミットは人々が嘆き悲しむ様子を見て、ネビウスに小声で尋ねた。


「ネビウス。人が死んじゃうと悲しいんだね?」


「永遠の別れだもの。愛が強いほどに悲しいのよ」


「ネビウスもいつか死んじゃう?」


「坊やよりは長生きするわ」


「そうなの?」


「私はいつも見送る側よ」


 ここにシルクレイシアがやってきて、ネビウスに話しかけた。


「ありがとうね」


「どういたしまして」


「……あなた、全部調べたって?」


「浜に残っていたモノはね」


「入り江の決戦跡まで行ったのよね」


「そうよ」


「魔人には会った?」


「いいえ。でも会ったとしても何も起きないわ。魔人と私は今は喧嘩していないから」


 シルクレイシアは沈痛な面持ちで言った。


「東の港街シラトビの一番の戦士であったラティスの遺品が一つも見つかっていないの」


「気の毒ね。何か目印になるものがあったのかしら?」


「海竜の鎧と海の守り石のペンダント」


「そんな豪華なモノだったらひと目見て分かったと思うわ」


 ここでカミットが口を挟んだ。


「高く売れそうだから、きっと盗まれちゃったんだ」


 ネビウスはカミットを抱き寄せて「静かにおし」と言った。カミットは口を尖らせてむすっとして黙った。


 シルクレイシアは話しを続けた。


「英雄たちの遺品が特に少ないのよ。なんとかして取り戻したいわ」


「それで私にまた頼み事ってわけ? このままだと私がヨーグの救世主になっちゃいそうよ」


 ネビウスが嫌そうな顔をするも、シルクレイシアはにこりと笑いかけた。


「友達でしょ?」


「友達の間ではね、私は面倒見が悪いので有名なのよ」


「そうかしら? かなり世話焼きと思うけど」


「そりゃあ、ヨーグの基準で言えばねェ」


 ネビウスはぽりぽりと頭をかいて、うーんと唸った。ネビウスは自分が決定打になるのは嫌だったので、無難な発言に留めた。


職人組合ギルドが調査するんじゃないかしら?」


「もちろんそうでしょうけど、実際に現場の遺品を調べたあなたなら呪いの痕跡を追えるんじゃないかと思って」


「そんなの無理よ」


「そう。残念だわ」


 シルクレイシアが去った後も、ネビウスは燃え盛る火を見つめていた。その隣で、カミットは不気味に沈黙していた。





 葬儀の数日後、シルクレイシアは外套を着て、フードを深く被って、郊外のナタブの野外市を訪れていた。戦士たちの遺品はヨーグの街では流通していなかったので、残る可能性は内陸向けのナタブの商業ルートにあったからだ。


 野外市では商人の天幕テントが並びたち、天幕テントの間の細い道は買付に来る客と卸入れの業者、また彼らの荷車などでごった返していた。


 シルクレイシアは防犯のために、職人組合ギルドの上級職員二名を同行させていた。盗品等を扱う商売人は真っ当なふりをしていても、その根っこの人間性は盗賊とほとんど変わらない。摘発されると分かれば、どんな危険な行動に出るとも分からないのである。


 シルクレイシアは人混みの中でたびたび視線を感じていた。誰かに見られているならば、彼女にとっては好都合だった。職人組合ギルド職員に目で合図をして、一人を後方に移動させた。その結果、シルクレイシアは視線の主を捕らえることに成功した。


 路地裏にて、ナタブの大人である職人組合ギルド職員に首根っこを掴まれていたのは頭巾で頭髪を隠しているカミットであった。


 シルクレイシアは脱力して項垂れた。


「嘘でしょ。付いてきちゃったの!?」


「ネビウスは何もしてくれなかったでしょ? 僕が手伝うよ」


 カミットは悪びれずに言った。


 シルクレイシアは彼を無視して、職員に言った。


「この馬鹿弟子を街に連れ帰って」


「待ってよ。ほら!」


 カミットは左手の銅の腕輪を示した。大地の化身(アウクシャ)を象るカメの彫刻が彫られた、荒れ地の職人組合の初級職人の証である。


「なにそれ」とシルクレイシアは言って首を傾げた。一方、職人組合ギルドの方ではその意味が分かっており、カミットは地面に降ろされた。


 職員は腕輪に刻印された文字を確認した。


 シルクレイシアは驚愕した。


「はぁ? アンタ、徒弟なの? しかも職人組合ギルドの!?」


「そうだよ」


「どうせネビウスが捩じ込んだんでしょ。馬鹿親丸出しね」


「ネビウスを悪く言うな!」


「はい、はい。とにかく帰りなさい。ここは子どもの来る場所じゃないのよ」


 カミットはすっと黙った。


 何やら緊張が漂い、シルクレイシアは身構えた。


 カミットは手足や地面に蔦を現して、これらをくねくねと動かした。カミットはこの呪いの蔦を手指のように器用に動かして、輪っかを作ってくるくると回したり、先端を尖らせてしゅっしゅと突く仕草をしてみせた。


「僕は悪いやつをこれで捕まえられるんだよ」


「勝手に呪いを使わないのよ。今すぐ引っ込めなさい」


 カミットは首を竦めて蔦を枯らした。


「僕はこれで月追い(ルナシーカー)を転ばせたんだよ」


「嘘はやめなさい」


「嘘じゃないよ。僕、森の魔人だって倒したし」


 カミットは自慢話があまり印象が良くないということを学んでいたので最近は控えていたが、久々に言ったのであった。


 シルクレイシアは呆れて言った。


「馬鹿なのは良いけど、嘘は厳禁よ。守れないなら破門にするわ」


 すると職人組合ギルド職員がシルクレイシアに耳打ちした。


 シルクレイシアは怪訝な顔をして、職員の貸した拡大鏡でカミットの腕輪に小さく掘られた荒れ地の英雄に贈られる感謝文を確認した。彼女は困惑して言った。


「えぇ……。どうしたら良いのかしら」


 カミットは風向きが変わったのに乗じて控えめに言った。


「僕、荒れ地の都(ペキ)では悪い商人を捕まえるのも手伝ったことあるよ」


 シルクレイシアはカミットに聞いた。


「あなたを連れて行くと、どう仕事が捗るのか説明してごらんなさい。言っておくけど、私達の目的は悪人を捕まえることではないのよ」


 カミットは口を開けてぽかんとして、首を傾げた。


 シルクレイシアは命じた。


「帰りなさい」


「なんで!?」


 以後はシルクレイシアは抗議を受け付けなかった。


 カミットは最後までぶうぶう文句を言っていたが、組合職員に港街まで連行された。

お読みいただきありがとうございます。

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