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ネビウスクロニクル  作者: 石井
海賊の都編
252/259

第252話 鮫鰭丘(7)

 全ての企みが上手くいったとでも言いたげに、モノは邪悪に笑っていた。

 カミットの気持ちとしては、彼自身が中ツ海(オケアノス)の人間たちの企みが二重三重に絡み合うのに巻き込まれ、自由に身動きができなくなり、それどころか知人が呪いの化身になってしまったのを殺せなどと言われ、そういった諸々の事情が鬱陶しくなってきていた。

 それで彼は考えるのをやめた。

 カミットはばっとモノの胸ぐらを掴んで、息が触れ合うほどの距離に顔を近づけて、言った。

「こういうのは嫌だな」

 それでもモノはまだ笑みを崩さないでおり、カミットに威圧的に言った。

「おい、この手を離せ」

「なんでだろなァ」

「手を離せと言っている」

 ネビウスと暮らしていた頃は良かった。思い返すほどにネビウスは良き人であった。

 同じ古の民とは思えない邪悪な女がモノであった。彼女は見た目は普通の古の民を装っているが、ファラオの権力を盾にしてやりたい放題である。海賊の都(ネオポセイディア)を覆う闇の力がどうやらこの古の民である人物から発せられているらしいことをカミットは感じ取っていた。

 根拠はなく、ただ直感である。

 このとき、その場に居合わせていたドランがカミットを止めに入った。

「カミット。モノはファラオの代理人だぞ」

 これを言われ、カミットの怒りがさらに増した。

「そんなのどうでもいいじゃん。僕は僕だし。モノはモノ。ディナミスはディナミス。みんな、別々だよ」

 モノは舌打ちして、こちらも怒りに顔を歪めた。

「獣はせめて戦いくらいでは活躍したらどうだ。ここで私に突っかかっている間にも人が死ぬぞ。お前がまいた火とケダ・シセラルの置き土産のせいでな」

「僕のせいじゃない。それは僕が知っている。誰かが街に火をつけた」

「そんな言い訳だれも信じないだろうな。お前は自分でやったことの責任を果たすしかない」

 カミットはこれを聞き、ふふと笑った。本当はぼかんと殴ってやりたかったが、モノは古の民であったし、しかも女性だったので、それはできなかった。だからあえて笑って、彼女から手を離した。このときは勝てなくとも、負けなければ良いと、ひとまずは考えを切り替えた。

「僕じゃないって言ってるでしょ。あっ、分かったぞ。モノが火をつけたんだ。あとさ、ケダ・シセラルを殺したのもモノだ。全部、モノが悪いんだ」

 モノはカミットに掴まれて乱れた衣服を整えながら、カミットを嘲笑した。

「狂人の主張を誰が受け入れるだろうか」

「でもさァ。僕はもう分かっちゃったんだよね」

 カミットは全ての悩みがすっかり解決したような晴れやかな気分になっていた。

 対照的に不安がったのは海賊一家の責任ある長男のドランである。

「それではファラオは納得しないだろ」

 これに対して、カミットの返答は明瞭であった。

「ディナミスがどう思うかなんて、どうでもいいよ!」



 実に五分五分であった。というのは海賊の都(ネオポセイディア)のヨーグ人たちから嫌われている度合いが、カミットとモノは同じくらいにたいそう嫌われていた。ヨーグ人たちからすればどちらも災難を引き起こすよそ者であった。

 リノロ家の祭壇の街が炎に包まれたのはカミットのせいであると思われていたが、今はそれどころではなかった。巨大なたこが街の上空に現れて、それが撒き散らす不気味な雨が火を消すといっても、その怪物が安全で無害な存在とは誰も思わなかった。人々は新たな脅威が街を襲ったと感じていた。

 ここでその怪物を殺すことによって、英雄カミットの第二の軌跡が始まるのであった。モノに唆されて戦うというのは気乗りしなかったが、彼女の意向に沿うことでファラオの好感を得られるというのは、カミットが戦うに値する理由になった。

 たこは地上に降りてくると、街の丘にある祭壇広場に陣取って、そこから呪いの毒液をぶしゃぶしゃと撒き散らしていた。

 火の猪であるヤージェはこの恐ろしい気配に反応した。火をまとい、勇ましく吠えると、本来の小さな子猪の体がむきむきと肥大化し、力強い火の猪の姿となった。

 カミットはその背にまたがり、手綱を握った。

「ヤージェ、行くよ!」

 ヤージェの火がカミットに燃え移ると、カミットまでもが変身し、金色の花びらのたてがみをしたライオンの顔に変わった。手足には鋭い爪が生え、体は豊かな毛に覆われた。終わりの島(エンドランド)太陽の化身(スタァテラ)との融合を果たして以来、カミットはこのように変身できるようになったのだ。

 こうなれば彼らは一心同体である。

 普段はさっぱり連携の取れない二人がわずかな乱れもなく、一つの目的のために動き出したのだ。

 逃げる人々に逆行し、カミットとヤージェは祭壇広場へと向かった。

 ヤージェの足ははやかった。降り注ぐ呪いの毒液を俊敏にかわしながら、それでいて速さを損なうことなく、街路の坂を登っていった。

 ほどなく広場で暴れるたこを視界に捉えた。空に現れたときよりは小さくなっていたが、牛馬などと比較しても遥かに大きな怪物であった。

 カミットは雷の短槍を手にした。力を込めると、槍の刀身がばちばちと電撃を放った。その槍をたこの怪物に投げつけた。その一撃にて致命傷を与えるつもりであった。

 そのとき。

 たこが毒液を霧状に噴射して、身を守るように全方位に防御膜を張った。するとカミットの雷の短槍はその膜の表面で電撃を霧散されて、投擲の軌道もずらされ、あらぬ方向へ飛んでいってしまった。

「あれえ!?」

 カミットは武器を使い捨ててしまって、たちまち丸腰となった。先手必勝の経験に基づく初撃にて最大攻撃力を投じるやり方が完璧にしくじったのは、これが初めてであった。

 こうなってしまっては森の呪いだけが頼りである。

 カミットは森の呪いで弓矢を作ろうと念じた。それか身を守る低木の防壁を。

 しかし森の呪いはうんともすんとも言わず、全く反応がない。

 そのときたこがその手をぶうんと振った。カミットまでは届かないかと思われたが、そのにょきにょきとした手が振り回すのに合わせて一気に伸びてきて、カミットとヤージェはまとめて打ち払われてしまった。

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