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ネビウスクロニクル  作者: 石井
海賊の都編
248/259

第248話 鮫鰭丘(3)

 ある夜、トントリ家の長男であるザテランが殺害された。彼は剣と槍の達人として知られ、海賊の都(ネオポセイディア)で第一の武人と認められていた。その彼がいかにして死んだかというと、深夜に町外れの神殿にて決闘となり、その最期は大地から無数に突き出てきた植物の根によって絞め殺されたのである。

 となるとやはりこの暗殺の最も疑わしい容疑者はカミットとなった。ところがカミットは一応はまだウグスプ家の管理下で行動を把握されており、ドランあるいは妻であるハルベニィががそれを保証していた。カミットがトントリ家の縄張りまで出かけて行って要人を暗殺するとは考えられなかったのだ。

 そうではあるが、この言い分ではトントリ家が黙っていない。ウグスプ家としては何かしらの立場を表明する前に、モノに接触しようと考えた。

 ドランとカミットがモノが滞在する屋敷を訪れると、彼女は大怪我をして寝台ベッドで休んでいた。モノは何も隠さず率直に述べた。

「見ての通りだ。チンピラと思って侮っていたが、色々と小癪な真似をされてな」

「いったいどういうつもりだ」

 ドランの声には怒りがこもっていた。一方のモノはへらへらとして、おちょくるように喋った。

「いや、いや。私はトントリ家の長男を殺すつもりではなかった。しかしやつは私を殺すつもりだったのだ。危うくなると、不思議な力が湧いてきて、私は古き森の妖術によって守られたのだ」

「ええ!? モノも森の呪いが使えるの!?」

「ふん。お前の呪いが伝染うつったのかもな」

「なにそれ! どういうこと?」

 カミットがまだまだ話そうとすると、ドランはカミットに目配せした。カミットは空気を読んで一旦黙った。

 ドランはモノに聞いた。

「なぜ殺し合いになってしまったのか?」

「ふふ。私はただ奴に質問しただけだ。お前はファラオの敵か、とな」

「脅迫的な質問だな。その質問は事実上のファラオからの死刑宣告ではなかったのか」

「弁明があるならすればいいだけだ」

 それならば、とモノが不敵な笑みを浮かべて、ドランを見つめた。

「ウグスプ家の長男ドラン、お前はファラオの敵か?」

 すさまじい緊張感が漂った。カミットですら状況が緊迫していることを理解し、言葉を発せずに息を呑んで、事態の推移を見守るしかなかった。

 ドランは落ち着いた口調で述べた。

ファラオ海賊の都(ネオポセイディア)の第一の守護者であり、ウグスプ家は王朝に忠誠を誓っている。その長子である私もそうだ」

 これに対しモノはあっさりと、

「それは良かった」とだけ言った。

 この後、五家族頭目会議にモノが現れ、

「愚かな若者はファラオの暗殺計画に関わっており、そのことを尋問すると、私に剣を向けた。したがって彼は死んだ」と述べた。



 カミットとドランは岩礁で釣りをした。ドランはモノとの面会ですっかり疲れており、「俺は正直言うと、こうして釣りでもして漁師をしていられたら良かったと思うのだ」などと愚痴をこぼした。

 カミットにはさっぱり理解できない心境であったが、魚が釣り竿にかかったのを格闘して引き上げるのはたしかに楽しい。

「まあね。新鮮な魚って美味しいしね!」

 と賛同を示しておいたが、ドランはくすりと笑って、なにやら噛み合わない様子である。

「お前は疲れ知らずだな」

「だって最近何もしてないし」

「それもそうか」

 釣り竿を垂らして、魚がかかるまでの間は不思議な時間が流れる。カミットに言わせれば退屈そのものであったが、ドランはあれこれ考えている。

「昔な。五家族の若者たちが選抜されて、王都に留学していたのだ。その頃、俺は死んだザテランとも懇意にしていた。俺達は学問を学び、戦士の技を磨いた。そうして海賊の都(ネオポセイディア)へ戻り、俺達はこの都を豊かで平和な場所にしようと誓いあったのだ」

「でも貧乏だし、喧嘩ばっかりしているね」

「ザテランは王都以外との交易を計画していた。そのことがファラオの怒りに触れたのかもしれない」

「なんで? いろんなところと交易した方が儲かって良いじゃん!」

「そのことがファラオにとっても有益とは限らんのだろう」

 カミットが理解できなかったのは、このような状況においてもウグスプ家やトントリ家がファラオに従い続けることであった。とっとと反旗を翻して、王国の船が近づいてこようものなら沖合で沈めてしまえばいいのだ。

 しかしそうできないのはなぜか。

「やっぱりえらがないと……」

 中ツ海(オケアノス)に来て以来、この地のヨーグ人の大問題の根本はエラを切り取るという悪習に違いないとカミットは考えていた。終わりの島(エンドランド)であれば、海岸線を支配するヨーグ人勢力は最大最強と言ってもよいほどであり、その本来の人種的優位を活用すれば、陸の帝国だろうがなんだろうが敵ではないはずなのだ。

 近頃すっかりしぼんでいたやる気が、今またむくむくと復活し始めた。

 釣り竿に魚がかかると、カミットはぐいんと引いて、一気に釣り上げた。

「やっぱりさ! ヨーグは泳いで漁をした方が良いんだよ! そうすれば海賊の都(ネオポセイディア)は今よりもっと豊かになるよ!」

 これを聞いたドランはあははと笑った。

「夢みたいなことを言い出したな」

「夢じゃないよ。僕がディナミスに言って、説得するよ!」

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