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ネビウスクロニクル  作者: 石井
海賊の都編
243/259

第243話 遺産諸島(4)

 結局は最初の発掘調査において、カミットとハルベニィは古来人に遭遇しなかった。遺産諸島は太古にはきっと古来人が暮らしていただろうが、現在は草木に覆われて自然の中に埋もれてしまっていた。

 ハルベニィはウグスプ家の作業員に遺産の発掘や収集をさせたが、今回得られた成果物は特別な機能を持たない代物だった。カミットがそれぞれ検査したので、そのことは完全なる事実であった。

 そうではあるが、ハルベニィはそれを好機と見た。彼は古代の遺産をシンプルに骨董品として売り出す企みを抱いていたのだ。

「それっぽい物語を乗っけてやれば、阿呆の金持ちが欲しがるものさ」

 どこそこの古来人の仙人が使っていたさかずきとか、かの戦において使われた戦車の車輪であるとか言って、それが銀貨百枚の価値であると宣言しようというのだ。

 これを良く思わなかったのはドランである。

「資産家の財産は人々の労働を献上することによって築かれたのだ」

「ウグスプ家だって、漁師から巻き上げているだろうがよ」

「だからこそ我々は海賊の都(ネオポセイディア)を守らねばならないのだ」

「そりゃあ立派なこった! 俺は王様に言われたとおり、金儲けをするだけさ。ひもじい商人は王様に労働を捧げなくっちゃあなァ!」

 ハルベニィはあくまでも自分のアイデアを実行するつもりでいた。

 このときカミットがぼそりと「なんだかバルチッタみたいだね」と言うと、ハルベニィはたいそう怒って、カミットをぼかんと殴ったのであった。

 発掘は数日がかりとなり、途中からはカミットは一人で勝手に探検するようになった。彼は幼い頃には古来人の別荘に遊びに行ったことがあり、古来人の古代遺跡は彼に不思議な懐かしさを感じさせた。

 ネビウスは元気かなあ、などと物思いに耽り、なんとはなしに遺跡の壁を手で撫でながら歩いていたときのこと。

 触れていた壁の一部がボコンと凹んで、するとその周囲の壁が変形しだして、隠し通路が現れたのであった。カミットはハルベニィなども呼んでこようとかと考えたが、ひとまずは一人で行ってみることにした。

 その通路は遺跡内の秘密の宝物庫に続いていた。遺跡全体は大変に古いものであるはずだったが、その秘密の倉庫は保存状態が良く、おそらくかつて使われていたときと全く同じ様子であった。

 古代趣味のぴかぴかに磨き上げられた家具や道具類はいずれも大変に価値があるものと思われた。

 カミットはそれらの物をぼんやりと眺めていた。

 すると背後からつけてきていたモノが急に話しかけた。モノは倉庫の入口の方に立っていた。

「見つけたようだな」

「こそこそ着いてきてたね」

「一族の財産を狙うコソドロを見張っていただけだ」

「どうしようかな。こういうのって、古の民の人たちはあんまり外に出さないようにしていたからさ」

「遺産は有限だ。俗世の人間に渡すことは金貨をドブに投げ込むのと同じだ」

「そうかもね」

 カミットはふと気づいた。モノはカミットを盗賊扱いし、古来人の遺産を守ろうというのだ。ここでカミットが遺産をハルベニィにわたすと言い出せば、今ここでカミットとモノはただちに敵対関係になるかもしれなかった。カミットは積み上げられている遺産に触れるふりをしながら、ちらりとモノを見た。モノは武器を持っておらず、彼女の頭にはバラの髪飾りがあるだけだ。しかし衣の中に武器を隠し持っている可能性は否めない。相手が既に戦闘を覚悟している場合、カミットが攻撃を仕掛けたとてどれほど有利かは不明である。少なくとも、先制攻撃で一撃で仕留めるということは困難に思われた。

 このように考え、状況をもう少し整理することにした。

「モノはディナミスに言われて、発掘を手伝いにきたんじゃないの?」

「私とファラオは主従関係ではない。相互の利益のために関係しているに過ぎない」

「どういう利益があるの?」

「お前に話すことではない」

「ふーん。じゃあ、僕にどうしてほしい?」

「その答えはお前が考え、導き出すべきだ」

「ディナミスみたいなこと言わないでよ」

「試してみるか? お前の力とやらを」

「そんなのいいよ。分かったよ。ここは秘密にしておく」

 カミットはやれやれと手を振って、部屋を出たのであった。

 ところがカミットが秘密の通路を出ていくと、出てすぐのところにハルベニィやドラン、さらに発掘隊の人々が詰めかけていた。

 ハルベニィは興奮して問い詰めた。

「カミット! 中に何があった!?」

「えっと……、何もなかったよ」

 ハルベニィはカミットをぼかんと殴った。

「よーし! 中を調べるぞ!」

 ハルベニィを筆頭とし、発掘隊がどどどと走っていった。

 それと入れ替わりでモノが出てきた。カミットは焦って弁明した。

「ここを出たら、もうハルベニィたちが来てたんだよ」

「お前は彼らを行かせてよかったのか?」

「んん? どういうこと?」

 モノは悪意のある嫌らしい笑みを向けた。

「宝物庫には番人が付き物だ。私は恐ろしくって、とてもお前のように中にズカズカ踏み入る勇気はなかったよ」

 カミットは驚愕し、大慌てでハルベニィたちの後を追った。

 再び宝物庫に入ると、そこではハルベニィたちが狂喜して、古代のお宝を荒らしまくっていた。カミットはハルベニィに訴えた。

「一回ここを出よう。宝物庫の番人がいるかもしれない!」

 ハルベニィはカミットを鬱陶しがり、山のようにあるお宝しか見ていなかった。

「ああん? でもお前とモノが一回中を見たんだろ?」

「そうだけど、なんだか嫌な予感がする!」

 それは天井を這って、宝物庫の侵入者たちを観察していた。盗賊たちははしゃいで、遺産を持ち出そうとしている。ジュカ人の少年とナタブの少女が言い合っていた。前者の方は許可を得て宝物庫に入っているが、後者は違う。

 番人は両手の間に強靭な糸を貼った。さらにもう一つ、糸を固めて矢を作った。手製の弓矢で狙うのはナタブの少女、ハルベニィ。

 気取られるはずはなかった。

 宝物庫の番人とは鉄の肉体を持つ蜘蛛くもであった。音もなく狙い、仕留める。

 そのときジュカ人の少年、カミットが番人の方を見た。

「危ない!」

 カミットがハルベニィを突き飛ばす。

 既に矢は放たれていた。

 ただ一瞬の差により、番人は侵入者を仕留め損ねた。

 ハルベニィはカミットに突き飛ばされて尻もちを着いていた。そして一瞬前まで居た場所に鉄の槍が突き刺さって居るのを見て、顔を青ざめさせた。

 発掘隊はまだ番人の存在に気づいていなかった。彼らはお宝を前にして大騒ぎして夢中だった。

 天井より、番人は降り立った。

 その巨体、鉄の甲殻に包まれた重厚さ。

 降り立つ衝撃は周囲の遺産物を弾き飛ばし、その音はすさまじく、騒いでいた者たちは一瞬で静まり返った。

 鉄の蜘蛛くもの赤い一つ目がぎらんぎらんと光っていた。

 ハルベニィは叫んだ。

「逃げろ!」

 ハルベニィを先頭に、発掘隊は宝物庫の入口へと走った。

 ところが赤いランプが点灯し、入口のシャッターが閉まってしまう。ハルベニィたちは大騒ぎして、今度は宝物庫の奥の通路へ走った。

 こうして彼らが逃げていくとき、カミットは一人で残ったままでいた。

 ハルベニィは振り返って叫んだ。

「何やってる!? 逃げるぞ!」

 カミットはハルベニィの方を見て、にやりと笑った。

「僕なら大丈夫。こいつは僕が倒す」

 何と言っても、彼には森の呪いがあった。

 たとえ相手が鉄の肉体を持つ怪物であろうと、森の呪いの巨樹ならば圧倒できる。カミットはそう信じていた。

 その彼の横に海賊一家の責任ある長男であるドランが並び立った。

「それでこそ戦士だ。仲間を守り、戦うことこそ男の矜持だ」

 カミットは雷の短槍を、ドランはヨーグの長槍を構えたのであった。

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