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ネビウスクロニクル  作者: 石井
荒れ地の都編
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第22話 大地の祝祭(4)「大地の再生」

  大地の神殿の地下には巨大な空洞くうどうが存在する。都が祝祭しゅくさいで夜通し盛り上がる中、巨大な柱が立ち並ぶ地下空洞を二人が歩いていた。一人は大地の守り子ベイサリオン、そしてもう一人はネビウスである。

 しばらく歩いたその先に待ち受けていたのは、こけむした甲羅を持つ巨大亀、大地の化身(アウクシャ)である。手足と思われる部分は岩のような質感をしており、そのまま地面につながっていた。

 静かにたたずむアウクシャに対して、ベイサリオンはひざを付き、あたまを下げて祈った。


「大いなる者よ。私に力を」


 一方、ネビウスは立ったままで真正面から見て、したしげに語りかけた。


「友よ。彼に力を」


 大地の化身(アウクシャ)の目がゆっくりと開かれた。見る者に畏怖いふを抱かせるひとみがぎょろりと動いた。





 祝祭しゅくさいの翌早朝、人々は寝ぼけた様子ながらも、みんなして神殿にめかけていた。これから祝祭しゅくさいの終わりを告げる最後の催しがあるのだが、今年は例年と違い郊外こうがいに住む者までもが身分や人種のへだてなく全て招待されて、しかもこの終わりの儀式ぎしきに参加しない場合には罰則ばっそくまであった。こういうことは何年かに一度あって、人々は心得た様子でそのときを待っていた。

 やがて神官(ドルイド)たちの列がやってきた。

 その列の最後、豪華な金刺繍きんししゅうをあしらった長衣ローブを着たベイサリオンが神殿から現れると、人々は拍手喝采はくしゅかっさいを送った。

 ベイサリオンは六十八歳の老人であった。背丈は他人種の子供のように低かった。成人なのに今のカミットとほとんど変わらないほど小柄なのだ。

 小さな体がなぜか異様に大きく感じられる人であった。鍛錬たんれんおこたらないのできんは少しもおとろえず、立ち姿は熟練の戦士のような風格であったこともそういう印象を強めた。

 彼の立つ大地は全て彼の肉体の一部のように思われた。これはなにも人々の勘違いなどではなかった。

 この人の真骨頂しんこっちょうはやはり優れた土の呪術師としての面にあった。大地の守り子とは土地に根付く呪いの支配者であった。土を巡る呪いの循環は都市の地下に眠る大地の化身(アウクシャ)を通して、ベイサリオンに集約していた。

 人々がベイサリオンに感じていた大いなる存在は大地の化身(アウクシャ)そのものだったのだ。儀式のために集まった人々はベイサリオンの一挙一動いっきょいちどう固唾かたずんで見守った。

 いよいよ儀式が行われようとしていた。

 ベイサリオンは祭壇さいだんの前で長杖を大地に向かって突き立てた。

 地面がれ始めた。

 人々は一心不乱に祈った。

 一瞬だけ、れがぴたりと止まった。

 そのとき歌がひびいた。

 ふわんふわん、と奇妙な共鳴きょうめいをする翼獣プテリオキロスたちの合唱がみやこの上空で繰り広げられていた。

 これに呼びかけられたらしい鳥たちが荒れ地の全域からおびただしい数が集まってきて、空を黒々とめた。


「ネビウス! 歌だよ、歌だ!」


 観衆の中のカミットは隣のネビウスにはしゃいで言った。


「そうねェ」


 ネビウスはカミットとミーナを両脇りょうわきに力強く抱きしめていた。


「二人共、私につかまってなさい」


 次の瞬間、衝撃が大地をらした。

 みやこれは人々が立っていられないほど激しかった。

 ところが都の外のれ方はそれ以上だった。

 大地が目に見えるほどゆがんで波打なみうち、地割じわれを起こした。地震はあらゆる土壌どじょうを破壊し、全ての構造物をひっくり返してめちゃくちゃに粉砕ふんさいした。

 荒れ地に侵食していた呪いの木々や植物は、大地の激しすぎる一撃によって全て吹き飛び、その根まで破壊された。大地の一撃は呪いの発生地である森の迷宮にも甚大じんだいな被害を与えた。

 こうして祝祭しゅくさいの目的はった。荒れ地の都(ペキ)は土の支配権を取り戻すことにより、森の拡大を当面の間は阻止そしできることが期待された。

 大地の化身(アウクシャ)がもたらす大地震「大地の再生」を引き起こせることが、大地の神官ドルイドの最高位「大地の守り子」の条件であった。





 みやこの外は見る影もなかった。はたけれ果て、郊外の村々は瓦礫がれきと化していた。


「あーあ。ひどいことするよね」


 ネビウスは城門まで見送りにきたベイサリオンに冗談交じりに言った。ベイサリオンは良い顔をしなかった。


「我々は初期対応を誤ったからな。痛みを伴う選択ではあったが、早くに手を打つしかなかった。長い目で見れば必ずや正しかったと証明されよう」

「そうね。アンタはすべきことを分かってた。このみやこの連中はやっぱり運が良い」

「怒りの導者どうしゃに感謝したい。我々が決断できたのはネビウスのおかげだ」

「それは嫌いなあだ名よ」

「そうかね? 私は好きだ」


 大人二人がわかれの挨拶あいさつを交わしている間、カミットは変わり果てた景色をじっと見つめていた。

 ベイサリオンがカミットに話しかけた。


「呪いの力はかくも恐ろしいものなのだ。よく学び、呪いと分かち合いなさい」


 カミットはベイサリオンの助言に対して、質問で返した。


「ベイサリオン。大地の化身(アウクシャ)の力は何回も出せるの?」

「おや。なぜそんなことが気になるのだ?」

「ベイサリオンがこんなことを好き勝手やれるんじゃ、こまるよ」


 このときベイサリオンのカミットを見る目が変わった。彼はあごでて、うなずいて言った。


「人々の力を合わせた、その受け皿が私なのだ。その力を大地の化身(アウクシャ)に伝え、力を借りた。そう簡単に大地の化身(アウクシャ)を動かすことはできぬ」

「そっか!」

「しかもまつりをただやれば良いというわけではない。人のいとなみとは、たくさんの時間と労力が注ぎ込まれて成り立つものだ。私達の生活の結晶を集めて、精霊たちに、そして化身けしんに伝えるのが祈りであり、信仰なのだ」

「分かった。ありがとう」


 カミットは腕組みをして、何やら考え込む様子で、なおもれ果てた土地を見つめていた。

 最後にベイサリオンとネビウスがもう一度(わか)れを告げ合った。


「友よ。また会えることを祈っている」

「さよなら、ベイサリオン! また会おう。さあ、行くよ!」


 ネビウスが声をかけ、カミットとミーナも荷物を背負って歩き始めた。

荒れ地の都編 おわり

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