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ネビウスクロニクル  作者: 石井
牢獄の都編
206/259

第206話 兎の巣穴街(2)

 地下街の住民の大多数は牢獄の都(ラクリメンシス)の普通の市民であり、彼らは地下街と直結した坑道で移動し、鉱山労働に従事する。

 一部のぞくが暴れ回っていることばかりが目につくが、それは都市の管理が行き届いていないだけだった。狡猾こうかつな罪人たちは人々の中に紛れ、彼らが構成する狐倶楽部ウルペスサークルもその実態は闇に包まれている。

 カミットはまともな市民なら近づきもしないその恐ろしき組織を探しており、生来の嗅覚によって辿たどり着きつつあった。

 盗人ぬすっとの子どもたちはカミットが脅かすと白状した。

狐倶楽部ウルペスサークルは上納金を取るんだ。回収役が月に一回やってくるから、そいつに話を聞けばもしかしたら……」

 この情報は真実味があったので、カミットは機嫌をよくした。

「そっか。じゃあ、そのときにまた来るよ」

「本当に殺されちまうぞ」

「僕は大丈夫だよ」

「俺たちが殺される」

「そうならないように言ってあげるよ」

「そんな無茶だって……」

「ちゃんと案内してくれれば、お前たちを憲兵に通報しない。じゃあ、よろしくね」

 子どもたちはなおも食い下がったが、カミットはその訴えを無視して告げたのであった。カミットの言う事を聞かなければ逮捕されてしまうし、カミットの言うことを聞けば狐倶楽部ウルペスサークルに睨まれるという状況で、彼らは後者の選択をするしかなかった。

 それでも子どもたちにとってはカミットの再来までは猶予期間が生まれた。彼らは次にカミットが来るまでに彼を撃退する準備をしようと決めた。

 ところが。

 その翌日、カミットは地下街の子どもたちの溜まり場にふらりと現れ、子どもたちをまたも震え上がらせた。彼は子どもたちに要求した。

「街を案内してよ」

 日中の子どもたちはスリという仕事で忙しい。カミットの遊びに付き合っていて稼ぎがないのでは、家に帰ってから親に殴られてしまう。

 だから彼らは抗議した。

 するとカミットは銅貨をちゃりんちゃりんと地面に放り投げた。これに子どもたちはわっと群がり、銅貨を奪い合った。

 カミットは言った。

「これでいいね? 頼むよ」

 子どもたちは態度を翻してカミットにへりくだり、頼みを了承した。

 こうしてカミットは案内人と隠れみのの両方を獲得した。牢獄の都(ラクリメンシス)ではカミットが一人で歩いていてはどうしても目立ってしまい、スリのような輩に目を付けられてしまう。余計なトラブルも増えるので、正しい歩き方を知っている現地人の案内は大いに役立った。

 地下街の構成は以下のようであった。街の中枢の狭い地域は神殿地区であり、その外の周囲全てが罪人の住居区画である。巨獣山脈の方には鉱山の地下に続く坑道があり、そちらでも住居区画の増築が毎日行われている。

 中央から離れるほどに治安が悪くなり、カミットが今までに探索したのはあくまで神殿に近い場所であり、あるとしてもスリか強盗に合うくらいで済むから比較的に安全である。

「いろんなところに死体が転がっているよね?」

「強盗に抵抗すれば殺される」

「そっか」

 神殿からだいぶ離れて、街は仄暗い雰囲気に変わる。

 案内人の子供がカミットに注意した。

「道の真ん中を歩くなよ」

「なんで?」

「殺されるからだよ」

 そんな話をしていたばかりのところに、通りを歩いてくる人影があった。

 カミットはすぐに気になって質問した。

「あの人は堂々と歩いている」

「やめろ。見るな」

「んん?」

 ずずずと足を引きずりながら歩いてくるのは、半身を土の呪いにむしばまれた罪人だった。呪いに侵された半身は手足が退化して短くなり、目や鼻は落ち窪み、体中から不気味な粘液が滲み出ている。その半身の見た目ならば呪いの化身そのものだが、手当り次第に人を襲わないあたり、まだ人の意識があるらしい。

「土の呪い子は鉱山労働で大人気さ」

「たしかに活躍できそうだね」

「じろじろ見るなよ。怒らせたりしたらやべえんだから」

 このように注意されたところで、カミットは聞く耳を持たなかった。彼は土の呪い子である罪人に話しかけにいった。

「こんにちは!」

「なんだァ、お前は?」

「こっちはヤージェ!」

 カミットは足元でぶひぶひ言っているヤージェのことも紹介した。

 土の呪い子である男は呪いのむしばみで変形して常に半開きになっている口からよだれらして言った。

「ほーう。美味うまそうないのししだ」

「ヤージェは火の呪い子だから食べちゃだめなんだ」

 カミットは槍のつかでヤージェの牙をつついて、火を起こしてみせた。

「お前が世話をしているのか?」

「そうだよ。ヤージェは僕の家族なんだ」

 カミットはヤージェを使って世間話をしつつ、次のことを聞いた。

狐倶楽部ウルペスサークルの人に会いたいんだ。何か知らない?」

「知らねえなァ。俺は真面目な労働者だからな」

「そっか。ありがとう!」

 終わりの島(エンドランド)ではどこでもそうだが、子供は大人の下位の存在である。普通は子供が今回のカミットのような態度をとれば、問答無用で殴る蹴るの扱いを受けてもおかしくなかった。

 カミットはこれまでに多数の大人と関係してきた経験があり、その中には盗賊や海賊も含まれ、こういった相手とのやりとりは慣れていた。また呪いの化身も彼にとってはそれほど遠い存在ではなかったので怖がる相手ではなかった。

 カミットは隠れている子どもたちのところに戻った。

狐倶楽部ウルペスサークルのこと知らないってさ」

 子どもたちはカミットが呪い子を恐れないばかりか、大人相手に殴られもせずに対等な話し合いまでやってのけたことに驚愕し、カミットを大人物であるかのように見なすようになった。



 これまでは路地裏の空き地には五人程度の子どもたちを中心として、その他に数名が日によって入れ替わっていた。

 それがカミットが来るようになり、彼がそこに君臨しだしてからは、だいたい十人くらいが毎日いるようになった。

 ところがある日、別のグループの子どもたちがやってきて、いつもの溜まり場を占拠した。そればかりか溜まり場にあった秘密の貯金箱を強奪してしまった。

 カミットはそのことをまだ知らず、いつものようにミーナを神殿に送ってから溜まり場に向かっていくと、その途中で見知った女の子がやってきて言った。

「カミット。私達の空き地とお金盗られちゃった……。ドトとコマは捕まって、忠誠を誓わされそうになってる」

「すぐ行くよ」

 溜まり場に駆けつけると、相手方の男の子たちに、カミット配下のドトとコマがいじめられていた。

 カミットが向かっていくと、敵の子どもたちがカミットに言った。

「葉っぱ頭が来やがったぜ」

 彼らは十人以上いて多数であり、カミットよりも優位と思われた。

 一人の男の子がカミットに向かってきて、何やら言おうととした。

 カミットは肩をつかまれそうになると、その前に槍で彼を突き殺した。

 場が静まり返った。

 カミットは森の呪いで弓矢を作り、ドトを踏みつけていた相手の男の子を射た。これは致命傷ではなかったが、十分な痛みを与えた。

 相手の子どもたちは怒って突撃してきた。

 するとカミットと彼らの間にヤージェが立ちふさがり、火の呪いを吹き上がらせて壁となった。ヤージェの火の脅かしはなによりも効果的だった。

 あまりの戦力差に相手は撤退するしかなくなった。

 今やカミットに忠実となったドトとコマという男の子がカミットに大いに感謝した。

「カミットならなんとかしてくれると思ったんだ」

「寝返らなくてよかったよな。あいつら、金は置いていったみたいだぜ」

 彼らはこれで戦いが終わったと考えていたが、カミットは違った。

「仕返しに来るかも知れない。きちんとやっつけよう」

「しばらくは大丈夫だろ」

「そんなんじゃダメだ」

「一人やったし、十分じゃないか?」

 カミットは槍の先端についた血を拭き取りながら、静かに言った。

「僕は怒っているんだよ」

「え? でも、そんなに怒らなくてもさ」

「あいつらはどこに住んでいるの?」

 カミットは敵を追撃し、殲滅せんめつする気でいた。

 仲間から敵へカミットの意向が伝達され、このことは相手の子どもたちを恐怖のどん底に落とし入れた。

 時を待たず、正式な謝罪の申し入れがされた。またそのときに相手の子どもたちのおかしらの男の子がカミットにひざまずいて忠誠を誓った。

 これによりカミットの怒りは解消され、路地裏の紛争は解決されたのであった。

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