表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ネビウスクロニクル  作者: 石井
太陽の都編
164/259

第164話 太陽の祝祭(9)「野山の散歩」

 カリドゥスがカミットを害獣駆除につれていきたいと申し出たことは、エニネにとって悪い提案ではなかった。最近のカミットは仕事のやる気が無くなっていることに、エニネは気づいていたからだ。彼の生活に少し変化を与えることが、おそらく現在の落ち込みを上向かせるだろうと、エニネは考えた。

 しかし職人組合ギルドの正規職員を傭兵ようへいあつかいで外部からの依頼いらい派遣はけんするわけにはいかなかった。

 そこでエニネはカミットに一応の名目を与えた。すなわちカミットの使命は職人組合ギルド調査員として、呪いに関わる怪物の記録をすることであった。





 カリドゥスは十人の配下を連れて、太陽の都(ソルガウディウム)の支配域の北西のはじの方、太古の森に近い野山を訪れた。

 カミットはカリドゥスの配下ではなかったが、傭兵団に同行していた。

 両者はこれまでの魔人との戦いで良い連携れんけいきずいたことで信頼関係ができていた。そのためカミットは傭兵ようへい一行いっこうに昔からの仲間のようにしてすぐにけ込んだ。

 野山を歩く道すがら、カミットは近頃学んだ自然や動物に関する知識を得意になって披露ひろうした。すると年長の友人たちはおもしろがってカミットをはやし立て、話し手が心地よくなるような合いの手を入れたので、カミットはいっそう調子に乗った。

 カミットは孤高ここうのカリドゥスにも気兼きがねなく話しかけた。


「ねえ! カリドゥスはいのししきばが燃えるのを知ってる?」

「見るのは初めてだな」

「僕も初めてだよ! 楽しみだね!」

「そうだな」


 カリドゥスは楽しげに応じたが、彼の笑顔はひかえめだった。彼は皮肉屋ひにくやでであり、普段から大声で笑ったりはしなかった。

 彼はあらくれ者の傭兵ようへいたちを統率とうそつする指揮官であり、傭兵ようへい団「三体殺し」において格別に尊重そんちょうされていた。

 したがって誰もカリドゥスに向かって乱暴な物言いはしないし、あまりちかしい態度も取らない。その点ではカミットの振る舞いはときどき他の傭兵ようへいたちを不安にさせていた。

 そんなカリドゥスがカミットには特別にあまかった。彼は必ずしも面倒見めんどうみの良いお兄さんなどではなかったし、むしろうるさい子供などは嫌いですらあった。それでもカミットの行動については、それがどんなものであれ、カリドゥスはいらつく気配を微塵みじんも出さなかった。実際、そのような負の感情はカリドゥスの内心においても一切なかった。

 それは彼らの森の魔人討伐での出会いが最高のものであったからであり、今日に至るまでその関係に少しの傷もついておらず、それどころか常に互いに有意義ゆういぎな結果のみを残してきたからであった。

 傭兵(ようへい)はしばしば縁起えんぎを重んじた。カリドゥス本人は知識階級に近い出身であったのでその傾向は強くなかったが、彼の配下の戦士たちはカミットが大好きであった。彼らはカミットを連れて行くことによって、仕事が上手くいくと信じていた。

 そして実は、魔人がいつまで経っても姿をあらわさず、時間が無為むいに過ぎていくことは、それ自体がカリドゥスにとっては懸念すべきことであった。なぜならカリドゥスを持ってしても、傭兵ようへいたちを制御するのは難事なんじであったからだ。

 傭兵ようへいたちは痛みや危険を恐れないという長所を持ちつつ、平凡な日常生活を送る上では短所が多かった。都市生活は誘惑ゆうわくも多く、散財してしまって、金に困りだす者まで現れた。彼らに不満や鬱憤うっぷんを溜め込ませ、ひまにさせておくことは指揮官にとって危険であった。

 そこでタイミングを見て、楽しいピクニックに連れて行ってやることは、傭兵ようへい団の経営観点から見て非常に有効と思われた。それには気分の上がるお守りもあった方がなお良かった。だからカリドゥスはカミットを連れてきたのである。





 山奥の養豚ようとん農家に着くと、破壊された納屋なやと一面の焼け野原を前にして、傭兵ようへい団の楽しい気分は吹き飛んだ。

 カミットはすぐに紙を用意し、現場の状況を文書で記録した。

 農夫の話によると、近くの山を長年支配してきた大猪おおいのししの一族がここ最近になって急に暴れだした。そのいのししは近くの農家を手当たり次第に襲撃して、家畜の納屋なやさくを破壊し、飼育されているぶたを山に放つという悪行に及んでいた。しかもいのししたちは食べる量がとてつもないので、ぶたを野に放つついでに飼料や作物を食べていってしまう。その被害ははなはだしく、早くに退治できないと、農家は今後やっていかれないという。

 カリドゥスは農夫に一応確認を取った。


「そのししは呪いや呪い子じゃないんだな? どうも何かの目的を持っているような気配がないか?」

「そうであったなら、神殿や職人組合ギルドが支援金をくれただろうよ」

「なるほどな」

「役立たず連中の調査によると、本当にただの野生のいのししだ。俺たちではたおせんが、あんたたちならいけるだろう。群れの一番大きいやつを狩れば、勢いが無くなるだろうから、よろしくたのむ」

「よし、分かった」


 カリドゥスは仲間たちを見やった。傭兵ようへいたちはやる気十分であり、彼らは剣ややりかかげて、カリドゥスに戦う意志を示した。カミットも書くのを止めて、ふでかかげた。

2022年11月13日「第25話 東の港街(3)守り子」について、描写の修正・追加とルビの追加をしました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ