第163話 太陽の祝祭(8)「昇級試問」
グウマが手配したことにより、カミットは太陽の都における市民同等の見定めを受けた。これにより彼はジュカ人でありながら、それ以上に重要な格を有する各種権利における市民同等の扱いを受けられるようになったのだ。
数日後、エニネはカミットを昇級試問に挑戦させた。
カミットが試問のために、職人組合のある部屋を訪れると、試験官である上級職員三名が部屋の前の方でどっかりと椅子に座って待ち構えていた。
カミットは彼らの前に立って、元気よく話した。
「ネビウス・カミットです! よろしくおねがいします!」
三人の試験官の真ん中に座っていた小柄なコーネ人男性が「はい、よろしくね」と言った。カミットは他の試験官にも視線を送ったが、彼らは挨拶を返さなかった。カミットは首を傾げたものの、思ったことは言わなかった。
カミットは立ったままで、試問が始まった。
その真ん中の試験官が主に質問した。
「徒弟のネビウス・カミットはどのようなことができるのかな?」
「僕は太陽の都の近くの呪いのことを知ってます!」
「うん。うん」
カミットは試験官が柔らかい笑顔で相槌を打ってくれたので少し気が楽になった。彼は続けて話した。
「動物とか植物とか、土地のことも知ってます!」
「そうみたいだね。そういう風に報告されているよ」
カミットは笑顔で話していたのだが、ここで固まってしまった。エニネに教えられていた通りの受け答えをしていたはずだが、どうやら別のことを喋らねばならないと彼は感づいた。
「僕は魔人を倒せます! 今まで三体倒しました!」
「ほう」
試験官は当然知っていたことだが、彼らは感心してみせた。
カミットはこれだと思って、話し始めた。
「傭兵とか、商人とか、友達がいっぱいいるので、いろんなお仕事ができます! この前までは服屋でも働いてました!」
「しかし継承一門とは上手くいかなかったみたいだね?」
カミットには予想外の質問で、彼は言葉に詰まった。エニネからは、とにかく黙るな、と言われていたので、彼は思考を高速回転させて、前向きな対応を考え、言葉を絞り出した。
「コウゼンたちとはちょっと喧嘩しちゃったけど、今度仲直りします!」
「良い考えだね。どうやって仲直りするんだい?」
「えっと……、きちんと話して、仲直りします!」
「どんなことを話すんだい?」
カミットはついに本当に固まってしまった。彼が硬直している内に、試験官の手元の砂時計が終了を告げた。
カミットは「ありがとうございました!」と元気よく言って、部屋を出た。
実は薄い板を挟んだ隣の部屋でエニネは試問の様子を聞いていた。カミットはおそらく不合格だと思われた。
エニネはオフィスでカミットを出迎えて、励まそうとした。
「試問はどうだった?」
エニネはきっとカミットは落ち込んでいるだろうと思っていた。
ところが、彼は元気だった。
「ばっちりだったよ!」
本当にそのように思っているらしく、彼の笑顔は緊張の試問から帰ったばかりとは思えないほど健やかであった。
そして試問の結果は合格であった。カミットは職人組合の初級職員になった。
後にエニネは試験官を担当した彼女の上司に試問の判断基準について質問した。その回答は明快であった。
「守り子のお墨付きだ。世間知らずの幼稚な子供とは言え、落とすわけにはいかんだろう。おめでとう! 君の弟子は立派に昇級した!」
エニネは上司の言い分そのものは不快と思ったが、このような流れを作ったのは他ならぬ彼女であったので、これ以上聞くべきことはなかった。
※
カミットは晴れて初級職員として働き始め、彼は多くの初級職員と共に大量の書簡を仕分ける仕事に関わるようになった。これまでのようにエニネの隣で好き勝手やるのではなく、他の職員と長机を共有して、自分の持ち分を処理するのである。
彼はエニネとお喋りができなくなって、仕事がつまらないと感じるようになった。やる気が削がれていく中、彼は一本の報告書に注目した。
それは祝祭のための生贄の豚の調達に関する報告書であった。都の郊外では養豚業が盛んで、祝祭においては神殿向けに多くの豚が卸されることになっていた。
ところが昨今、野生の猪が暴れまわっており、養豚農家の納屋などが破壊されて、打撃を被っているとのこと。そこで猪を退治するために、傭兵を手配してほしいというような依頼であった。
カミットは不思議に思い、その書簡の内容について、エニネに質問した。
「猪なんて誰でも倒せるよね?」
エニネは作業を止めて、カミットの持ってきた報告書を読んだ。
「そうねえ」
エニネはため息をついて、こめかみに指を当てた。
「どうしたの?」
「猪って馬鹿にできないのよ。特に火の力を持つ種は厄介なの。ほら、この報告では納屋がいくつか燃えたって書かれてる」
「そうなんだ! じゃあ、この依頼はきちんとした傭兵にやってもらった方がいいね!」
「そうね。呪いの対応に慣れてることを条件にしておいて」
「分かった!」
そうして数日後、ついにカミットは仕事に退屈し始めて、やる気もなくて、報告書をだらだらと読むようになっていた。
そんな折、ナタブ傭兵のカリドゥスが訪ねてきて、彼はエニネに言った。
「猪狩りをするんだ。カミットを貸してくれよ」
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2022年11月11日「第24話 東の港街(2)大漁」について、描写の修正とルビの追加をしました。




