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ネビウスクロニクル  作者: 石井
太陽の都編
157/259

第157話 太陽の祝祭(2)「親子」

 自宅から一歩も出られない生活が続くと、カミットは不機嫌に振る舞うようになった。八つ当たりの対象はミーナであった。ミーナはカミットに文句もんく嫌味いやみを言われるので、萎縮いしゅくしてしまって、言い間違えや家事の失敗が余計に増えていた。

 ネビウスは一応は彼らのことを気にかけていて、頃合いを見て、カミットを街に連れ出そうとした。いにしえたみの一族の街であれば、外部との接触がなかったからだ。

 ところがカミットはどこへ行くにも、もはやネビウスの付きいを不要と考えるようになってきていた。だから近頃彼はネビウスと一緒に出かけるのがだんだんと嫌になっていた。ネビウスが監視かんしする必要のある、社会に適応できない問題児であるという印象を持たれるような気がして、特に今は嫌だった。

 ある日の夕方、ネビウスは早くに帰ってきて、友人宅の食事会に子どもたちを連れて行こうとした。それでネビウスが声をかけたというのに、カミットは呼びかけを無視して、居間いまのソファに寝転がって動き出そうとしなかった。


 ネビウスはカミットの反逆におどろいてしまって、

「あらまァ。どうしようかしら」とつぶやいて、困惑こんわくするばかりであった。


 ネビウスはカミットがミーナをいじめるのは無視できないので、彼女は家ではミーナを近くに置いて、注視するようになり、危ない傾向が見えると子どもたちのやり取りに介入かいにゅうした。

 そんな日々が続いていると、カミットはある日の夕食前に癇癪かんしゃくを起こした。


「なんだか僕が悪者わるものみたいじゃないか!」


 ネビウスは食卓で書き物をしていたのだが、急にカミットにえられて、呆気あっけに取られた。彼女は大笑いした。


「坊やったら、自分で分かってるんじゃない!」

「僕は何も悪くないよ!」

継承一門カイラのことは私は何も言ってないでしょ」

「でも家から出るなって言う!」

「仕方ないでしょ。坊やが他人に迷惑をかけたんだから」


 カミットはけもののようにうなり、怒りを爆発させてえた。


「僕はね! こんなひどいあつかいをされたくないよ!」

「仕方ないわ。坊やが自分でやったことのむくいだもの」

「この前も僕だけ置いていかれた!」


 ネビウスはカミットが何のことを言っているのか分からなかった。少し遅れて、数日前の友人宅での食事会にカミットが行かなかったことを言っているのだと理解した。ネビウスはなおもあたたかく微笑ほほえんで言った。


「あれは坊やが呼んでも無視むししたからでしょ」


 カミットはこれ以上ないほどのいかりで顔をゆがめて、ネビウスをにらんだ。


「でもネビウスはすぐに行っちゃったじゃないか! ミーナだけ連れてさ!」

「そらそうよ。私ももう十二歳の子を赤ん坊みたいにはあつかえないもの。そろそろ大人になってもらわないとね」


 この言葉にカミットはまたかちんと来てしまった。


「僕は子供じゃない!」

「あらァ、そうかしら」

「魔人を三体も倒したんだよ! カリドゥスたちは僕をちゃんと一人前に見てくれるよ!」


 カリドゥスとは魔人討伐で共闘した傭兵のことである。カミットはカリドゥスひきいる傭兵団でよく可愛かわいがられていた。

 カミットは元々のうったえを繰り返した。


「こんな動物のしつけみたいに家にめられるのはおかしいよ!」

「あのね、坊や。私は……」

「僕はもう坊やじゃない!」


 カミットが怒鳴ると、ネビウスは笑顔をかたまらせた。

 これほどまでにこの親子が衝突するのは初めてだった。台所の方から、ミーナが様子をうかがっていた。いつもならミーナはカミットに駆け寄って抱きしめたものだったが、今回は様子が違っていて、彼女も動けずにいた。

 ネビウスは沈黙ちんもくし、何を言うべきか考えていた。そのあいだ、カミットは唇をんで今にも泣きそうな顔でその場に突っ立っていた。

 ネビウスは彼に優しく語りかけた。


「カミット、私の子。あと一年とちょっとであなたは私の子ではなくなる。でも今はまだ、あなたは私の子なの。あなたが大人のとしになるまでは、私はあなたを守るわ。相手が誰であろうとね。だから今はあなたを街で自由にさせるわけにはいかない。しつけではないのよ。私はあなたを信じてる。でもそれだけではあなたを守れない」


 これまでも多くの場面でネビウスはカミットを守ってきた。ネビウスが言った、その誰かとは今は継承一門カイラであり、太陽の化身(スタァテラ)なのだと、カミットは理解はしていた。

 彼はこのようなやり取りをネビウスとしたくはなかった。

 ネビウスの愛はいつでも彼に伝わっていた。それが当たり前過ぎて、彼は今は少し見落としてしまっていたことに気づいた。

 結局、愛であった。

 だというのに、彼を見つめるネビウスの視線はほんの数分前と様変さまがわりして、何か別の存在をみとめているように思われた。

 それがあまりに悲しくてカミットはなみだをこぼした。

 ネビウスは抱きしめてくれるだろうかと彼は期待した。

 しかしネビウスは机の上の書簡しょかんを片付けたら、カミットをなぐさめたりきしめたりせず、夕食の準備のために台所へ行ってしまった。

お読みいただきありがとうございます。

ブックマーク、ポイント☆など入れていただければ幸いでございます。


2022年11月1日「第17話 職人組合(5)月下の決闘」について、描写の修正とルビの追加をしました。

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