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ネビウスクロニクル  作者: 石井
太陽の都編
156/259

第156話 太陽の祝祭(1)「家族の朝食」

 カミットはこれまで通りに街を歩ける状況ではなくなった。

 ネビウスが彼の外出を明確に禁じたからである。この対処は継承一門カイラ面子めんつつぶしたことに対する、ネビウスの暗黙あんもく配慮はいりょだった。

 ところがカミットは家の中でじっとしていられる性格ではなかった。彼は表通りから離れたいにしえたみの一族の街の奥まった通りにあるネビウスの邸宅ていたく鬱屈うっくつとした時間を過ごした。

 その日は朝早くに起きたというのに、カミットはやることもなく、ソファに寝転がっていた。心配したミーナが彼に声をかけた。


「大丈夫?」


 カミットはミーナの気遣きづかいにいらついてしまって八つ当たりした。


「大丈夫じゃないよ! 僕は悪くないのにさ!」

「うん。ごめんね。そうだよね」


 カミットは寝返りを打って、ミーナが突っ立っているのを見た。ミーナは太陽の都(ソルガウディウム)でも神殿通いをしていおり、彼女はカミットよりも太陽の神殿に詳しいはずだった。


「ミーナは神殿に行ってるんだよね? どんな感じ? 守り子様は元気?」

「えっと。太陽の神殿は、すごい呪いの感じがする。守り子様には会ったことないわ」

「呪いの感じって。そりゃそうだよ! だって神官ドルイドは呪術師でもあるんだから」

「あ。そっか。そうだね」


 カミットはミーナがさっぱり役に立たない受け答えをするので、改めて彼女は頭が悪いと感じた。彼女と話していても苛立いらだちが増すだけなので、追い払おうと思った。


「朝ごはん、早くしてよ。お腹()いたよ!」

「あ、うん。すぐにやるね」


 ミーナが小走りで台所に行った後、カミットはなにやら考えが浮かんできた。


「すごい呪いの感じ……。んん!?」


 ちょうどネビウスが眠たそうに目をこすりながら起きてきたので、カミットは飛び起きてネビウスに聞いた。


「ネビウス! 太陽の神殿に魔人がいるんじゃないかな!」


 ネビウスはなおもぼんやりとして、

「さあ。わからないわ」と言った。


 カミットはネビウスにまでムカついてしまって、大きな声を出した。


「僕は魔人を倒すためにこのみやこに来たんだよ!」


 ネビウスは聞こえているのかどうか定かでない様子で、椅子いすにかけて、机の上の呼び鈴を鳴らした。ミーナがやってきて水を差し出し、ネビウスは朝の一杯を飲んで、それからカミットに言った。


「魔人が出るかどうかはまだ分からないわ。コウゼンとか、学者とか、ああいう連中が伝承でんしょうとか伝説でんせつをまるっと信じて、勝手に言ってるだけなんだから」

「え!? そうなの?」

「だってどこにもいないんでしょ?」

「んんー!? ……そうだね」


 カミットは肩を落として、彼もテーブルを挟んでネビウスの向かいの椅子いすすわった。彼は少し考えてから、ハッと気づいて行った。


「でもね! ミーナが神殿にすごい呪いの感じがするって!」

「守り子が呪いのむしばみを受けているからよ」


 カミットはまたも落胆らくたんした。


「そういうことか。……なんだァ。そっか」


 ミーナが朝食のパンを焼いて、食卓に持ってきた。家族は食べながら話すのだが、このときはミーナがめずらしくよくしゃべった。


「お母さん。太陽の神殿は本当に変な感じがするのよ」

「あらまぁ。そうなの?」

祝祭しゅくさいは大丈夫なのかしら?」


 ネビウスはパンを少し長めに咀嚼そしゃくしていて、この質問には答えなかった。彼女はミーナに質問して、話題を変えた。


「ミーナ。あなた、火の呪いはどうかしら?」

火の精霊(エグニ)は気難しいわ」

「ミーナはやっぱり雷の精霊(ナカミラ)が一番仲良しかしら?」

「うん。火のことは本当はお母さんに教わりたいな」


 ここでカミットが話に割り込んだ。


「ネビウス! 祝祭で火の化身けしんの人たちが太陽の化身(スタァテラ)に食べられるんでしょ?」


 カミットはネビウスが逸らそうとした話を戻したのである。ネビウスはそうと分かっていて、にこやかに言った。


「ええ。そうよ」

「僕、よく知らないんだけど、祝祭しゅくさい化身けしんの人たちが食べられるのが上手くいかないとどうなるの?」

化身けしんがそのまま残るわ」

「そしたら、その人たちは他の人たちを食べちゃうんだね?」

「そうよ」


 カミットはきのこ根地こんちで呪いの誕生をの当たりにしていた。呪いの化身は親兄弟すらも食べてしまうことを、彼は実体験として知っていた。彼の理解では、祝祭は化身けしんを処理する儀式であり、必ず遂行すいこうされなくてはならなかった。

 ところが太陽の都(ソルガウディウム)の祝祭には懸念けねんすべきことがあった。荒れ地の都(ペキ)海の都(ドンド)空の都(パラテラ)という、それぞれの都市でカミットは祝祭を見てきた。いずれも最も重要な化身送りの儀式をになったのは守り子であった。


「太陽の守り子は元気じゃないんだよね?」

「そうねえ」

「守り子がどれくらい大丈夫じゃないか、みんなは分かっているのかな?」


 さあ、となおもネビウスが受け流すことにてっしていると、カミットは今度はミーナを見た。


「守り子はだめそうなんだよね?」

「えっと……」


 ミーナは言葉をにごしたが、彼女はすでにこの朝食の席でそのような見解を示唆しさする発言をしていた。

 カミットは席を立ち、使命感に燃えて言った。


「コウゼンに伝えないと!」


 ネビウスが苦笑いして言った。


「あのね、守り子の代替だいがわりは祝祭の日に行われるのよ。だけどこのことをあれこれ言うのは禁止なの。すごい繊細せんさいなことなのよ。どの年にやるかは、守り子が決めることよ。周りがとやかく言うことじゃない」

「……んん? そうなの?」

「そう、そう」

「そっか。そしたら、僕はやることないな」


 カミットは再び意気消沈いきしょうちんして、椅子いすに座り直したのであった。

お読みいただきありがとうございます。

ブックマーク、ポイント☆など入れていただければ幸いでございます。


2022年10月31日「第16話 職人組合(4)満たされぬ器」について、描写の修正とルビの追加をしました。

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