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ネビウスクロニクル  作者: 石井
太陽の都編
151/259

第151話 呪いの迷宮(7)「密会」

 バルチッタたちには知るよしもなかったが、エージは彼らを通報できる立場にはなかった。なぜなら彼は探検隊の編成義務を無視して、おきてやぶって、カミットだけを連れて遺跡を探検していたからである。

 エージが取りうる選択は腹立たしい盗賊どもをその場で亡き者にして、そのむくろを地下下水に放り込むくらいのことであって、そうしようと彼は考えていた。

 彼の気が変わったのは、カミットがいかにもしたしげにハルベニィと話していたのを見たからだった。

 カミットはネビウスによって古代遺跡の設備利用の認可を与えられているらしかった。保存食の利用から移動装置の操作まで、重要なのは地図の活用など、そういった古代遺物に関わるあらゆることが認可を持たぬ者にはできないことだった。帰り道でカミットが得意げにいろいろ話したことには、彼は小さな頃にいにしえの民の別荘で遊び、似たような設備を利用したと言う。エージは今後の探検にもカミットが有用だと判断し、関係性を維持するために、バルチッタたちを見逃したのであった。

 ただしエージはバルチッタとハルベニィが風呂敷や衣類の中など、あらゆるところに隠していた古代の遺物を全て没収した。カミットにも持ってきた物を全て提出させて、エージがあずかった。





 地上に上がった後、街でエージと別れてから、ハルベニィがカミットを呼び止めた。


「ちょっと止まれ」


「んん? どうしたの!」


 ハルベニィはカミットの服のすそやら、かばんの奥やらをあさり始めた。カミットの毛皮の服には特に隠し場所がたくさんあった。そういった色々なところから古代の遺物、主に小物ではあったが、それらがたくさん出てきた。

 カミットは慌てた。


「僕、持ってきてないよ」

「当たりめえだろ。俺が仕込んだんだよ」


 これを見ていたバルチッタは大喜びである。ハルベニィから遺物をひったくって、愛すら感じさせる眼差まなざしでそれらを恍惚こうこつとして眺めた。


「でかしたぞ! あの赤毛野郎に全部身ぐるみがれたと思ってたがな!」


 ハルベニィは照れを隠すように、へへへと笑った。彼ははしゃいでいるバルチッタに言った。


「落とすんじゃねえぞ」

「生意気言うな」


 バルチッタは生意気を言われても機嫌が良いままで、遺物をハルベニィに返した。


「きちんとしまっとけ!」

「はいよ」


 すっかり元気になった盗賊たちに、カミットはすまなそうに言った。


「エージは遺物を勝手に取るなって言ってたよ」


 ハルベニィはカミットをきっとにらんだ。


阿呆あほう! お前に売ってやった雷のやりだって遺跡からかっぱらった物だぞ!」

「ええ!?」


 カミットは仰天ぎょうてんした。知らぬ間に罪に加担かたんしていたと知り衝撃を受けた。

 バルチッタがカミットの肩を抱いて言った。


「安心しろよ。ネビウスはそんなことは分かってて、金を出した。あの女はおきてなんか知ったこっちゃないんだ」


 取るものを取ったら、盗賊の二人は行ってしまおうとする。

 カミットはハルベニィに呼びかけた。


「僕、第二階層でネビウスたちの街で暮らしてるよ!」


 ハルベニィは振り返って、首をかしげた。


「それがどうした?」

「ハルベニィはどこに住んでるの?」


 ハルベニィは少しの間悩み、それから答えた。


「教えねえよ!」

「なんで!?」

「お前がしょっちゅう来てたら、仕事にならねえからな」


 バルチッタは二人のやりとりを見ているうちに、思惑のありそうな下品な笑みを浮かべた。彼はカミットに言った。


「ぼうず! 俺たちは職人組合ギルドに所属してない、ならず者の市で店を出してる」


 ハルベニィは驚いてバルチッタを見た。


「なんでバラしてんだ!」


 バルチッタはハルベニィに小声でささやいた。


「あいつは大物になるぞ。お前なんかをえらく気に入ってやがって都合がいいぜ。今のうちから手をつけとけ」

「あんな阿呆あほうと仲良くできるかよ」

「馬鹿野郎。商売のためだ!」


 ハルベニィはバルチッタの意見を渋々《しぶしぶ》受け入れたが、カミットには条件を出した。


「お前が俺たちの周りをうろつくと、継承一門カイラに目をつけられるかもしれねえ。俺たちはただでさえ危険をおかして、この都で商売をしてる」


 カミットは口をとがらせてねた。


「友達と会うだけなのにな!」

「仕方ねえだろ。遊びじゃねえんだ」


 まあでも、と言って、ハルベニィは付け足した。


「ネビウスは良い客だ。あいつが何か欲しがったときには売りに行くさ」


 ハルベニィが妥協案を示すと、カミットはこれ以上ないほどの笑顔になって叫んだ。


「ほんと!? やったあ!」





 太陽の大神殿は都市の第三層全域におよび、火口をかこむようにして建設された。

 拝殿はいでんは火口そのものに面しており、祭壇さいだんからは煮え立つ溶岩の海を臨む。

 ネビウスは灼熱しゃくねつの赤髪がその場に誰よりも見合っているように思われた。火の呪いに優れた者でなければ立ち入ることも困難な場所を彼女は悠然ゆうぜんと歩いた。

 祭壇で白毛のコーネ人神官(ドルイド)ひざを付いて、祈りをささげていた。ネビウスは彼に話しかけた。


「久しぶりね。元気してたかしら?」

「そう見えるか?」


 かすれた声、衰えてせ細った肉体、しかし彼はまだ四十七歳であった。この時代でも高齢ではあったが、老人と呼ぶにはまだ若かった。彼の場合、七十歳のベイサリオンが大地の守り子として健康にやっているのと比べれば、あまりに状況が違っていた。

 彼は息を切らしながら、つえを突いて立ち上がった。

 その男は現在公式に太陽の守り子とされていて、その名はグウマであった。彼はネビウスをにらみつけ、敵意の明らかな様子で言った。


「この私を見下げに来たか!」

「止しなさい。もうやめましょうよ」


 グウマは他の神官ドルイドが支えようとするのを追い払って自力で歩こうとした。すると彼は転んでしまった。杖がからんからんとむなしい音を立てた。

 ネビウスが彼に近づくと、グウマはあらん限りの声でネビウスを威嚇いかくした。


「私は自ら逝くのだ! 我が友、太陽の化身(スタァテラ)に食らってもらう! ああ! 待ち遠しい、その時はもうすぐだ! 偉大な者と私は一つになる!」


 グウマは青白い気体を口から吐いた。それは霊気れいきといい、魂や精霊の血とも言われる。

 他の神官ドルイドたちが恐れて手出しできないでいるので、ネビウスが無理やりにグウマを助け起こした。

 グウマはネビウスを押しのけることもできず、彼女に支えられるばかりであった。

 ネビウスは静かに言った。


「あんたのことは馬鹿だと思ってきたし、はっきり言って見下してる。べつに今に始まったことじゃないわ。あんたが守り子になって以来、二十年以上前からずっと馬鹿だと思ってたもの」


 グウマは苦しそうにぜえぜえと息を切らしていた。


「……言いたい放題だな。しいことだ。もう私にはやり返す力もない」

「でも、一つだけ立派よ。あんたは今も逃げてない」

「老人をあやすように言うな」

「それだけだけどね」


 ネビウスが神官ドルイドたちに叫んだ。


「ぼさっとしてないで、あんたたちの守り子を助けなさいよ!」


 神官ドルイドたちはわっとやってきて、グウマのことをネビウスからあずかった。

 彼らが去った後、ネビウスが祭壇に腰掛けて待っていると、溶岩が底の方からせり上がってきて、その中から灼熱のたてがみを持つライオン、太陽の化身(スタァテラ)が姿を現した。

 互いに表情一つ変えず、彼らは顔を近づけあって、何事かの意思を伝え合った。

お読みいただきありがとうございます。

ブックマーク、ポイント☆など入れていただければ幸いでございます。


2022年10月24日「第12話 呪いの森(5)宴、醒めたる眼差し」について、描写の修正とルビの追加をしました。

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