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ネビウスクロニクル  作者: 石井
太陽の都編
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第149話 呪いの迷宮(5)「地底の住人」

 遺跡に備え付けてあった古代の食糧しょくりょうを利用できるようになったので、エージは深部の探検をこころみた。エージが考え事をしていた間に、カミットは遺物いぶつをたくさんひろってきていた。その中には透明とうめい硝子がらす状の球体地図もあって、バルチッタとハルベニィは歓喜かんきした。彼らはその地図をたよりに遺跡の奥へと進んだ。遺跡は広大で徒歩とほで全ての区画を制覇せいはするのはとても困難に思われた。

 立体地図によると、最も深い部分の部屋には細い光の筋が一本通っていた。行ってみると、小さな入口から、全面硝子(がらす)張りの小部屋に入った。カミットが入り口近くに設置されていたパネルをてきとうに叩くと、部屋の扉が閉じて、部屋そのものが動き出した。彼らは十数人が乗れる全面硝子(がらす)張りの昇降しょうこう装置に乗り込んでいたのだ。

 立体地図の現在地を示す光は、遺跡の最深部へ向けて静かに降りていた。その速度はゆるやかで、到着までにはかなりの時間がかかりそうだった。

 エージが声を弾ませた。


「おや、おや。これは……」


 硝子がらす張りの向こうに、とてつもなく広大な空洞、すなわち地底世界が広がっていた。地上と比べてどれほどの深さかは判別できなかったが、地上の都市をそのまま収められそうなほどの広さの空間に無数の柱が打ち立てられていて、それらは輪っかやバネのようなものが各所にあって、これらが火山のれをふうじているらしかった。

 そしてなによりもエージを驚かせたことがあった。

 彼らを運ぶ硝子がらすの小部屋のすぐ近くを、大きな何かが横切った。バルチッタとハルベニィは驚きすぎて腰を抜かしていた。バルチッタなどは気絶しそうであった。

 それはとてつもない大きさの虫であった。種類はいろいろであったが、その多くは細長い体や、たくさんの体節たいせつを持っていた。そして透明できらきらと光る羽を使って、彼らは優雅ゆうがに飛んでいた。

 エージは興奮していた。


「まさか、都市の地下にこんな虫たちの楽園があったなんて!」


 一方、カミットは虫そのものには驚いていなかった。殻の都(ヨリカ)の宮殿に用いられていた虫のからなどは、目の前を飛んでいる虫たちよりももっと大きかった。カミットはエージよりも物事を知っているという優越感から、なんてことないという口ぶりで言った。


「地底に虫がいるのは当たり前だよ」

「君はツクサ人のみやこに行ったことがあるんだったね」


 ここでバルチッタが大声を出した。


「おい、今すぐ戻れ! この先は虫どもの縄張りだぞ!」


 カミットとエージはそれぞれ「なんで?」「古来人を信じれば良いんだ」と言った。

 バルチッタはなおもうったえた。


「喰われちまうんだぞ!」

「止せよ。上で待っているわけにもいかねえんだから」


 なだめたのはハルベニィだった。彼はバルチッタに耳打ちした。


「学者の兄さんが俺たちを見逃すと思うか?」

「ぐっ……」


 バルチッタは我に返った。バルチッタとハルベニィは盗賊であった。エージがこのまま彼らを放置するとは思われなかった。


「どうすんだ。俺たち、牢獄の都(ラクリメンシス)送りか?」

「落ち着け。俺たちはツイてるんだ。カミットがいたのは最高に運が良いぜ」


 ハルベニィは空の都(パラテラ)でカミットと交流していた。カミットはどういうわけかハルベニィがお気に入りらしかった。ハルベニィは彼を鬱陶うっとうしく思うことが多かったが、今回の再会は願ってもないことだった。ハルベニィはこの危機を乗り越えられると確信していた。


「ネビウスに頼んでどうにかしてもらおう」


 バルチッタは難色なんしょくを示した。


「あいつを信用できるかよ」

「俺はあんたとは違う。ネビウスは俺を買ってる。カミットに言わせて、どうにかするさ」

「けっ。自惚うぬぼれんな!」


 バルチッタは腕組みをして、部屋のすみに座り込んだ。

 するとすぐにカミットがハルベニィに話しかけた。


「ハルベニィ! 元気してた?」


 ハルベニィはくすりと笑った。


「まあな。お前も調子良さそうだな」

「うん! あのね、いろいろあったんだよ!」


 カミットは近頃の旅の出来事をハルベニィに話し始めた。ハルベニィは「おう」とか「へえ」「ふーん」「そうかあ」などとてきとうな相槌あいづちを打ったが、カミットは機嫌きげんよくしゃべり続けた。





 小部屋の入り口近くに設置されている操作パネルの様子が変わって、ぴかぴかと光った。カミットは他の三人に言った。


「もうそろそろ着くよ!」


 このときハルベニィがふと思いついて、カミットに聞いた。


「お前、どうして遺跡なんかに来たんだ?」

「魔人を倒しにきた!」

「は?」


 扉が開いた。その先には何やら巨大な神殿のような建物が見えた。

 カミットとエージが部屋を出た一方、ハルベニィとバルチッタは躊躇ちゅうちょした。

 カミットが振り返って聞いた。


「どうしたの?」


 ハルベニィは怖がっていた。


「ここに魔人がいるのか?」

「たぶんね!」

「戦う気か?」

「んー。戦わない!」

「おっ。そうなのか?」


 カミットの答えはハルベニィを驚かせた。

 このことはカミットにとっては、彼の経験を振り返れば、当たり前の結論だった。彼はこれまで魔人を倒すに当たり、一人でげたことなどなかった。魔人と戦うときは常に、人々が最高の戦力を結集させる必要があった。今回の彼の目的はあくまで魔人の所在を突き止めることにあったのだ。

 なおもハルベニィは不安がった。


「魔人が急に襲ってきたりしねえのか?」


 カミットは三人をそれぞれ見た。


「今日、魔人を倒したい人いる?」


 エージは微笑びしょうして首を横に振った。ハルベニィとバルチッタももちろん否定した。カミットは結論づけた。


「じゃあ大丈夫だね。やろうと思ってると、向こうからやってくるからね!」

「本当かよ」

「もしものときは逃げれば良いんだよ。魔人は追いかけてこないから大丈夫!」

「……マジかよ」


 小部屋の外は球状の透明な外壁によって囲まれた空間だった。その壁があるおかげで、外を飛び交う巨大な羽虫たちに襲われる心配もなかった。

 カミットはぴんと来て、叫んだ。


海の都(ドンド)みたい!」


 ヨーグ人の海底都市は巨大な透明なドームの中に建設されていた。そういう古代の建築技術がこの遺跡の地下においても活用されていたのだ。遠く離れた二つの都市に共通の要素を見出し、カミットは不思議な感動を覚えたのであった。

お読みいただきありがとうございます。

ブックマーク、ポイント☆など入れていただければ幸いでございます。


2022年10月21日「第10話 呪いの森(3)害獣駆除」について、描写・台詞の修正とルビの追加をしました。

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