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ネビウスクロニクル  作者: 石井
太陽の都編
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第147話 呪いの迷宮(3)「遺跡の胎動」

 突然、らっぱのような甲高かんだかい音がこれ以上無いほど耳障みみざわりにり返し鳴り響いた。また全ての照明は赤く点滅して、遺跡の内部を恐ろしげに染めた。

 カミットは大変に驚いて、エージを見た。

 エージは落ち着いた様子で、カミットに語った。


「悪名高い胎動たいどうの始まりだ」

「遺跡の中が動くやつ?」

「そう、そう。ここへおいで」


 エージは足場の下にひっそりとあった取手とってを引っ張って、避難ひなんのための小さな穴を示した。二人はこの中に入って、ふたを締めた。ふた透明とうめいで、上の様子が中から見えた。

 広大な空間に並び立つ石のとうが崩れ始めた。どういう力が働いているのか、巨石がごんごんと跳ねたり、飛んだりした。ときには水平にすーっと飛んでいって、別の巨石にぶつかったりもした。塔の構成する巨石はしばらく入れ替えを続け、やがてそれらの作業が落ち着き、また不安定でいびつな石の塔が並び立った。

 カミットは穴から出て、叫んだ。


「すごい! 大きな石が勝手に動いてた」


 エージは穴の入り口のふたをしっかり閉めながら言った。


古来こらい人のいにしえの技だ。どういう仕掛けなのかは分かっていない」

「へえ!」

「遺跡の内部構造はしばしば変化する。それがこの巨石の動きに対応しているのが一般的な説なんだよ」

「そっか! じゃあここで観察すればいいんだ!」


 エージはふふと笑った。


「遺跡は大きい。そのとき遺跡がどうなっているかということと巨石がどのように並んでいるかを同時に把握するのは困難なのさ」

「みんなで来れば、観察がしやすいよ」

「避難できる穴ぼこは数が少ないんだ。避難しそこねて、石につぶされて死んだ人はけっこういる」

「そっか。大変なんだね」


 いい感じで話していたように思われていたが、またエージが急に黙った。

 カミットは腹を立てつつ、エージの視線の先を目で追った。

 八つの塔が輪を作っていた。その輪を中心に三角を構成する三つ組みの塔がいくつも並んでいた。


「……太陽か。あんな絵のようなものは初めて見たな」


 エージはぶつぶつと独り言を言いだした。彼は思考にふけり、カミットのことが見えていないようであった。





 おきて盗掘とうくつを禁じている。古代の遺物いぶついにしえたみの財産であるからだ。ただし実際にはいにしえたみは一族の財産について無頓着むとんちゃくである。そこで彼らの代理人として、学者の職人組合ギルドが管理しており、研究目的以外では古代の遺物を盗掘とうくつすることは重罪なのである。

 遺跡に転がっている骸骨がいこつはなにも学者の物ばかりではない。むしろその多くは無謀むぼうにも一攫千金いっかくせんきんを目指した盗賊たちの夢のあとである。

 遺跡はその内部構造が変化する。前触れもなく通路の上下左右がひっくり返ったり、出口がない迷路に閉じ込められたり、部屋が中の人ごと潰れてしまったりすることもある。

 十分な知識が無ければ、探検者は高確率で命を落とすことになるのだ。

 ここに、これといった外見的特徴を持たないナタブの盗賊が二人。彼らはちょうど今しがた起こった遺跡の胎動たいどうによって、通路を歩いていたところを揉みくちゃにされたばかりであった。


「くそっ! やっぱりロクでもなかった!」


 バルチッタは散乱した荷物に潰され、頭にこぶを作っていた。痩せた体型の四十歳くらいの中年男であった。顔つきやしゃべり方は低俗ていぞくさに満ちていた。

 他方、もこもことふくらんだ羊毛の大きなかたまりが近くを転がっていて、それがすーと小さくまとまって消えてしまうと、中からハルベニィ少年が現れた。彼はひどく痩せ細っており、その目つきの悪さはなげかわしいほどであった。彼は抱えていた風呂敷ふろしきに詰めた荷物を背負い直して、バルチッタに言った。


「最初に渡しておいただろ。なんで使わねえんだ」


 ハルベニィは彼が使った緊急用の衝撃吸収装置をバルチッタにも渡していたのだ。バルチッタはかちんと来たようで、つばを飛ばしながら叫んだ。


「おまえ! 自分だけ助かりやがって!」


 ハルベニィはバルチッタの今にもなぐりかかってきそうな剣幕けんまくにも冷静に対応した。


「俺は商品をかかえてんだ。絶対守るって決めてんだよ。そうだろ?」

「ぐっ……! いいか! 一つでも壊してたら、承知しょうちしねえぞ!」

「はいよ。安心しなよ。それよりよ。アレは大丈夫なのか」

「ん!? そうだった!」


 バルチッタは散乱した荷物を大慌てで集め始めた。それらの中に硝子のようなもので出来た透明とうめいな球体があった。それは古代の遺物であり、遺跡の地図でもあった。内部に光る点、あるいは空間を示す立方体などが示されているのだ。バルチッタはそれを見つけ出して、何度か指で小突いた。彼は無言だった。

 ハルベニィは不安そうに聞いた。


「どうしたんだよ」

「ひびが入ってやがる」

「は?」

「地図がぐちゃぐちゃになってやがる。あちこち点滅して、わけが分からねえ」

「おい。何言って……」


 バルチッタはワアーッと大声をあげた。彼は遺跡の立体地図を示すその球体を何度もたたいたり、揺らしたりした。そうこうしていると、球体の中の光がにわかに強くなり、ぼっと鮮烈に輝いたかと思うと、強い熱を持った。


「熱っ!」


 バルチッタはそれを取り落とした。

 そして、地図はぱりんと割れてしまった。


「あ……」「え?」


 二人は絶句ぜっくした。

 ハルベニィは絶叫ぜっきょうした。


「てめえ! 何しやがった!?」


 バルチッタは三秒ほど固まっていたが、次には怒りの形相ぎょうそうでハルベニィをにらんだ。


「おまえがうるせえからしくじっただろうが! くそーっ!」


 バルチッタはハルベニィが割れてしまった地図を集めようとしているのを蹴飛けとばした。さらになぐるをり返した。

お読みいただきありがとうございます。

ブックマーク、ポイント☆など入れていただければ幸いでございます。


2022年10月19日 「第8話 呪いの森(1)持たざる者の街」について、描写・台詞の修正とルビの追加をしました。

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