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ネビウスクロニクル  作者: 石井
太陽の都編
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第146話 呪いの迷宮(2)「石の塔」

 遺跡に立ち入ることが許されるのは公的資格を持つ考古学者だけである。遺跡の入口は厳重な警備によって守られ、たとえ門衛もんえい顔馴染かおなじみの学者でも毎回学術院の紋章が掘られた腕輪を示さなくてはならない。

 遺跡の探検は危険であるため、おきてはまだある。考古学者は単独では遺跡の探検をしてはならず、おきては遺跡探検のためには十人前後のチームを組むことをさだめているのだ。誰がどのような資格で遺跡の探検におもむくのか、探検隊の責任者はこれらの情報を学術院を通して職人組合ギルドに申請しなくてはならない。

 ところがエージとカミットは二人だけで遺跡に出向いた。エージは門衛もんえいに銀貨を渡し、すんなりと門を抜けた。彼の特権はただ賄賂わいろを渡したから発生したのではない。彼は普通の学者では持たない人脈を用いて、このおきて破りを実現していた。彼の特権はおおやけに認められたものではなかった。摘発されれば資格の剥奪はくだつならまだ良い方で、牢獄の都(ラクリメンシス)送りもあり得た。

 エージはカミットに語った。


「人が多くなると、事故の犠牲ぎせいも増えるからね。僕は一人で探検するのが好きなんだ」


 カミットはまったくそのとおりだと思ったが、矛盾があると気づいて首をかしげた。


「エージは探検が上手じょうずなんでしょ?」

「まあね」

「そしたら、どうせ死なないんだから、みんなで探検したほうが楽しそうだよ」

「ふふ。でもさ、死ぬときは一人が良いだろ?」

「んん? そうなの?」


 遺跡の内部では、不思議な発光物が天井や壁などに等間隔に埋め込まれていて、そのぼんやりとした明かりが照らしていた。通路と言っても、それ自体はかなり大きく作られていて、巨獣さえも余裕を持って行き来できそうなくらい、あらゆる場所が広大に設計されていた。遺跡の中は洞窟どうくつのようにも感じられて、カミットはツクサ人が暮らす地底世界を思い出した。カミットはエージに聞いた。


「遺跡に虫はいるの?」

「ツクサ人の洞窟を知っているんだね」


 エージが感心したので、カミットは嬉しくなった。


太陽の都(ソルガウディウム)に来る前に行ったんだ。ツクサ人は虫のからとか骨を使って、家や道具を作るんだよ!」

「こっちは探検家の骸骨がいこつがときどき転がっているくらいさ」

「そっか! 安心だね!」

殻の都(ヨリカ)には?」

「行ったよ!」

「古代ツクサ人の遺物いぶつは見たかい?」

「うーん。分かんないや」

「そうか。惜しかったね。文献にはあるんだけど、実物のスケッチは想像図しかないんだよ」

「へえ! ……あっ!」


 カミットはわずかな間で記憶を探った。


墓守はかもりのミーズが、ずっと前にネビウスが遺物いぶつに何かして、それで大変だったって言ってたよ!」

「ネビウスはたくさんのことを知っているだろうね。教えてくれやしないだろうけど」

「聞いてみたらいいんだよ」

「ふふふ。彼女ほど、モノグサで、ケチな、もったいぶり屋はいないと数々の伝説で言及されているんだよ」

「ふーん。ネビウスは優しいけどね!」


 二人は歩きながら話した。時折、分かれ道が出てくると、エージが猫の耳をまして、何かの音を頼りに進む方を選んだ。





 ある広大な空間に至り、カミットは「あっ!」と声をあげた。

 大きな石柱せきちゅうと思われたものがいくつも並び立っているのだが、その一つ一つは巨石が不安定に積み上がってできていたのだ。


「ネビウスの好きなやつだ!」


 エージは聞いた。


「どういうことだい?」

「ネビウスは石をむのが好きなんだよ! これもおんなじだ!」

「聞いたことはないけれど、古来こらい人の文化なのかな」

「ううん。ネビウスだけだよ。他の人はやらない」


 エージは目を見開き、笑みを浮かべた。実はいにしえの民、すなわち古来こらい人は今も謎多き人々であった。彼らは秘密主義的で、同時に閉鎖的かつ排他的なコミュニティを堅持けんじする人々でもあり、日常的な文化的側面すらも他の人種にはほとんど知られていないのである。このとき、エージはカミットの発言によって発想を得た。


「この広間は古来こらい人の文化や言語の秘密を象徴するのではなく、一部の人の嗜好しこうだったのかもしれないね」


 彼はこれまで学者たちが散々議論を重ねて、様々な古代の石碑文献などを調べ上げて頑張ってきたのを思い出して笑ったのだった。


「困った人だよ」

「この遺跡はネビウスが作ったんだね!」

「作ったのが一人ってことはないさ。ここの区画の設計を彼女が手掛けたという説は、僕もそう思うけどね」

「んん?」

「この遺跡はいくつかの区画に分かれてる。ここはネビウスの感じがするだけで、他のところは全然違うはずだよ」

「へえ! そっか。ネビウスが友達と作ったのかな!」


 カミットがこのように言うと、エージは急に無言になった。彼はあごに手をやり、石柱の並び立つ様子をしげしげと観察しだした。

 カミットは無視されたことに対して腹を立てた。


「僕はエージが嫌なことを言ったのかな! ちゃんと説明してくれないと困るよ!」


 エージは「ふふふ」と笑った。


繊細せんさいな問題だよ。最古の古来こらい人についてあれこれ言うのはおきてが禁じているんだ」

「なんで?」

「そういう質問も禁止なのさ」

「んん!? なんで!」

「君は賢いんだろ? 自分で答えを見つけなよ」


 カミットはエージの見下したような態度が気に入らなかった。彼は効果がありそうな嫌味を考えついた。


「コウゼンは聞いたことにちゃんと答えてくれるけどね!」


 エージは兄のコウゼンに対して複雑な感情を持っていそうであり、それは間違いないとカミットは見ていたが、エージはへらへらと笑っただけだった。


「兄さんは確信の人だ。僕は疑問の人。君はたぶん前者なんだろうね」

「僕はわからないことはちゃんと考えてるよ!」


 この二人は仲が良くなる気配はなかった。カミットは戦士や漁師というような男たちとは簡単に仲良くなれたものだが、今回の経験は彼にある印象を残した。すなわち学者を筆頭に、神官ドルイド職人組合ギルド職員というような職種の人とは上手くいかないという予感がしたのである。しくも、この傾向はネビウスと似ていた。

 カミットは魔人を探すという目的がなければ、エージのような男とは付き合いたくなかった。彼は目的のためには我慢をするしかないと自分に言い聞かせた。

お読みいただきありがとうございます。

ブックマーク、ポイント☆など入れていただければ幸いでございます。


2022年10月16日 第7部分「廃墟の村(4)夜の王、風の精霊」について台詞・描写の修正とルビの追加をしました。

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