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ネビウスクロニクル  作者: 石井
太陽の都編
145/259

第145話 呪いの迷宮(1)「学問再び」

 馬車に揺られて、帰り道。

 カミットは我慢していたのだが、コウゼンとまた会える機会がいつになるとも分からなかったので、最も大切なことを聞いておかねばならないと考えた。これまで彼なりに調査をしてきたのだが、神殿と職人組合ギルドの強力な情報統制下では彼の知りたいことは少しも明らかにならなかった。コウゼンはきっと教えてくれるに違いなかった。太陽の都(ソルガウディウム)の大都市が見えてきた頃、カミットはコウゼンに切り出した。


「魔人はいつ倒すの?」


 コウゼンは曖昧な返答をした。


「魔人を倒すのはまだ先になるだろう」

「魔人はどこにいるの?」

「遺跡だ」


 カミットは興奮した。太陽の都(ソルガウディウム)では誰も魔人について教えてくれなかったのである。彼はやはりコウゼンは信頼できると思った。


「そしたら、早く倒しに行こうよ!」

「我々は魔人が遺跡のどこにいるのか、把握できていないのだ」

「んん!? どういうこと!」


 太陽の都(ソルガウディウム)は活火山の表層に建設された古代都市である。しばしば起こる噴火や、それにともなれに対応するために、火山内部には耐震機能を有する古代の管理施設が張り巡らされているという。

 これこそが人々が呼ぶところの最も代表的な遺跡いせきであった。遺跡いせきありの巣状に入り組んでいることに加えて、深部構造が有機的に変化するという奇異きいな性質を持ち、その全容は現代でも解明されていない。その迷宮めいきゅう的な性質のため、考古学者が探検に入り、そのまま帰らなかった例は数多い。

 このようなことをイヴトーブがカミットに講義した。カミットは話を聞いて、すぐに名案を思いついた。

 馬車には四人が座っていた。

 火山の古代遺跡は千年以上前にいにしえの民によって建設された。コウゼンがあえて言及しなかった一方、カミットは隣に座っていたネビウスに言った。


「ネビウス! 遺跡いせき迷子まいごにならないためにはどうしたら良いのかな!」

「さあねェ。私だって帰ってこられる自信はないわ」

「でも、みんなで作ったんでしょ」

「大昔には設備の管理を記録していたけど、気づいたら誰も覚えてなかったのよ」


 ネビウスがなごやかに語ったところ、コウゼンはしかめ面で彼女をにらんだ。継承一門カイラいにしえの民の無責任を非難することがしばしばあったが、ネビウスら当人たちはまるで気にしないで無視してきた。この伝統的な関係性がここにも縮小されて表れていた。

 なお、カミットは慣れたものである。彼はいにしえの民に囲まれて育ったのである。


「そっか。仕方ないね」

「そう、そう。諦めてちょうだい」


 ネビウスはこの話を終わらせようとしていた。

 ここで、それまで黙っていたイヴトーブが穏やかな口調でネビウスに聞いた。


「制御されなかった地震によって貧民街のいくつかの区画では棟の崩壊が起きているのだ。この二年で揺れはさらに強まっている。考古学者たちの見解では、魔人が遺跡で悪さをしているのだ」

「気の毒ね。でも、地震なんて荒れ地の都(ペキ)ではしょっちゅうよ。慣れたら良いんじゃない?」

「我々はの地の二十倍近い人口をかかえている」

「でも、私達としては、やっぱり魔人と喧嘩するつもりはないのよ」


 ここでの「私達」とは終わりの島(エンドランド)に暮らすいにしえの民全体のこと。ネビウスは続けて言った。


「この前の会議では、もしも太陽の都(ソルガウディウム)がだめになったら、島を出るって意見が半数を超えたわ。残念だけど、そういうことなの」


 コウゼンが堪えきれず割り込んだ。彼は語気を強め、非難した。


「君たちが作った島であり、君たちがいしずえとなった我らの文明と歴史だぞ」

「残念だけど、私達すらもただの後追いよ。最初のやつらは、もう一人も残っていないの。みんなして飽き性だから……」


 ネビウスはつらつらと語り出して、うふふ、ふふふと笑った。彼女は神官ドルイド剣師セイヴァが困っているのを見ると、どうしようもなく愉快になってしまうのだった。こうなってしまうと、もう真面目まじめに話を聞くことはできない。手応えのない返事や、意味深めかせておきながら実は中身のないことを語るばかりである。

 しかしカミットは彼女の真実を見抜いていた。カミットは家の近くで降りてコウゼンたちと別れたあと、ネビウスとも別れて寄り道をして、ネビウスの古い友人であるヴェヴェをたずねて聞いた。


「ネビウスはこの島で一番長生きで物知りなんでしょ?」


 不意のことだったので、ヴェヴェはうっかりして答えた。


「む? そうだが?」

「そっか!」


 カミットは確信した。

 ネビウスは呪いの守りをつかさどほこらを島のあちこちで修繕してきたが、彼女の古い同胞たちはそれをやる気配がまるで見られず、島はもうだめだと繰り返すばかりらしい。カミットが考えるに、人間の善性を信じるのであれば、彼らはやらないのではなく、できないのだ。他にも、どうやらネビウスしか扱えない古代の遺物は数多いようだった。その最も顕著けんちょな例は空に浮かぶ巨大構造物である浮島うきしまの操作があった。

 これらのことから、ネビウスは火山の遺跡の構造や扱いについても熟知しているに違いなかった。

 さらにカミットはこれまでの旅を振り返って考えた。どうやらネビウスは魔人討伐の役割を彼に期待しているようだった。そのための道筋は既に示されていたのだ。

 翌早朝、カミットはコウゼンの弟のエージをたずねた。エージは学術院で考古学を研究していて、カミットの今後の目的に適した重要な人物と思われた。

 カミットは宣言した。


「今日から、僕は考古学を学ぶ!」


 エージはカミットの急な来訪にも機嫌を悪くせず、彼と一緒に寝ていた女がカミットをにらんでうなったのを軽く可愛かわいがってから帰して、まだ寝ぼけた感じで聞いた。


「服屋はどうするんだい。タタには言ったのかな」

めるよ!」

「でも、君は考古学に興味がないんだろう?」

「火山の遺跡に行ってみたい!」

「ああ。遺跡ね」


 エージはびんに残っていた酒をあおった。彼は自信たっぷりに言った。


「僕はねえ。遺跡を探検するのが上手いんだ」

お読みいただきありがとうございます。

ブックマーク、ポイント☆など入れていただければ幸いでございます。


2022年10月10日:第6部分「廃墟の村(3)追われてきた女の子」について、描写・台詞の修正とルビの追加をしました。

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