茸の根地(5)「前夜」
ミヤルは昼食を食べ終えて、ネビウスに料理の仕方や味付けについて質問するなど、他愛無い会話をしていたなかで、唐突に言った。
「お兄ちゃんのお嫁さんを探すのよ」
言われた側のネビウスは彼女自身に全く関係のない話と思ったし、言うべきことが思いつかず、ただ笑顔を作って、「あら、そうなのね」と言って、いい加減な相槌を打った。
ミヤルはネビウスの反応を気にしておらず、そのまま喋り続けた。
「私、おばさまたちにお願いしに行かなきゃって思っていたのだけれど、なんだか意気地がなくって、先延ばしにしていたの」
「私に一緒に行ってほしいのね?」
「そうなの!」
ミヤルはたたっと駆けて、自分の部屋から小さな肩提げ鞄を取ってきた。
「お土産も持っていかないと!」
「落ち着いて準備なさい。忘れ物があったら困るでしょ」
「でも、急がないと!」
ミヤルに急かされ、このあとすぐにネビウスも付き添いで出かけた。
どこもかしこも太い木の根と一面を覆う茸、ぽつぽつと見かける住居。そして、ときどき村人とすれ違うと、彼らは穏やかに挨拶を交わした。
おばさまとは村の経験豊富な女性を指していた。彼女たちは日中は共同の作業場で茸の選別をしていた。長年の経験により、都に出荷すべき、高品質な茸を仕分けているのだ。
おばさまたちはミヤルとネビウスを歓迎した。
ところがミヤルは挨拶もろくにできなくなり、おろおろとしてネビウスの服の裾を掴んで、懇願するようにネビウスを見つめた。ネビウスは代わりに言ってやった。
「ユウはもう十五歳で、大人の男でしょ。良い相手はいないのかしら?」
ミヤルはほっとした様子で笑みを浮かべ、こくこくと小刻みに頷いた。
おばさまの一人が静かに言った。
「家を持つ男は呪いを抱えてちゃいけないのよ」
ネビウスは田舎にはよくある慣習と思った。彼女はいつもの作り笑顔で「それもそうね」と言った。話が終わってしまいそうになると、ミヤルが慌ててネビウスに耳打ちした。
「私、明日には生贄になるの」
こんなことを言われては、さすがのネビウスも笑顔を引きつらせた。
「あんた、分かってて」
「おばさまたちに言って!」
ネビウスは気まずくなって頭をぽりぽりとかいた。気の利いたことは言えなかった。ため息をつき、仕方なしにおばさまたちに言う。
「ミヤルは明日には生贄になるんですって」
おばさまの反応は淡々としていた。
「上手くいくと良いわねェ」
なんとも気のない返事だったので、ミヤルはあわあわして、ネビウスを縋るように見た。ネビウスはこのあとは勝手にやりとりをした。
「ミヤルは生贄になる前に、ユウがきちんとした相手と家族になるのを見たいのよ」
「無茶を言うんじゃない。今日見合いして、すぐに結婚なんてことにはならないよ」
ネビウスは顎に手をやり、わざとらしく悩むそぶりをした。
「困ったわ。これじゃあミヤルも安心して生贄になれないかもしれない」
この一言はおばさまたちに苦い顔をさせた。
「やらしいわね。若い娘の姿でも、話しっぷりは年寄りさまみたいだわ」
※
ネビウスが無理を通して、その日の晩にユウのお見合いが行われることになった。ユウは茸狩りから帰ってくるなり、服を着替えさせられ、毛並みを梳かされたりして、混乱していた。彼はネビウスに苦情を言った。
「ミヤルの言うことを真に受けるなんて。あいつは十歳だぞ」
「十歳でもう死んじゃうんでしょ? 最期のお願いだって言うんだもの。かわいそうでね」
「急過ぎるし、どうせ意味がない」
「男でしょ。見合いくらいでびびってんじゃんないわ」
「びびってなんかいない!」
そうこうしているうちに、見合いの相手方の家族やおばさまたちなどがやってきた。ユウは美しく着飾った見合い相手の女性が現れると、目を見開き、しっぽをぴんと立てた。その女性はユウの幼なじみで、彼が昔から気にしている人だった。
ネビウスは彼に耳打ちした。
「ミヤルがあの女にしろって言ったの」
「ほんと、意味ないぜ」
「あとはあんた次第よ」
当初の名目は見合いとしていたが、そのあとの諸々の手続きが省略されて、その地元で言うところの結婚式の宴が開かれた。
新郎新婦を中心に座らせ、人々はご馳走を持ち寄って、一晩中飲み食いをするのである。村人もここにやってきて、祝いの品を贈るなどして、豪勢な会となった。
結婚の宴は来る生贄の儀式と対になっていた。終わりの島ではどこでも共通して、均衡が重視されている。悲しみを迎え入れるために、喜びを表すのである。
実は今回の儀式は全てが演技であり、ユウは本当には結婚するわけではなかった。
それでも、ミヤルは大変喜んで、終始幸せそうにしていた。ユウが相手の女性と額を擦り合わせて、愛を誓い合うと、涙を流して喜んだ。
この祝いの席によそ者は第一にネビウスであり、そして村長らと共に現れたのはコウゼン、イヴトーブ、カミットの三名であった。
カミットはネビウスを見つけて駆けてきた。ミヤルはネビウスの背後に隠れて、彼を観察した。カミットはミヤルに元気よく挨拶をした。
「ネビウス・カミットだよ。よろしくね!」
ミヤルは大声にびっくりして挨拶を返せなかった。カミットはミヤルに興味を示さず、食べ物を求めて去った。
続いて、コウゼンがやってきた。彼はミヤルを見てはいただろうが、まるで無視するかのようにして、ネビウスにだけ話しかけた。
「大掛かりな儀式だ。これが正しいやり方なのか?」
「決まりごとなんてないでしょ。呪い子がそうしたいって言うんだからやってやるのよ」
「ふむ。勉強になるな。我々は掟に従うばかりだからな。準備次第でその後の経過が捗ることもあるだろう」
「なんにも意味なかったなんてこともあるんだから、期待し過ぎないでちょうだい」
「もちろんだ。ネビウスが最善を尽くしてくれたことに感謝したいだけだ」
「調子良いわね。私を懐柔できると思わないことね」
「ふふ。期待していないよ」
このあとネビウスが酒を呑まないのかと聞くと、コウゼンはこれを丁重に断った。




