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ネビウスクロニクル  作者: 石井
太陽の都編
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古来都市(11)「品評会、密会」

 短い休止を経て、カミットはタタの服屋を手伝う日々に戻った。


 生地を裁断するとき、タタの周囲に蝶がどこからともなく現れて、きらきらと光りながら舞った。その蝶は半透明の姿をしていて、それはドレスの精霊であった。精霊は人の意思や動作に呼応して現れることがあって、彼らはその人物の能力の有無を視覚化する。


 呪いに関わる精霊の扱いと異なるのは、タタはドレスの精霊に何かを命じたりすることはできない。タタが服作りをしていると、精霊は時折勝手に現れて、ふわふわと舞って、いつのまにか消えているのだ。


 休憩のとき、タタはカミットに語った。


「剣の精霊の祝福を持ってないんでしょ? だったら継承一門カイラなんて入るだけ無駄よ。辞めといて良かったわね」


「タタは祝福があるから良い服を作れるの?」


「たぶん、そうなのよ」


 タタは寂しげに笑った。


「私が良い服を作るから精霊が祝福するのだと最初は思っていたけど、ほとんどのお客さんとか、品評会の審査員もそう、あの人達は精霊を見て、私の服が良いものなんだと判断するのよ。どういうことか、分かる?」


「そっか。逆になっちゃってるんだね」


 カミットは槍の精霊の祝福により、槍の扱いが得意だった。彼は祝福と技能の関連について考察した。


「でもさ! 僕は槍が得意だよ。槍の精霊はなんにもしてくれないし、だけど僕は槍が上手いんだ。やっぱりタタは服作りが上手なんだよ! 分かんないやつは、分かんないのが悪いんだよ」


 カミットが力説すると、タタは小さく笑った。タタの笑顔にはいつもかげりがあった。カミットはこの悲しい気配が嫌だった。タタは面倒見が良く、優しい人柄だった。彼女はジュカ人にも理解があって、修行時代にジュカ人の服職人に学んだ経験があったからだった。だからというわけではないが、カミットはエージをどうにかしなくてはならないと近頃は考えるようになっていた。カミットはハッと思い出して、朗報を伝えようと思った。


「そういえばさ! エージは研究の発表が終わったから、今は忙しくないと思うよ!}


 カミットがエージの話題を出したのは実はこれがほとんど初めてだった。タタは苦笑いして言った。


「あいつの話題は禁止よ」


「そうなの? なんで?」


「ムカつくからよ」


「んん? そっか。ごめん」


 カミットが拗ねて口を尖らせると、タタは話題を変えた。


「今度、品評会があるのよ。子ども服をやってみようと思ってるの。あんたをモデルにするわ」


「ほんと!?」


「テーマは、森の神官ドルイドよ」


「わーい! やったあ!」


 カミットは思わず喜んだが、引っかかったことがあって、考え直して尋ねた。


「僕って、子どもなのかな? べつに自慢じゃないけど、僕は魔人を三人も倒したんだよ」


「大人の男は、やったあ、とか言わないのよ」


「分かった。今度から言わない」


 タタは吹き出して笑った。それから付け足した。


「あんたはそのままで行きなさい。その方がきっと良いわ」





 みやこの服職人が新作を発表する品評会はファッションに憧れる人々にとって最高の舞台であった。そのもよおしはホールを貸し切って行われ、一万人もの人々が会場を満員にする。元々はいにしえの民によってこじんまりと楽しまれていた風習が、今では彼らを不在にして大規模に行われるようになったという歴史がある。


 ランウェイから中央のステージへ歩いてくるモデルたちはその大半がコーネ人かナタブであった。


 子どものモデルが登場する一幕において、カミットは唯一のジュカ人モデルとして、色とりどりの花で飾られたジュカの伝統衣装を着て参加した。彼の服の周りには他のモデルとは比較にならないほど、たくさんのドレスの精霊が舞った。カミットが登場したときには会場は一瞬静かになったが、彼の服がタタの作品であるとアナウンスされると、一転して喝采かっさいが起こって大盛りあがりとなった。カミットは気分を良くして、ステージを歩いて、教えられていたとおりにいくつかのポーズをばっちりと決めた。


 実はタタが出品した作品はカミットの物だけではなかった。再び大人の部となり、男性モデルたちが現れると、その中でも一際黄色い声援を巻き起こしたのはエージであった。闇を連想する漆黒の衣装は一歩間違うと奇妙であったが、みやこで最高の色男と認められている彼は完全に着こなしていた。


 品評会の観客席にはネビウスやミーナが訪れていた他、コウゼンもその場に居た。彼はエージが舞台に立っていても、そちらは全く見ていなかった。


 みやこで有数の大規模イベントだったので、この場に訪れることは誰でも不自然ではなかった。本来ならば直接の接触が禁じられている者どうしが居合わせることも。


 人混みの中、コウゼンは背後から近づいてくる気配を感じ取った。


「君か。手紙をくれたのは」


「ええ。私よ」


 コウゼンとエニネはこのとき初めて会話を交わしたのであった。職人組合ギルド職員と剣師セイヴァは私的なやりとりが禁じられていた。それは汚職や権力の濫用らんようを防ぐためであった。


 コウゼンは栗毛のコーネ人であるエニネを見て、第一印象を述べた。


「私がこれまで出会った女性の中で、二番目に気が強そうだ」


剣師セイヴァレッサには負けるかしら?」


「先日の会議でもまんまとやられてしまったよ」


 エニネはにっこりと笑った。


「あなたには私の言うことを聞いてもらわないといけないの」


 会場は声援で騒々しく、二人は互いの声がよく聞こえるように顔を近づけた。コウゼンは言った。


「剣を振るかどうかは、私が決めるのだ」


「守り子の容態が芳しくないでしょう? 職人組合ギルドは守り子のことを考えると、どういうわけか継承一門カイラを動員したくないらしいの」


「ほう? 思ってもみなかったことだ」


 エニネはさらに近づいて、吐息といきが触れそうなほどの近さでささやいた。


「あなたはおきてを守る人だと宣伝すべきよ」


 コウゼンはエニネの発言に対して強い不快感を示した。彼は強めに言った。


「私はおきて遵守じゅんしゅしている。おきてが対応しきれない事態に対して、先んじて行動しただけだ。後の検証によって、私の正当性は全て認められた」


「私が命令を起草きそうするわ」


「君は私の話を聞かないな。レッサだってもう少し話が通じるぞ。悪いが君のような若い女性の言いなりになるつもりはないよ。他人なので注意してあげる義務もないが、君は年上の男性に対して、無礼なことを言うべきではない」


「私達で事前に相談するのよ」


 コウゼンは目を見開いた。


「それはおきてに反する」


おきてが現実に即していないのだから。私達は対応しなくては」


「しかし、継承一門カイラ職人組合ギルドの内部情報を知ってはならないのだ」


「そうよね。それは破ってはならないおきてだと私も思うわ」


 コウゼンは警戒して腕組みをしたが、表情には余裕を持たせるために笑みを作った。


職人組合ギルド職員である君は、組織としてはあくまで命令する立場だったな」


 エニネもあやしく笑った。


「そうよ。私が命令するのよ」

お読みいただきありがとうございます。

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