古来都市(10)「十二剣師」
十二剣師は上部組織である職人組合の指名によって選ばれ、彼らは継承一門の作戦行動や内部の掟に関わる議題について、現場最高責任者として会議決定する。指名されるのは経験豊富な四十歳代の剣師が多く、一部は例外的に純粋な実績や実力によって若手から抜擢される。
剣師の筆頭は何と言っても、赤毛のコーネ人剣師のコウゼンであった。二十九歳の彼は経験実力ともに充実し、その圧倒的な剣の腕前が知られ、剣師を代表する存在であった。彼は若かったが、十二剣師に指名されたことは誰もが当然のことと認めていた。
十二剣師の会議は剣の精霊を祀る神殿で円卓を囲んで行われる。十二人の内の七人の枠をコーネ人が占めるその会議において、コウゼンは盛んに発言をした。
「私はネビウスと連携できる。古の民を動かすことが難しくとも、彼女を単体で間接的にでも協力させられるだろう」
太陽の都全体の傾向と同じく、継承一門においてもコーネ人勢力は強大であった。この会議においては、コーネ人の意見は通りやすかった。
いつでも自信に満ちたコウゼンであったが、この円卓には彼が唯一手こずる相手がいた。
静かに挙手をしたのは、青い花びらの花髪と緑の肌を持つジュカ人女性。会議における唯一のジュカ人であり、しかも女性。彼女以外の女性十二剣師は二人しかおらず、そのどちらもがコーネ人であった。十二剣師をして、軽視できない彼女の経歴は、森の王家の血筋を引いており、さらには炎の賢者ネビウスの正当な弟子であるということだった。
その女性の名はレッサ。小柄な女性であるが存在感は円卓を囲む十二剣師の中でコウゼンと並び際立っていた。
レッサは三十歳であり、歳がコウゼンとほとんど同じだった。彼らは互いの剣師としてのキャリアの多くが被っており、浅からぬ関係にあった。
レッサが挙手をすれば、会議は自然と静かになった。レッサはその美しい双眸でコウゼンを冷ややかに見た。
「あなたの考えは楽観と願望により歪曲されている」
関係性が弱ければ、場が凍りつきそうな発言だが、両者のやり合いはこの円卓において毎度のことだった。
コウゼンは笑顔を作ってみせて、待ち構えていたと言わんばかりに即座に言い返した。
「君がネビウスを説得してくれ。彼女は剣の神殿から目と鼻の先に滞在している。親子のように親しいはずの師弟がどうして一ヶ月近くも互いに居ないかのように振る舞っているのか、理解に苦しむ」
「私もネビウスも多忙だから、理由も無ければ会う必要がないのよ。それに、彼女は私が剣師になったことを良く思っていない。継承一門が嫌いだからよ、心の底からね」
「ネビウスは作戦に必要だ」
「彼女を作戦に組み入れるべきではないと言っているの。これで十三回目ね」
「ネビウスを作戦に引き込まなければ勝利はない、というのが私の考えだ。何度述べたかは数えていない」
「百回は聞いたわ」
「私は一回の会議でおよそ八回も同じことを言っているのか? だとしたら、それほど重要だということでもある」
十二剣師の会議ではしばしばこの二人の意見がぶつかり合って、最後まで平行線に終わる。他の年配の剣師がなんとなく取りなして、議題を終えるのがいつもの流れだった。魔人討伐については、結局話しはまとまらず、また次回の会議に延期となった。
続いて、またもコウゼンが提案した。
「ネビウスの子のカミットというジュカ人を継承一門の門下にしたい。特例の許可を頂きたい!」
今度も反対したのはレッサだった。
「私はカミットがどういう子どもかを知っているわ。彼は将来有望な男の子だけれど、残念ながら継承一門でやっていくのは無理でしょうね」
「やってみなければ分からない。君だってジュカ人なのだから、彼を応援すべきだ」
「人種の問題ではないわ。先日、彼は稽古場に一度見学に来ただけで、すぐに問題を起こした。門下だったら破門するくらいの問題をね。彼はただの稽古試合でわざと危険な振る舞いをして、卑劣な不意打ちをしたのよ。十二歳とは思えない、勝利に固執する利己性、傲慢さが彼の中にはあるわ。天秤を守る剣師には相応しくない性質よ」
この指摘は少なからず円卓の列席者をざわつかせた。コウゼンはカミットが起こした事件を黙殺するつもりでいたのだが、すぐさま開き直って平然と言った。
「私も報告は受けた。しかし彼は三度の魔人討伐を経験しているのだ。試合と実戦の違いを学べていないがゆえの不運な出来事と私は捉えている」
レッサはこれ以上反論しなかった。この議題はあっさりと否決された。
会議が終わると、レッサは誰よりも早く席を立った。彼女は涼しい顔でコウゼンを通り過ぎて、円卓の間を出ていった。
※
レッサが会議を終えて、継承一門の神殿内の通路を歩いて行くと、彼女の弟子であるジンが待っていた。彼は黒毛のコーネ人の剣師と話していたのを切り上げて、レッサの横を歩いた。
「師匠。剣師コウゼンはやはり会議の結果に依らず、考えを実行するつもりのようです」
「さっきの会議で見てたら、言われなくても分かるわ。コウゼンはやる」
「ですが、彼は結果に恵まれています。おそらくは今回も」
「どうにかして、しくじらせたいわね」
レッサの発言に対して、ジンの反応が一瞬遅れた。レッサはかつかつと足早に歩いてたのに、急に止まった。体格ならば師匠が弟子よりも遥かに小柄で、見上げる形になっているのだが、レッサが睨めば、ジンはすまなそうに背中を丸めた。
「冗談よ」
「ええ。分かってます」
「分かってたら、黙るんじゃないわ」
「申し訳ありません」
レッサはくどくどと説教するわけではなかった。今回もすぐにまた歩き出そうとした。
ところが、その歩みは一歩目にして止まった。
通路の向こうから灼熱の赤髪と褐色肌の若い見た目の女性、ネビウスが入ってきたのである。しかも彼女はカミットを連れていた。
「あらぁ! レッサじゃない!」
ネビウスは厳格な神殿に場違いな子供っぽい声をあげて、レッサに駆け寄った。カミットは慌てた様子でネビウスにくっついて走ってきた。
「元気にしてたの? 怪我の調子はどう?」
レッサは怪我と言われて、ぴんとこなかった。しかしレッサとネビウスが以前別れたときには、最後レッサは戦いによって酷い怪我を負っていたのであった。レッサは笑顔で取り繕って言った。
「すっかり回復しましたよ」
「そう! 良かったわ!」
レッサはカミットのことが気になった。カミットはネビウスの後ろで気まずそうにもじもじとしており、以前に会ったときの印象とは違っていた。
「ネビウス。なぜ彼を連れてきたのです?」
「聞いてないかしら? ちょっと迷惑をかけたみたいだから、坊やは謝りに来たのよ。そうなんだけど、こちらが悪いからって、あんたたちにボッカンボッカン殴られたりしたら困るから、私が付き添うんだわ」
「ああ、そういうこと」
言われっぱなしで受け流しそうになったが、レッサは忘れず注意した。
「今の継承一門ではジュカ人差別はありませんよ」
「そうなの? でも、念のためよ」
このときカミットはレッサに対しては怖がるような様子をみせていたが、ジンが「元気だったか」と声をかけると、カミットは嬉しそうにはにかんで「元気だよ!」と応えたのであった。
お読みいただきありがとうございます。
ブックマーク、ポイント☆など入れていただければ幸いでございます。




