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ネビウスクロニクル  作者: 石井
太陽の都編
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古来都市(3)「学術院」

 秘境の里に住んでいたいにしえの民の内、会議に参加していたのはネビウスとヴェヴェの二名だけであった。カミットは懐かしい人々との再会を期待していたので、諦めきれずに広場を探し回った。


 会議は日中のほとんどの時間をかけて延々と続き、それが数ヶ月がかりとなる。いったい何がそんなに時間がかかるかというと、百人近くもいる人々が各自報告の機会を与えられ、それに対する質疑応答も全ての者が納得するまで続けられるからである。議題の重要性に優劣はつけられておらず、島の命運に関わる話から個人の園芸や釣りの研究に関する話まで、全ての議題に時間が無制限で与えられていた。


 カミットは親しい人がいないと分かると急激に会議への関心を失い、退屈し始めた。彼はネビウスに「いつ帰るの?」「夕飯は?」「ミーナは大丈夫かな」などと言って、遠回しに帰りたいことを訴えた。


 ネビウスはカミットを職人組合ギルドに預けてくれば会議に集中できたわけだが、夕方になってカミットがお腹をぐうぐう鳴らし始めれば、彼を放っておくわけにいかなかった。ネビウスはヴェヴェに挨拶を済ませて会議を途中退出したのであった。





 今やカミットは旅の目的を魔人討伐と明確に定めていた。太陽の都(ソルガウディウム)に来て最初の夜、ネビウスが友人の家に間借りした一室での家族の夕食の席で、カミットは今後の計画をネビウスに伝えた。計画の根幹はみやこ職人組合ギルドを訪れる傭兵や継承一門カイラの戦士と親しくなることであった。


 ネビウスはこれを聞き、深刻な様子で語った。


「坊や。太陽の都(ソルガウディウム)は二十四年前に森の民と戦争をしたわ」


「でもさ、僕は街を歩いてみたら思ったんだ。街の人達は僕を見ても何も言わなかった。嫌な思いもしなかったよ」


「神殿が差別の禁止を命じているのかもしれないわ」


「良かった!」


「でもね。残念だけれど、太陽の都(ソルガウディウム)の人たちは他の都市とは比べ物にならないくらい森の民が嫌いなの。第二層は上級市民ばかりでしっかりとした教育を受けた人たちだから掟をちゃんと守るけれど、大多数の下級市民はそうはいかないはずよ。傭兵とか、戦士連中とは関わってはだめ」


「そうなの?」


「そういうわけだから、坊やは下層に行ってはならないわ」


「んん。んー!?」


 カミットはネビウスの言いつけをすぐには受け入れられず唸った。


 太陽の都(ソルガウディウム)は山の形をしている。中枢は上層の狭い領域だったとしても、下層の広い領域に行かないのでは、この都市を十分に知ることはできないように思われた。カミットは魔人を倒すのは当然として、太陽の都(ソルガウディウム)についてよく学び、この都市を訪れたことがない友人に教えられるようになりたいと思っていた。


 それでもネビウスが言っていることをカミットは理解できた。彼はネビウスの言いつけに渋々従うことにしたのであった。このとき彼が考えていたことはある一事いちじについてであった。


 結局、魔人を倒せばあらゆる問題は解消するのだ。人は利益をもたらす者にはひどいことをしないものである。カミットはこれまでの経験から、魔人を倒せば、人々は彼を英雄視して特別扱いし、太陽の都(ソルガウディウム)のどこにでも行けるようになると考えたのであった。


 ネビウスは今まではカミットには新しい都市に来たときはいくつかの禁止事項を伝えるだけだったが、今回は具体的な指示をした。


「学術院で助手をやってみたら良いんだわ」


 学術と言われて、カミットは何をする場所なのかあまり想像できなかった。彼は荒れ地の都(ペキ)のベイサリオンのスクールを連想して、きっとつまらない場所に違いないと思った。そこで彼はその場で思いついたことを行った。


「僕は職人組合ギルドで働くよ。エニネの弟子をもう一回やれるよう頼んでみる」


「まあ、まあ。そう言わずに。私も一緒に行ってあげるわ」


 あくまでもカミットは乗り気ではなかったが、ネビウスがこうも強く勧めることは珍しく、結局親子で学術院に出向くことになった。





 第二層街の一角を占める広大な土地に学術院研究所及び図書館がある。


 太陽の都(ソルガウディウム)の施設としては例外的に、研究所に入ってすぐの応接間ではジュカ人も含む多様な人種が談笑していた。


 そんな中で赤毛のコーネ人の男が誰とも話さず、ベンチに寝転んで日向ぼっこをしていた。ネビウスは彼にカミットを紹介した。


「私の子のカミットよ」


 その若者はコーネ人なのでお尻にしっぽがあった。それがゆらゆらと揺れた。彼は気怠げに言った。


「僕がそうだってよくわかったね」


「変わり者のエージはいつも一人ぼっちって聞いたわ」


「ひどい紹介のされ方だ。孤高のエージと呼んでくれよ」


 その若者、エージという名の彼は二十七歳の学術院の考古学者であった。彼は起き上がると、カミットを見て、嫌そうな顔をした。


「本当に子どもじゃないか」


「よろしくね」


「仕方ないね。兄さんが言うんじゃあさ」


 ネビウスは手短に挨拶を終え、カミットを置いて去った。


 残されたカミットは改めて彼に名乗った。


「ネビウス・カミットだよ。よろしくね!」


「ああ。よろしく。僕はエージ。みやこで知らぬ者のいない、コーゼンの弟のエージさ」


 エージは艶っぽい笑顔を見せて、カミットと握手をした。コーゼンは言わずと知れた太陽の守り子であり、現役で最強の剣師セイヴァであった。


 エージは顎を撫でながら、小首を傾げて、カミットに問うた。


「君、考古学、興味ある?」


「ううん」


 カミットは首を横に振った。


「そうだろねェ。子どもだもんな」


 この一言にカミットはカチンと来た。


「興味はないけど、仕事だったら任せてよ」


「おや、おや」


 エージは彼の研究室にカミットを案内した。書簡が積み上げられているのは学者らしいとして、何日分もの洗濯物や大量の酒ビンが散らかって、カミットはその汚い部屋に入るのも躊躇った。


「じゃあ、これ、頼むよ」


「やだよ。掃除は奴隷の仕事だよ」


 カミットは即座に断った。


 エージは椅子にゆったりとかけて、酒瓶を口に運び、ごくりと呑んだ。そして不適な笑みを浮かべて言った。


「良いね。君、合格」

お読みいただきありがとうございます。

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