6 命
月日は流れ、母さんの臨月を迎えた。当然父さんと俺は、ソワソワして仕方ない。
「全く男達はしょうが無いね」
エレナさんも、手伝ってくれるそうなので家に来てる。産婆さんはこの商店街のベテランが来てくれてる。ブリットさんは俺とアニスも取り上げたそうだ。
「アル坊、お湯を沸かしな!それと綺麗な布を持ってきな」
「はい!」
「サンベルは邪魔だから、部屋から出ていきな。男はドッシリ待ってな!」
漢らしい婆さんだよ。父よ、気持ちは解る。前世では子供は3人居たが、かなり落ち着けなかったよ。
結局準備が終わったら、俺も追い出された。確かに前世では、立会いはしなかったので興味はあるが仕方ないかな。
暫く経つと産声が聞こえてきた。
「おめでとう!父さん」
「ああ、俺もっと頑張って稼ぐからな!」
4歳を迎えたこの春に、新しい家族が増えました。可愛い妹だ。
「アル妹だって、私もお姉ちゃんだね」
これからも近所付合いは続くからアーちゃんも、妹が出来た気分なんだろうな。
数日後……父よ頑張ってくれ!目に隈が出来てる。
「アルは夜泣きも無いし、普段も泣かないからアレが普通だと思ってた…」
「そんな訳無いじゃない、あなたったら!これが普通!アルは泣かないから心配だったのよ」
普通は、泣くのに泣かないから心配するよな。前世の記憶に意識がはっきりとあるとね…苦労をかけたねママン!
「アルー遊びに行こー!」
朝の定期便の声だ、父よ仕事を頑張ってくれ。
今日は何して遊ぼうかな?
「今日は廃墟になった、教会に行くね」
アーちゃんが言うには、武具を買いに来た冒険者達が、廃墟に出るらしいと話していたそうだ。…出るとはオバケらしい。
「朝だから、オバケ出ないんじゃない?」
アーちゃんはそれが良いそうだ、怖いんだね。でも好奇心はある、妥協して朝なのか。
街の外れにある、古い教会にやって来た。元々子寺院も併用してたが、建物が古いので別の場所に移動した。取り壊し予定だが、まだ買い手も居ないし使い道も無いそうだ。
壊れた扉の隙間から、中へ侵入だ。中は薄暗いけど、夜に来たら見えないな。聖堂には、変わった様子が無いので更に奥へと進む。
「アル、やっぱりオバケなんか居ないのよ!」
「そうだね」
一応、剣は腰にあるがゴーストは斬れないよな。魔法は使えるから大丈夫か。
此処は子供達が寝る部屋かな?壊れたベッドが多数ある。壊れて無いベッドに人が寝てる様に盛り上がってる!
小声でアーちゃんに話し掛ける。
「盗賊かもしれないから、音を出さないように戻ろう」
小刻みに震えるアニス。
「やだ、怖い!」
言いながら、走り盛大にコケる。
ドジっ娘属性が付いてるのかな?駆け寄り手を差し伸ばすが蹲っている。
ベッドを見るとそこには、緑色の子供?違うなゴブリンか。グギャグギャ言ってるが、起こされて機嫌が悪い様だ。
ゴブリンは錆びた剣を持ちこちらを見て笑ってる。ゴブリンにしてみれば、エサがやって来てくれたと思ってるんだよな。
まだ、冒険が始まって無いのに終わらせる訳には行かない。アーちゃんは震えながら蹲っている、下手に動き回れるよりいいかな。
アーちゃんに被害が行かないように前に出ると、ゴブリンは剣を振り下ろして来る。
ギン!と金属がぶつかる音が鳴るが、力負けで後方へ吹き飛ばされた。
「力はゴブリンが上ですか」
4歳になったばかりだから、まだ軽いもんな。力じゃ負けるが、この世界には魔法がある。
魔力操作で自分の身体に、魔力を流せば身体強化が出来る。余り長い時間は出来ないが、今はこれで倒せるはず。
地を蹴り、一足で距離を詰める。笑ってスキだらけの胴体に水平に斬り付けた。コレが肉を切る感覚か、でも筋ぽっくて硬いな。
ゴブリンは腹を押さえているが、まだ生きている。しっかり止めを刺さないと誰かが被害に会うからね。もう一度身体強化をし、心臓に向かって剣を突き刺した。
大きな断末魔を上げ、横たわる。ゲームの様に消えないのか。まあレベルやステータス数値化が無かったのでゲームじゃ無いよな。
「アーちゃん、もう大丈夫だよ」
「ご、ごめん、ね…アル」
まだ震えてるので抱きしめる。泣き出してしまったが、どうしようかな?
「誰か居るのか!」
さっきの断末魔に鳴き声、誰か警備隊に連絡したのかな?
「はい!こっちです」
警備隊が3人やって来た。泣きじゃくる子供に、横たわるゴブリン。
「コレは君がやったのか?」
「はい、夢中で倒したのですが駄目でしたか?」
「襲われたのだろ?それにモンスターだ。だがなぜ、街に入って来てるのだ」
それは知らんよ。警備隊で調べて下さいね。
「うん?君はサンベルのとこのアルくんじゃないか!」
「はい、そうです。この子はレジス武具店のアニスです」
「親御さんを呼んで来るから、待ってな」
それから暫くして、アーちゃんの両親2人に父さんが連れて来られた。
「アニスに連れて来られたのだろう?すまないな、それに守ってくれてありがとう」
笑って誤魔化しとこ、アーちゃん1人を悪者にされちゃ可哀想だし。
「アル、やるじゃねえか!ゴブリンでも力は上だぞ!大人でも一般人なら死んでるぞ」
軽く数メートル、吹き飛ばされたからね。前世なら死んでるよ!
他の警備隊員も来て調べた結果。この廃墟と街を囲む壁際の一部が崩れ死角になり、穴の発見が遅れたそうだ。
この周辺の家畜や野菜の被害は、犯人がゴブリンで間違いないだろうのこと。別の部屋に死体やら食い散らかされてるらしい。
それにしても、モンスターとはいえ人型を殺した。案外平気だ、異常なのかな?手には刺した時の感触が残ってるが、気にならないからいいや。
帰ったら、昼御飯の後は偶には父さんのコンロ作りを手伝うかな。