そう、ここは健全ラブリーなホテル!!
なんにもなくてしょぼい土地に堂々と構えて経営するホテル。見た目は主に女児が大喜びしそうなシンデレラ城もどき、看板の下に小さく表記されている休憩と宿泊のお値段。そして中にある駐車場にはここのホテルの客と思わしき中年の男女がベンツから降りた。男は女の腰に手を、女はブリリンッと効果音の似合う大きいお尻を左右に震わせてホテルの中へ消えていく。これは、誰がどう見てもラブホだ。
「ね、ここってさ――」
「言うな」
話を遮られた。私はただラブホではないかの確認をとろうとしただけ。別に怒っているわけじゃない。あんなにビジホだと言い張っていた男が最後にこんなドジを踏んだのだ。いや、どうしたらそうなるわけ? 怒りも呆れも通り越してドン引きの域。まさか自分がラブホに予約を入れるなど取返しのつかないミスをしたことに本人も死んでしまいと思っているに違いない。プライドの高い男だから自分の犯した行為を認めるのはまだまだ時間がかかりそうだけども。
二人が立ちはだかるホテルを前に立ちすくむ。そこへ目が覚めた愛理が寝ぼけ眼でホテルを一瞥すれば手をたたいて眠気を吹っ飛ばしたような歓声を上げたのだ。
「すごいすごいすごーい! ここって今夜泊まるホテルですか!? 素敵! 夢の国みたいです!」
想像通り。愛理はラブホの存在を知らなかった。それから三咲の背中から下りれば一番にラブホの入り口に駆け寄って、設置されてある天使の像やお城の造りを眺めてうっとり。大喜びで飛んで回っているのをこう目の当たりにされたら、もうこのホテルで大正解。ラブホを選んだ三咲はなにひとつ間違っていない。
「三咲、入るわよ」
「おいおいおいマジで言ってんのかよ!」
「あんたさ、なかなかやるじゃない。あの子のエロ知識皆無を上手いこと利用して、女子受けのいい夢の国みたいなラブホをチョイスしたんでしょ? 見なさい、あの喜びっぷり。大成功よ」
「お前わざと言ってんだろ」
「まっさか! ただし、これだけは二人で守りましょう。愛理にここがラブホ、いわば普通ではないホテルだとバレないよう行動するの。きっとこのホテルの部屋にはたくさんのエロでいっぱいよ。そこを私たちがなんとしても隠し通すの! もし彼女にラブホだとバレてみなさい。困るのはここを予約したあんたよ」
ぐっと何かを堪えるように表情を固めた三咲は承諾を意味する頷きをわずかにした。それも超渋々で。愛理の夢を壊さないためにも、桃尻ルート復活するためにも今夜はやることがいっぱい。二人で隠し通すとは言ったけど、三ラブホ隠しは三咲にほぼ担ってもらいましょ。軽い脅しをいれりゃ嫌でもやるでしょ。
「あーいりっ! さっきから何見てるの? 私も混ぜて!」
「そこにある池、ランタンがたくさんあって綺麗だなって見惚れていたんです」
「あーら本当、ラプンツェルのシーンみたい。そこに咲いている花の手入れもしっかりされてるし、すごく管理の行き届いたラブホね」
「らぶほ?」
「あっ」
取り乱しかけると同時に桃尻OUTの赤文字テロップが頭に浮かび上がった。やばい、言い出しっぺの私がラブホ暴露したら意味ないじゃない! まずい三咲が超睨んでいる、後で殺されること間違いない……っ。
だがここで幸運到来。「らぶほ」の意味が分からないであろうにも私に質問を投げることもなく、
「たしかに、とってもラブリーなホテルですね!」
よかったああぁ~! 勝手に自己解決してくれたっ! にしてもラブリーなホテル、略してラブホって……その発想がめちゃくちゃ可愛い、抱きしめたい! もう楽しんだもの勝ちよ!!




