真面目に悲しみのない自由な空へ翼はためかせ行きたい
面白いほど調子づいたのもあり、もはや歌より踊りをメインに力を入れ始める。不意に振り返っては腰をくねらせたり、部屋の隅にあるマイクスタンドを中央に持ってきてはスタンドに足を絡ませポールダンスもどき。いつもだったら白い歯を見せる程度を笑いをする愛理だが、こればかりは声を出して大爆笑で、次はどんな振り付けをするのだろうかとワクワクしている。
どうよ、私の力を思い知ったか? ……って、まーだデンモクと睨めっこしてるし。オラッこっちを見んかい! オラッ!
「つけぇて~くださぁ~いいぃ~」
歌いながら三咲の前へリンボーダンスをする形で攻めていく。この絶妙なウザさが相手の一番ダメージになると考えたから。でも三咲は関心を持たずに、デンモクと向かい合っていた。今はライバルよりも自分の選曲が大事ということなのだろうか。
あらら、つまんない男。まあ、なんにもリアクション起こさないってことは私の勝ちってことでいいわよね!
こうして歌も一番の盛り上がりを見せるサビへ突入。高音が連続する「こ↑の↓お↑お↑ぞ↓ら↑に↑」へと入るが、ここまできたら心配いらない。爆弾が存在しないだけでこんな無敵で開放的な気分で歌えちゃうものね。何でもないような事が幸せだと、こんな状況でしみじみ思う。
ところがこのとき、私は人生でも最も――いや、一番といえる過ちを犯していたのだ。無理に激しいリンボーダンスをしたせいで腹部が圧迫。そこで逆流した空気が目覚め、生まれる新たなゲップの塊。もとい爆弾が体を起こした勢いで昇る。ものすごいスピードで、精子が卵子の元へ着床するかのような速さで目指すのは、言うまでもなくひとつしかない出口。
魔の手が忍び寄っている。そんなことも知らずに息を吸う。その距離はわずか数センチだったが、爆弾も一枚上手だったとでもいうのか、違和感らしい違和感もなく、爆弾が再び目覚めてしまう第二次災害に当然気にかけることもないまま喉を通り、喉ちんこもすり抜け――解放!
「こ~の~ヴ゛オ゛ォ゛ォ゛ォ゛オ゛オ゛オ゛ォ゛ォ゛ゲ゛ェ゛ェ゛ェ゛ェ゛ェ゛エ゛エ゛ェ……ッッップ!!!」
……何が起きた? すぐに理解するのは難しかった。二人の顔の呆気にとられているのを見て、冷静に今起きたことを頭でリプレイ。
好きな子の前で、ゲップという名にふさわしいゲップらしい汚いゲップが出た。
は? 私が愛理の前でゲップ? 嘘だ。夢に決まっている。あんなに盛り上がっていたじゃない。早く覚めてよ! 悲しみのない自由なぐちょメモに戻しなさいよ!!
絶望に落ちていく中、そう願った。それでもツーンと鼻に残る炭酸を解き放った痛みが現実の二文字を強く叩きつける。空気の読めないスピーカーから一歩遅れてキーンと高音が鳴り出した。笑いに変える元気もない。「翼をください」が空しく流れていくのを最後にカラオケデートは最悪の幕引きとなり、終了を迎えたのであった。




