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悪役令嬢になったんで推し事としてヒロインを溺愛します。  作者: 273
ルート4 憧れのあの子とホテルに行こう!
75/87

フッ、おもしれー男。イケメンボイスはルール違反!

あーん、私のドジ! なんで勘違いコントみたいなことしちゃうかな!? 


「そ、そうそう! いいわよねえ! ダブルのユー!!」


 見事に的外れなことを抜かしたことに、とてつもない羞恥心がこみ上げてきた。そんなところで、口を閉ざしていた三咲がひとつの行動に出る。


「歌えば」


 テーブルに置いてあったマイクとデンモクを「あちらのお客様からです」といった感じにスライド。そしてスマホをポチポチ。


へぇ、自分は歌う気ないですよアピールってこと? だったら最初から来てんじゃないわよ。


「やっぱり歌わないの?」


「そうよ。愛理があんたの歌聞くの楽しみにしてたじゃない」


「場の流れってやつだろ」


 こいつ、女子二人組に顔すら合わせずゲームとは、いい度胸してるじゃない。なにもしないなら帰れってどつきたい気分でもある……だがしかし! ここで帰すわけにはいかない。愛理に雌の顔をさせた罪は重いんだから。この空間で私がビシッと決めて、男の方は情けないほどの大きな爪痕を残させてもらうわよ。


「分かった。あんた音痴なんでしょ。だから歌いたくないとか?」


「は?」


「ぷぷぷ、やあっとこっち向いた! 図星? 図星きちゃった感じ?」


「お前の下品な声色で奏でる歌よりかはマシだろ」


「ふぅん? じゃあ勝負してよ。このカラオケ採点で点数高い方が勝ちってことにしない? もちろん一回勝負じゃつまんないから、三回勝負の合計点を競うの」


「やってらんね。帰るわ」


「ちょっと待ってよ! 分かった分かった。勝負はなしでいいから、一曲だけでも歌いなさいよ。ほら、ね?」


「きっしょ」


 舌打ちをした三咲は呆れた感じで立ち上がろうとすると、すかさず私の右側から、


「え……行っちゃうの……?」


 可愛い子犬も顔負けの上目遣いの愛理。そんな彼女を平気で背に退室するはずもない。思いとどまったのか、ギクシャクと不自然な動作でソファに再度腰を下ろして「一曲だけだかんな」とボソッとこぼした。


 ふっ、おもしれー男。ま、気を取り直してカラオケデートを楽しみまなきゃね。


「さてさて、誰から歌う? 愛理からにする?」


「わ、私一番はなんだか緊張して……そうだ、桃尻さん一緒に歌いませんか?」


「えー! デュエットとかいいの!? やろやろ! 愛理なに歌える?」


「そうですね。ええと、皆が知っていて、桃尻さんも歌える曲……あっ、森のくまさんとか。ハッ! そ、それってただの童謡ですよね! やだ恥ずかしい!」


「ギャハハ! いい、いい!! 超いい! もう今日のテーマは『絶対にみんなが知っている曲しか歌えない』ってことにしよ! 童謡でも合唱でも!」


 マイクを持ち、ウッキウキで森のくまさんを熱唱。ミラーボールがクルクルと周りだし、一名を除いて熱気は最高潮。ときどき互いに目が合うときは、今日のデートが走馬灯みたく流れだしていく。そうすると、三咲の件に関してはもうどうでもいいって言っちゃあれだけど……別にいっかみたいな。


 本当、恋ってすごい。だってさ、好きな人と楽しく過ごすだけでこんな幸せになれるんだもん。薄汚い考えも浄化されていく。例え男じゃなかろうと、桃尻ルートがなかろうと自分で切り開けばいい。私には立派な手と口がある。触れたかったら抱き寄せればいい、愛おしいと思ったなら伝えればいい――。


「ふぅ、最初だから声が震えちゃいました。次は、三咲くん歌ってみる?」


「まだいい。つか、マイク向けるのやめろ」


「ごめんね。三咲くんってさ、すごくいい声してるよね。だからどんな歌も上手に歌えそうなイメージあるな」


 ……ん? いい、声……? 今までなんとも思っていなかったけど、三咲の声優ってたしか……イケメンボイスで有名な人を起用していたはず……。


 桃尻エリカ、ここにきてようやく気付く。カラオケデートは、ライバルが断然有利な立ち位置だということに。



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