近頃私たちはいい感じ?通ぶりたいお年頃!
駅に近いカラオケ屋で休日ということもあり、店内はそれなりに混んでいた。店員からはフリータイムではなく、三時間までと伝えられ、私たちは一番奥の部屋へと案内される。
「わぁっ! 結構広いですね」
「そうね、二次会とかで使う部屋みたい」
ここしか部屋が空いていなかったのかしら? 軽く十人は入れる大部屋に少しびっくり&なんだか悪いわね。まあ、初のカラオケデートにしては清潔感もあって、機種も最新だし満足満足。――って、呑気にしてる場合じゃない。
「愛理! 私の隣空いてるわよ! さあどうぞ座って!! ほらほら早く!」
「あっ、は、はい」
やや強引に愛理を隣に座らせる。横に長い椅子には、左から三咲、私、愛理の順。これでなんとか愛理と三咲の接触を防ぐことができたが、一切油断はできない。さっきの愛理の顔を思い出すのよ。あれは雌の顔になりかけていた。これ以上心臓を男側に持っていかれないよう、このカラオケで桃尻ルートに引き戻さないとね。
「はい、じゃあ最初は誰から歌う?」
とは言いつつも、カラオケは結構久しぶりなのでテンションが高まっている。上生きていたときは頻繁に一人カラオケでストレス発散をしていたほど。あ~、何歌おうっかな? 歌唱力的にはぶっちゃけ下手ではないと思うよね。だから愛理の胸にズキュンと響くようなラブソングとか歌えたらいいな~なんて。
「俺、カラオケ久々」
「三咲くんも? 実は私もなんだ。何歌えばいいのか分かんなくなっちゃうよね。桃尻さんは普段カラオケに来たとき、なに歌っていますか?」
「え? 私ぃ? うふふ、私はね――」
と、ちょっと言いかけたところで言葉にブレーキをかけた。
私の好きなアーティストを語ったとしても、相手が知らなきゃ盛り上がれない。ここで今初めて思う。カラオケデートは意外と難しいと。
そもそも愛理は何年生まれの何の世代? 初代の「ぐちょメモ」発売日は2010年。それから年齢を引いたら……えっと、1993年生まれってことになる。そうすれば年少時代には小室のファミリーの存在と歌は認識しているだろうけど、この世界の雰囲気的に2020年の設定でしょ、多分。だったら年齢を引けば――2003年生まれ!? わ、若い……。
てか悩むぐらいだったら、こっちから素直に歌の世代を持ち掛けて聞けばいい……んだけど、聞かなくても相手のこと分かってますよアピールがしたい! まとめると見栄っ張りなのが私!
1993年生まれ、2003年生まれ。どっち? どっちだ? 神か、悪魔か! ええい、女の子だったら大半がモー娘。にお世話になっていた説! ここはモー娘。で賭ける!!
「桃尻さん? あっ、そうですよね。桃尻さんあまりカラオケ行かないですよね。変なこと聞いてごめんなさい!」
「ううん、超行くわよカラオケ! やっぱ、こう見えて小さい頃から女性アイドルに憧れていたのよ。だからアイドルソングばっかり歌っているわね!」
勢いよくそう答えると、愛理の目がぱぁっと輝き始めた。
「アイドルに憧れるのすっごく分かります! 私もテレビの前で振り付け真似して踊ったりしてました」
よっしゃ、掴みはバッチリ。というか幼女愛理がアイドルの真似事?! あーん、ギャワイイ! ふふっ、それよかどう? 今の三咲は完璧に蚊帳の外。女同士の会話に入れないのが気まずいのかしら? スマホばっかりいじってる、かっわいそ~!
愛理とアイドルの話で盛り上がり、腹の中で三咲を酷く嘲笑う。しかし意識がそちらの方に傾けば当然会話の内容が入ったり、抜けたりするのが人間である。
「大人数より二人組なのも結構覚えやすいよね」
「え、ええ! そうね!」
「プライベートでも仲良しで、似た者同士で――」
「うんうんうん、ほんとほんとほんと、それなそれなそれな」
やっばい、三咲の反応が気になって話ちゃんと聞けてなかった。二人組アイドルのこと言っているみたいだけど……あっ、パフィーのことね。
「いいですよね、ダブルユー」
「本当よね、パフィー」
違った。てか、だいたいパフィーはアイドルではない。




