イク!胸のキュンキュン止まらないよっ!
「ああ? な、なんだよ高校生か? いきがってんじゃねぇぞ、コラ。とっとと離せよ」
男は振りほどこうと体を上下にねじったりするが、どうも力が相当強いらしくびくともしない。ここで喧嘩っ早い三咲はイライラが増したのか、いきなり男の足を思いっきりプレスするかのように踏みつけたのだ。
――ダァン! ゲーセン内に起こりうるはずのない地響きに似た音に誰もが振り向き、息を止めて見守る中、
「お前にとってはカスみたいな思い出なんだろうが、やられた側はおっさんの顔と名前は一生覚えているからな」
ドスが効いてないものの、怒りがしっかりと込められた言葉に男は脂汗を一滴流しては言い返すこともなく、駆け付けた警備員に御用となった。
私と愛理は被害者側ということもあって、共に事務所へ行くこととなった。そこで起こった状況など細かく何度も質問され、解放されたかと思えば時刻はお昼もとっくに過ぎた夕方。本来ならケーキバイキングでおやつを楽しんで、カラオケに行ってたであろう。
人混みが減る気配のないショッピングモールを歩きつつ、私は愛理に謝罪をした。
「騒ぎを大きくしてごめんね。私がもっと大人な対応をしていれば、こんな遅い時間にならなかったわよね」
「えっ! どうして謝るんですか?」
「だって、恥ずかしかったでしょ? いろんな人に注目されたんだし。しかも相手をあれだけ煽っておいて、最終的に三咲に助けられたんだもの……」
「たしかに、一時はどうなるかと思いました。だけど、桃尻さんが恐れずに立ち向かってくれて嬉しかったです。そしてなにより――」
「なにより?」
「かっこよかったです……。女の人に言うのはおかしいかもですけどっ、結構ドキッとしちゃいました……」
「え? それってどうゆう意味で?」
「あっ! ごっ、ごごご……ごめんなさい! 今のは忘れてくだひゃい!」
愛理は言い終えてから、今もドキドキしているかのように胸に手を当てて、私に上目遣いで目を合わせるも、恥ずかしさからかすぐに逸らす。しかし照れ隠しは表情だけじゃなく、でスカートの生地がしわくちゃになりそうなぐらい握りしめていた。
トゥンク……。ハートがゆったりと揺れたのが分かった。いつもなら心臓がバクバクから桃尻ルートキタコレ! とかいう大暴走が始まっていたであろう。
松風愛理――。彼女を推しとして、また一人の女の子として大好きだ。だからこそ、意中の相手から脈ありな反応をされると、いつもみたいにキャーキャー盛り上がるなんてできっこない。こっちが照れちゃう。想いをぶつけてくれた愛理に、性的興奮をするのも罪だと感じてしまう。
「あっはは、そっぽむくなんて~……この、照れ屋さんめ! このこの~!」
んあああああ!!!どうしてだよおおお!!!どうしてロマンも欠片もないことしか返せないんだよ私はあああ!!
「桃尻さん」
「え、あ、なんでしょう?!」
引いた? 引いちゃった?
「まだ時間って、大丈夫ですか? もしよかったら、これからカラオケに行きませんか?」
「イク!!!」
「どうしてカタカナなんですか?」
「深い意味はないのよ。ただちょっと気分的にね? さ、行きましょう!」
性的興奮の大波が罪悪感を放り投げてやって来た。




