男がなんぼのもんじゃい。これがカレンな乙女のポリシー!
「おい、クソ尻の動き見たか?」
「うん……。殺虫剤をかけられた虫ってあんな動きするよね……」
「ぼ、僕なんだか今の動き見て吐きそう」
「ほら雅人、エチケット袋あるから戻しそうになったら使うんだよ」
「ありがと、恵にい」
あ~、はいはい嫉妬乙。四人はコソコソなんか言ってるけど知ったこっちゃないっての。
しかしまあ、最初は死んだと思ったけど愛理はちょっと見直した感じで話しかけてきたし、これは桃尻ルートに近づいたんじゃない? こんなミラクルが起きるなんてすごいついている! もう神に感謝しなきゃね!
「松風さんも今度ご一緒にソーラン節いたしませんこと?」
「私、踊りとか苦手なのでちゃんと踊れるかどうか……」
あらやだ。この子ってば、仏のように優しい性格など重々承知してたけど、桃尻エリカの誘いを拒否しないってどんだけエンジェルなの。はあ、もうほんと好き……。
「大丈夫ですわ! 私がちゃんと付きっきりで教えてさしあげます!」
「それは、頼もしいですね」
「そうでしょう~?」
この短時間で愛理と顔を合わせて笑い合う関係まで持ってこられたことに、心でVサインを繰り返した。ただし爆発しそうな喜びを抑えきれずに私の足元は、童話赤い靴のように独りでに舞い踊りそうな勢い。
不審がられないよう、つま先に全身の力を入れて持ちこたえて次の話題「一緒に学校へ行きましょう」と声をかけようとすれば、蚊帳の外だった三咲が横入りしてきては、肘で私の頬にクリティカルヒットをかます。その衝撃で唇の端が少しだけ切れて流血してしまった。
「いったぁ~い……おいこら三咲! あんたイケメンキャラのくせして信じらんない、このDV男!」
こんな陰湿男ににお嬢様口調をする価値もないと判断し、すぐに文句を言ったが、残りの三人がそれを掻き消すように愛理へ群がっていけば口裏合わせしたかのような連携プレイの動きをしては、こちらに対して接近禁止令のように男の壁をを作り上げていく。
「じゃあ学校に行こうか、愛理くん」
「ち、ちょっと愛理!」
「じゃあ僕が車道側歩くので、愛理先輩は僕の隣に歩いてほしいです!」
「愛理~!」
「あまり横に広がっちゃダメだよ……」
「あ・い・り!」
「おら行くぞ愛理」
「あ~い~り~!」
ダメだ。聞こえてないし、こいつら雅人以外身長もそこそこ高いから愛理の視界に私はもう入ることもできない。声を張り上げても向こうも図って会話を広げていく。そうして上手いこと協力した四人兄弟は愛理と登校イベントを無事達成。どんどん遠くなっていく天使と男どもの後ろ姿。それらを恨めしそうに睨む私は誰もいない閑散としたバス停で途方に暮れた。
「なにあいつら、思った以上に手強いじゃないの……」
私にどれだけ積極性があっても、あっちはその四倍だ。連携されたら手も足も出なかった。どうしよう、もうぐちょメモ路線はやめて、一人ずつ消していくデスゲーム化でもアリかもしれない。――まあ、それは仮の候補として置いといてっと。
「弱気になるな、私! こんなことでへこたれる場合じゃないぞう!」
社会人経験もないボンボンチェリーブラザーズめ、覚悟しなさい。こんなの序の口よ。
誰ひとり絶対に愛理と結ばれないよう、私は負けないし、何百回でも立ち上がって見せる。学校に着いたら、フルパワー全開でいかせてもらうから――!
そんなことを四人兄弟の背中に刻むよう、しっかりと怨念付きで送れば、私も後ろに続いて学校へと歩き始めたのであった。