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悪役令嬢になったんで推し事としてヒロインを溺愛します。  作者: 273
ルート4 憧れのあの子とホテルに行こう!
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かかってこいナンパ師!彼女を守れるのは私だけ!

 オトコ、キエロ、オトコ、コロス……アイリ、マモル……。


 番犬並みの威嚇オーラを振りまいた効果は抜群だったらしい。ナンパする馬鹿男はこれっぽっちも寄って来なくなった。健気な努力が実を結ぶのだと自分を称えて身を震わせていたら、愛理は何やら気になる物があったらしく、足を止めて一つの場所をじぃ……っと強い眼差しを送っていた。


 真剣に何かを見ている。何か欲しい物でもあったのかしら? そうだ、私が今日の記念として欲しい物を買ってあげればいいんじゃない?! 若林から渡された桃尻家特製のクレジットカードで! ……あっ、でもこの子、すんごい遠慮しちゃうタイプなのよね。買ってあげたとしてもかえって気をつかわせちゃいそう。あぁ~ん、でも愛理に貢ぎたい~! 貢がせてほしいぃ~!


 性的興奮を交えた鼻息を立てながら愛理と同じ方角へ両目をずらす。――と、そこにあったのは広いゲームセンターだった。ゲームの音なのか、人の声なのかガヤガヤと耳障りな爆音がここにいても足裏から響いてくる。あとゲーセン特有のなんとも言えない、伝えようのない臭い。


 ゲームセンター。偏見にまみれたイメージで申せば、二割は健全なファミリー層とプリクラ目的の女子グループ。残りの八割はDQNと陰キャの巣窟。生前の私ですら行くのを極力避けていたというのに……スラム街と等しい世界に、愛理は興味のある眼差しをひたすら送り続けている。あかん、あかんで愛理! これはなんとしてでも止めなければっ!


「ね、ねぇ……」


「今日の記念にプリクラ撮りませんか?」


「撮る!!!」


 言ってることが違うじゃねぇかと野次が飛んで、唾を吐き捨てられても、私は何度でも言う。好きな子からの誘いには勝てるわけがない。家宝になるかもしれない、プリクラの誘いだったらなおさら……勝てるわけないじゃない……っ!


 DQNだの陰キャだのボロクソに言っていたが、プリクラコーナーは基本ナンパ目的NGのため、男のみの立ち入りは禁止されている。おかげで周囲は女子ばかりということもあり、私は警戒することなく、なんと愛理と四回もプリクラを撮ってしまった。密閉、密集、密接の三密での時間は今日一番の性的興奮をしてしまった。撮り終えても全身がムラムラしているほど。


 それにしてもプリクラ界の加工事情は知らない間に著しく進歩していた。すっぴんで撮っても化粧加工をすれば、それなりに可愛く盛れてしまう。カラーコンタクトもしなくてもOK。デカ目の自然補正で量産型に大変身。世の男どもが簡単に騙されてしまう理由がよく分かるし、ちょっとだけ同情。


 愛理は現物とほぼ変わらない可愛さ。――に比べて私はいかにも加工! といった感満載で、盛りに盛れている。この差は何よ……? 撮ったプリクラを一瞬だけ目を通して鼻で笑っている隣で、愛理は大事そうにプリクラを財布に入れたかと思えば、


「こっ……今度は、制服で撮りに来ませんか?」


 照れ臭そうに、伏し目がちにして、小さな小さな声量でそう言った。


 それに対して私の視界にはこう映った。ギャルゲーでヒロインと会話をするときによくある画面モード。背景はゲームセンター。愛理は真正面に。それも両手を前に上品にきっちりと添えた立ち絵の状態。下辺りには「愛理:今度は、制服で撮りに来ませんか?」って文字が柔らかいフォントで表示されている。可愛すぎて抱きしめたいじゃなく、性的な意味で抱きたい。この天使は、どれだけ私を狂わすつもりなの?


「あなた、罪深い子ね……」


「へっ?」


「ただの独り言よ、気にしないで。制服プリ、すごくいいアイディア! 絶対にまた撮りに来ましょう! さあ、次はどうする? 喉とか乾いてない? ちょっとどこかで休憩にしましょうか」


 プリクラを撮ったのならもうゲーセンに用はない。もうDQNたちの巣窟。早くここを脱出して、カフェで休憩と頭で計画を立てながら歩いていれば、左側から激しい音楽が流れ始めた。爆音に釣られてうっかり歩くのをやめてしまい、二人そろって音のした場所に顔をやる。


「なんでしょう?」


「あー……音楽ゲームね……びっくりしたじゃない……」


 聞いたこともない音楽が早口で流れる音源元は、音楽に合わせてボタンを押すゲーム、世にいわれている音ゲーだった。音ゲーのある空間は大抵薄暗く、また近くにパチンコ台やカーレース系のゲーム台があったりと、DNQと陰キャが圧倒的に集中しているイメージで治安が悪いどうこうより、異空間のスペース。視野が狭い見方をして申し訳ないけれど、そうにしか見えないのよ。


 ……って、ボーッとしちゃいられない。今日はせっかく愛理とのデートなんだから、ナンパ師が寄って来ない間に立ち去らないと!


「なんだか音が大きすぎて難聴になっちゃいそう。行こ、愛理」


「待ってください。あそこでゲームしている人、三咲くんに似ていませんか?」


「ええ? スマホゲーム一択の三咲が? まさか見間違いでしょう?」


「でも、ここから見てもそっくりです」


「本当?」


 ふぅ、私といるってのに他の男の名前を出すなんてジェラシー感じちゃう。仕方ない。一応確認しておこうっと。


 ええと、グレーのパーカーにジーンズに黒のニューバランススニーカーで音ゲーをピコピコ楽しんでいるキッズが三咲? 横からしか判定できないけど、あれは推定年齢十代後半。照明も青く薄暗いから、似てるっちゃ似てる。少し近寄って白黒判断してみようじゃないの。


 まずは、そろりそろりと参ろう。そろり、そろり……え? 三咲? 赤い髪にイキりちらした風貌。絶対に、確実に三咲だわ、あいつ!!!



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