なにがきても準備オッケー!あの子が桃尻家にやって来る!
病人という立場を利用して、看病プレイってのもいいんじゃない? それがきっかけで愛が芽生えて一線を超えてしまったら……なーんて、気が早すぎにもほどがある。でもまあ、もしものときに下着も一流ブランドの最高級ラインのやつに着替えておいて、パジャマも新しいものにしておこう。
「まだかな、まだかなっ!?」
愛する人に会える。ハイになり、下半身はキュンキュン。そしてソワソワが止まらない。客人が来たら部屋に誰も入るなと伝えておいたから完全なる密室の二人。胸どころか無意識に体もはずんでベッドのこすれる音が部屋中に鳴らしていると……おやおや、なにやらローファーのヒール音が廊下から近づいてくる。
「失礼します。エリカ様、愛理様がいらっしゃいました」
キタ――ッ!
若林の言葉にすぐに手で前髪を整えては、はしゃぎまくっていた上半身をビシッと揃えて布団にスライドイン。待ち構えていませんよ、寝ていましたよ感の「どうぞ」を言えば、制服姿の愛理がおずおずと一歩、また一歩と入ってきた。
「こんにちは、桃尻さん」
「来てくれてありがとう愛理。忙しいのにごめんね」
「いえ全然。体調はどうですか? まだ熱とかありますか?」
「そうね。熱はあるけど、あなたの顔見てたら一気に元気になっちゃった!」
「あまり無理しないでくださいね。あとこれ、今日の授業でテスト範囲のこと言ってたのでノート作ってきました」
「うっそお!? わざわざ用意してくれたの?」
「はい」
そう言って愛理は鞄の中から一冊のノートを私に手渡す。中を軽くパラパラとめくれば、二日分の授業内容がまとめられては、赤いマーカーで解説や、蛍光色を使ってアンダーラインまで引かれており、下手な参考書より見やすかった。しかも普通のノートなのに、微かに花のいいかほりもするっ! なんで? もう分からないけど、とにかくしゅきっ!!
「うう、ありがとうね……感動して涙が……」
「ふふっ、喜んでもらえてなによりです。読みにくいときは遠慮なく言ってくださいね」
涙をボロボロこぼす私にドン引きどころか、白い前歯をチラ見させてニコリ。この瞬間に思った。前にいる松風愛理は、女神でも仏でもない。それらを遥かに超えた、気安く触れれば重罪に値しそうな儚くもなんとも言い表せない神秘的な存在だと感じてしまった。
たがここでアクシデント発生。今になって高熱のせいだろうか。今日の愛理は、これまた輝きを増している。視界も花火が打ち上げられたときみたいなパチパチが部屋の隅から飛んでいると不思議そうに首を曲げれば、激しい眩暈が襲う。心配をかけたくないからと最初こそ頑張って耐えていたが、それは逆効果となり、三分後には寒気と眩暈と頭痛のトリプルパンチ。
やばい、これは吐けないタイプの気持ち悪さ到来。結構まずいかも……。
せめてさり気なく布団に潜ろうとしたけど失敗。少し頭を動かしただけでバランスを失い、後ろへ倒れてしまった。あと少し上に崩れていたら、ベッドの柵に頭部が直撃していたであろう。最悪の事態を免れたことにゾッとしつつも、先にこんな一部始終を見せてしまった愛理のことが気がかり。
「え、え、桃尻さん!? どうしよう、人を呼んできましょうか?」
つい数分前まで女子トークをしていた相手が急に唇を真っ青にして倒れたからプチパニックになっちゃうよね、分かる分かる。人を呼ぶのは正しい判断なんでしょうけど、この密室イベントを作り上げたのだから簡単に手放すなんてありえない。ピンチもチャンスに変えてやる。
「オホ、ごめんなさいね。私ったら睡魔に勝てずに横になっちゃった」
「す、睡魔? そうは言っても顔色がとてもじゃないですが、健康とはいえない色をしています」
「オホホホ! 今日のファンデは白く塗りすぎましたの!」
「ええっ!? 桃尻さん、具合悪くてもお化粧をしているんですか!?」
「もちのろんですわ! あまりにも退屈で、鈴木その子風メイクをしていたらこうなっちゃいましたの!」
「ほへーっ、すごい。美意識高くて尊敬します」
なわけないでしょ。この天然ちゃんめ☆




