座薬を入れたのは…?知られるわけにはいかない真実!
薬。意味が隠れている単語に私以外の全員が疑問に思ったであろう。視線が一斉に恵の方に向けられる。私は私で青筋を立て、鋭い目つきで睨む。
ばーーっかじゃないの?! 座薬プレイのことを皆にバラす気!? 「あれ、僕なにか変なことしちゃいました?」って顔するな、腹立たしい!
「薬って……?」
睦月の質問に咄嗟のフォローなんて出来ない。アホな恵はそこで気づいたのか、流そうと軽く笑ったが、誤魔化しきれていない。と、そこへ愛理が思い出したように口と目を大きく開いて、時を移さずに血の気を引いていく。
「あれ? 私、薬飲んだっけ? あれ? え? だってアレは、あの薬は、ざ――」
「あああー、思いだしたっ! そいや昨日、おかゆ食べた後に私達が帰ったら薬飲みますって言ってたよ! うん!」
座薬と言いかける前にスライディングで真っ赤な嘘を投入。私だけじゃフェアじゃない、あんたもこの嘘に乗っかれ! 恵にしか分からない角度で懸命な訴えを顔面に込め、連携プレーを求めた。
「うん、そうだったね。愛理くんは、ゆっくり薬を飲みたいと話していたよ」
よっしゃナイス! 上手いこと嘘に乗っかってくれた!
「そう、でしたか?」
お見舞いに来た二人がそんなことを証言したら信じるしかないのだろう。とすると愛理は目線を右上にして記憶を探しているようだが苦戦している模様。ありもしない事を言ったから、そりゃいくら辿っても出てこない。
「そうよ。高熱のせいで記憶が飛んでもおかしくないわ」
「確かに、あのときは頭がこうズーンとしてボーッとしてました。まさか記憶をなくすまでの風邪だったなんて……」
「うふふ、そんな日もあるある♪」
恵との連携の甲斐あって、上手く自分で座薬を入れたと思い込ませることができた。好きな子に嘘をついてデタラメな出来事を信じさせたことに罪悪感が揺れ動いた。それでも真実を知られるのとどちらがいいか選べと聞かれると、嘘をつくしか道はない。
「二人が来てくれなかったら、入院していたかもしれません。本当にありがとうございました」
「んもぅ、そんなことないわよ。治したのはあなたの力なんだから」
「いいえ。この風邪が治ったのは、桃尻さんと恵先輩がお見舞いに来てくれたからだと思っています」
どんぐりみたくクリクリした上目遣い、ツヤツヤのプルップルな唇、指通り良さげな毛先。それと私がハイヒールを履いているので身長差を埋めようと力いっぱい背伸び。感謝の気持ちが積載量オーバーして体に出ているらしい。
ほああ〜っ! 目の中に入れても痛くない。なんて可愛らしい存在なのだろうか。性的な意味でも、そうでなくとも……ううん、やっぱり性的な意味で抱きしめたい。場所は体育倉庫? それとも保健室? やだ、すっごい迷う。場所選びが結構肝なのよね。
「あれれ? パイセン、なんか顔赤くないですかぁ?」
「どうせキモいこと妄想してるんだろ」
「ば、バーロー! そんなわけないでしょうが!」
いかんいかんっと。もー、私ったらどうしてすぐに顔に出るかな? これは私だけの秘めた計画にしておこう。バレたら公開処刑の比べ物にならない制裁されちゃいそうだからね。――にしても、顔もだけど体が全体的に熱い。性におませな思春期だから一度ムラムラしたら収まりが効かないのかしら。青春だけに性春してる。ふぅ……。
このポジティブ気味のパッパラパー思考は長く持たなかった。三時間目の授業中にぶっ倒れたのを機に保健室へ運ばれ、三十九度の高熱を叩き出しては若林が迎えに来て無事に早退。
一日寝りゃ治ると浅はかな考えは一晩で吹き飛ばされ、次の日も自室のベッドでうなされている私だった。




