イケ!ススメ!二度目はない共同作業!
話はズレるが、私は座薬が嫌いだ。むしろ座薬が好きだという人間はいるのだろうか。無理やりこじ開けて入ってくる、なんともいえない吐き気を催しそうな異物感と、調整するかのようにに蠢く下半身の臓器や肉たち。たとえそれが自分で入れたとしても、慣れることはなかった。
そして今日、座薬嫌いである自分が人生で初めて座薬を挿入指示する権利に立たされた。相手は想い人。眠りについているので、暴れたり、よっぽどのことがない限り手元が狂って傷つける心配はない。全ては――この桃尻エリカの下す言葉にかかっているのだ。
「薬は渡しました。このまましっかりと握ってください。穴はすぐそこにあります」
「了解」
右よし、左よし。後は座薬を発射するだけ。空を操縦するパイロットはこんな気分なのだろうか。失敗は許されない緊張感が恵にもひしひしと伝わっていたようだ。
「大丈夫、君ならできるさ」
ニッコリと唇の両端を上げて笑った。勇気づけようと投げられた言葉を適当に受け流しては、肛門の動きを見る。
愛理が息を吸うとき、ごくわずかだが肛門も閉じかかって、吐くと今度はその穴が若干広がる。このように肛門は呼吸に連動している。だから息を吸って肛門がしぼんだ瞬間を狙って座薬を打ち込もう。
「最終確認です。私が今と叫んだら座薬を持った右手をストレートに、一直線に伸ばしてください」
「分かった」
恵は私を信じた。それに応えるように私も恵を信じた。
ヒクヒク動く穴を一点集中して見つめて――時は来た。
「今!!」
ワンルームに気持ちよく響いた合図に、迷うことなく座薬が肛門に出陣した。これから死ににゆく侍が命が惜しいとは思わんぐらいの突き抜けさで。綺麗にはまり込んだ座薬は体内にズブズブ沈みゆく。まるで「I'll be back」なんで呟いているかのようだった。いつしかそれは儚く消えていき、最後まで見るものではないと分かっていても何故かずっとずっと眺めてしまう自分がいた。
最後まで入ったことを確認をして、何事もなくミッションをやり遂げたことに安心感よりも、どっと疲れが押し寄せてきた。
「終わった……」
これは一日分の体力を消費した気がする。今は箸を持つ力さえない。




