部屋の中心で、愛を叫ぶ
食材を廃棄するのは心苦しいけど、こんな物騒なおかゆを愛理に食べさせるわけにもいかない。――ということで、おかゆを作るのは私に変更。恵には眠っている愛理を見守るように伝えておいたはずなのだが、愛理のところには行かずに私がおかゆ作る光景をずーっと隣で眺めていた。
うっわ、やりにくっ! なんで隣陣取るわけ? しかも無言で。せめてなんか言いなさいよ!
冷蔵庫から長ネギと梅干しを少々拝借。軽いトッピングとして、おかゆの上に刻んだネギと種のとった梅干しを添える。それを見た恵が感激を与えれらたといったような大歓声を上げた。
「なんて美味しそうなおかゆなんだ! 桃尻くんは手際がいいね。もしかして家でも料理をしているのかい?」
アホか。海外ドラマだったら「WOW!」とか言って頭を両手で挟む演出。
「まさか、していませんよ。掃除や洗濯や身の周りのことは、専属メイドが全てしてくれますので」
「それなのにこんな立派な料理を作れるなんてすごいよ。将来自立した立派な女性になること間違いなしだね」
「あはは、どーもー」
クリーチャー化にした男に褒められてもなんとも思えないんですけど。おかゆひとつでそんな感動覚えられるって、色々とおめでたい男ね。あんたのやり方が壊滅的におかしいのよ。
おかゆが出来上がった頃には、愛理も上半身だけ起こして、私の手作りだと分かると、驚きと喜びの反応を見せた。
「わわ、桃尻さんが作ったおかゆ、すごく美味しそう!」
「あなたも大袈裟ねぇ。ただのおかゆよ?」
「いえ、一人暮らしなので手料理自体が久しぶりで……あれ、なんだか涙が……」
愛理は話している途中にポロリ、またポロリと涙を落とした。彼女はまだ十代。親元を離れ、学業も家事も両立するのは疲労が溜まっていたのだろう。頑張り屋だから完璧にこなしたいと日々がむしゃらだったのではと思うと、私まで涙が……っ。
「あ、愛理……泣かないでっ、困ったときはお互い様じゃないのおぉ……っ!」
「ありがとうございます……」
「もぉ、お礼なんていいからもっとたよって、いいのよ……っ! 本当っ! なんて愛くるしい、そして愛おしく、私はあなたを守りたいのよおおおぉーっ!! んああああーっ!!」
「こらこら、気持ちは分かるけどボリュームを抑えないとね。近所迷惑だよ」
「ああーー!! 愛理、だいしゅきーだよぉー!!」
こうなれば立場が逆転。とっくに愛理の涙は止まり、次に私が泣きわめきながら愛を叫ぶ。ヒートアップしすぎて鼻ちょうちんを作り出したときに、すかさず恵が鼻の穴にテッシュを詰めてくれた。
ただ、泣き止む気配がないことにさすがにイラッときたのか鼻が裂けそうなほどカチコチに丸まったティッシュを入れられてしまい、空気を読んでそこで泣くのはやめにしておくけど、無性に腹が立ったので食器洗いとシンク磨きをさりげなく頼んだ。そのすきを見て愛理を独り占め状態へ。




