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悪役令嬢になったんで推し事としてヒロインを溺愛します。  作者: 273
ルート3  憧れのあの子を看病しよう!
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そんなの認めない!桃尻しか勝たん!

 どんちゃんと盛り上がる処刑法トーク。それもここまで。 


「はい、ストップ」


恵が手を叩くのを合図に三人は一斉に大人しく、長男様のお出ましといった感じに姿勢を正して恵の方にすぐさま顔を向けた。


「皆、よく聞くんだ。僕は、魔女狩りまがいのことをするために桃尻くんをここへ呼んだわけじゃないんだ」


 ここまで放置しといてようぬかすわ。突っ込みの代わりにパイプ椅子の下あたりが鳴る。


「僕はむしろお見舞いの件はいいことだと思っている。だから桃尻くんには今日、愛理くんのお宅に行ってもらえると嬉しいよ。彼女は家庭の事情で一人で住んでいるんだ。こんなときこそ、友達である僕たちが力になってあげなないとね」


「そう! そうよそれ! 分かってるじゃないですか! やー、さすがっす、恵先輩!」


 お見舞いのことを否定されずに寛容された辺り、これは自宅密室濃厚イベント待ったなし。あれやこれや膨らみかける妄想と一緒にテンションが上がってしまい、無意識に椅子から立ち上がって大声で叫ぶ。他三人は白けた眼差しをちょっとばかし見せ、恵はなんのリアクションも出さずに話を進める。


「とまあ、愛理くんが体調が万全に復活するまでメールもあまりしないでおこう。彼女は律儀な性格故に、携帯を離さず返信することに没頭しそうだからね」


「うんうんうんうんっ」


 はいはいはい、いいよいいよー! 長男である恵が連絡をとらないことを決めてしまえば、男たちに恋愛フラグが立つことはまずない! さっきはお見舞いをコソコソ計画立てる私に冷たくブチ切れてたと勘違いしてたけど、超いい奴じゃん? サイコパスって言ってごめんネ。


 恵推しに変わりつつなっている今、次に恵は最悪なことを言い出した。


「そしてここに二年生が夏休み前に行う林間学校のしおりがあるんだ。これは早起き桃尻くんが愛理くんへのお見舞いに行く口実を作るために、生活指導室で先生に正座をされるまで頼み込んだ、努力と根性のつまった代物さ」


 私の恥とも呼べる思い出を大暴露。強弱のないあっさりめの口ぶりであるが、馬鹿にしている物言いなのは隠しきれていない。これが魔女狩りもどきをするために呼び出していないと平和アピールをした者のすることか。さあ、こいつを袋叩きにしておしまい! ――みたいな燃料を投下したらそらもう……。


「うっひゃ~、パイセンってば必死すぎぃ~」


「そこまでして……」


「きっしょ」


「なにかきっかけがないと行けないってのがチキン入っていますよねぇ? ねぇねぇ、パイセ~ン?」


「普通に……行けばいいのに……」


「こいつに普通は通用しねぇだろ」


「あっはは、たしかにそうだ~!」


 新しいネタができて満足なのか雅人が中心となって言いたい放題。怒鳴りつけてもその後の対応が思いつかない。私は堪えて堪えて堪えまくって、下の唇を噛んでも、いじられ続けて羞恥心がポイント加算されていき――のときに、


「しおりを手に入れた桃尻くんはお見舞いに行くとして、僕も一緒に行こうと思っている」


「えぇ?」


「へ……?」


「は?」


 やはり兄弟。会話が止まるタイミングもピッタリでポカンとした一声に表情までも一致。


「おや、不満かい? でも桃尻くんが来る前に話していただろう。雅人はクッキング部の女の子たちから手作りクッキーをもらうから放課後は予定あるって。三咲は生活指導室に授業態度のことで呼び出されて、睦月は図書室の本の整理があるのだろう?」


「そうだけど……」


 兄弟でも恋敵だというのか。そう言われた睦月は俯き加減で小さく返事をすしたところ、雅人と三咲も足元を見つめた。他が予定ありなのは偶然か。それとも案外闇の根回なのか。


 それよか、お見舞いに一緒に行くとかなんとかほざく件に関してだ。そんなものは、有無を言わず断固拒否である。


「あのー、いいですか? 恵先輩は来なくて結構です。ちゃんと家は知っているので。あと女の子の家にアポなしに異性がお邪魔するのは非常識です。愛理も心の準備とか部屋の片づけとか色々あるでしょうし、絶対に迷惑だと思われるに決まってます」


「そうかい?」


「そうですよ。愛理へのお見舞いは私だけで行きますから。これだから男の人はデリカシーってものがないんですよね」 


「本当にそうかい?」


「しつこいです!」


 どんなことをしても折れないメンタルをアピールして一人でお見舞いを決行しようとする私に、またもや決定的なことが降りかかる。


「それじゃあ、間を取って多数決にしよう。桃尻くんを一人でお見舞いに行くか、僕と二人でお見舞いに行くか。残りの三人の意見を聞いてみよう」


 それ、全然間とれてないじゃん。――という当たり前な指摘はナシで。その二択を上げられた雅人たちは片方に満場一致。そこまで説明すると後は想像つくでしょう。


「放課後、よろしく」


 パイプ椅子に全体重を預け、うなだれている前に立つ悪魔は――薄笑いをしてみせた。

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