クッ、負けない!じめじめと追い詰められる公開処刑!
が、今一番すべきことは一刻も早くこの場からしおりを持って立ち去ること。いくら恵のおかげといえど、お見舞いの口実であるしおりを奪われちゃ全てがおじゃん。
「いやー、恵先輩が庇ってくれなかったら今頃処刑されていましたよ。ありがとうございました!」
ナハハとサリバンが聞けばまたも鬼になりそうな、おちゃけた笑い声をあげてはお礼を述べる。
「朝から大変だったね」
「本当ですよー! それじゃ私はこれで失礼しまーす!」
恵とは真逆にぐるっと体を向けてマジでダッシュする五秒前。私の逃亡劇を予知していたのか、私の脇腹に固く挟んでいたしおりを慣れた手でスッと引き抜いたのだ。
「ちょっと、なにするのよ返しなさい!」
「これは僕がお昼休みまで預かっておくよ。お見舞いに行くのはいいことだけれど、一人でコソコソと企むのはあまりよくないと思うんだ」
企むだなんて人聞きの悪い……っ。言っていることはめちゃくちゃだが、口調や顔や態度はいつも通りの人畜無害を散りばめていた。
「今日は外が雨だからお昼休みに生徒会室に来るといいよ。そこで皆とご飯を食べよう。そして話し合おう」
「話し合うって、まさかお見舞いの……っ」
「それじゃ後でね」
すぐさま私は嫌な予感を感じて、冷や汗を何滴も出しているのを恵は見ていたはずだというのに爽やかな別れの挨拶をしてスタスタと行ってしまった。
「クソッ逃げんじゃねぇ!」
人通りの少ない廊下に汚い独り言がこだました。
企んでいるのはどっちだ! 恵、あいつは私を助けたんじゃない。逆だ。私を踏み台に利用して、上手くいけばお見舞いに行けると嗅ぎつけた。そんであわよくば自分が愛理の看病をして一線を越えようとしている。絶対にそうだ、ヤンデレ監禁ルートの持つ男だ。これがきっかけでサイコパス化を早めてしまう危険性だってあるのだから。誰がなんと言おうとお見舞いに行くのはこの私、桃尻エリカよ。見てなさいサイコパス男。
燃えたぎる思いは消されることもなく、熱さを増して持続したまま迎えた昼休み――。
恵の言われた通りに生徒会室へ来たのはいい。入ってすぐに私はパイプ椅子に座らされてしまい、反対に三咲、睦月、雅人はふかふかの長いソファへ。恵に至っては社長が使いそうな大理石で出来た立派な机に美しい革が張られた椅子にお馴染みの碇ゲンドウポーズ。理解しなくとも、流れは私の尋問に入ろうとしている。空気を読まずに弁当を頬張りたいが、三咲のガン飛ばしが一段と強いのでそうはいかない。なるべく面に感情が浮かばないよう無のままで。そして絶対にお見舞いに行くといった強気の心持ちを忘れずにいれば勝利が掴める。
ひどい雨模様で薄暗い室内に生活指導室以上の緊迫に包まれる。そこで雅人が呑気にサンドイッチをかじりついては、
「恵にぃから聞きましたよぉ。パイセンは一人で愛理先輩のお見舞いに行こうとしたんですよね~?」
話の早いこと。弟たちには説明済みか。
「黙りこんじゃいましたけどぉ、なにか考え事ですか~? それとも何も話したくないとか~?」
質問すでに拷問に変わってると? 汚れが落ちにくいような、ねっとりとした喋り方。鼓膜がぞわぞわするったらありゃしない。
「そうだけど? 愛理はただでさえ一人暮らしなのよ。親友の風邪を心配するのは当たり前でしょう? なにか問題でもあるっての?」
「襲いに行くの間違いだろ」
「はぁ? それはあんたたちの方でしょ? 四対一で責めるように追い詰めるなんてまどろっこしい。そっちの方が数多いんだし、堂々とハッキリ言えば? 俺たちも行きたいでーすって。まっ、大勢で押しかけるのはどうかと思うから私一人で行くけどー?」
「すごい高姿勢……」
「うっわ~! ぬけがけしといて開き直りとかないですよぅ。恵にぃ、やばいって。縛ってもいいから抑えた方がいいよぉ!」
ピーチクパーチクわめく弟たちの意見を一通り聞き終えても判決を下すことなく沈黙を貫く。頭の中でなにか答えが出ているようなオーラを出してなお動じず。その他の三人はだんだんと恵のことを気にもとめないで、私をどう罰しようか様々な処刑法をあげていく。
「とりあえず僕は血マニキュア五本でいいと思うなぁ~! 睦月にいは?」
「え、僕……? うーん、シンプルに水責めとか……」
「お前何気にえぐいこと言うな」
「そうかな……? 三咲だったらなんて答えるの……?」
「ファラリスの雄牛」
「あ~はははっ! 王道~!」
冗談なのだろうが、無駄に拷問道具に詳しくて大盛り上がりするこいつらって……あたおかだわ……っ。




